シンカー:全般として、物価の下落要因がエネルギーや通信などのテクニカルなものが多く、上昇要因が需要超過とコスト増の基調の動きのものが多くなってきている。テクニカルな要因で物価上昇圧力は見えにくくなっているが、徐々に強さを増しているのは事実だろう。例えば、教養娯楽サービスの上昇幅が拡大し、家賃は2008年9月以来初めて下落が止まった。4月の新年度入り後に企業の価格戦略には変化がみられるようだ。景気不安があり売上高計画が下方修正される中で、売上高経常利益率が堅調なのは、価格の引き上げが寄与する部分が大きいからだろう。利益率の維持のために、値上げを迫られている企業が多く、物価上昇圧力が強くなっていく素地があることを示している。総賃金はしっかりとした拡大が始まっており、値上げが販売数量を減少させる弾力性は過去より低下しているとみられることが、売上高経常利益率の堅調さに表れているのだろう。2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略も広がることもあり、1%を上回る水準に上昇率が加速する可能性は十分にあると考える。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

6月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.6%と、5月の同+0.8%から上昇幅が縮小した。

エネルギーの上昇幅が、昨年の上昇の反動と今年の下落が合わさり、5月の同+3.7%から6月には+1.2%に大きく縮小したことが主要因だ。

政府が推進している家計の携帯電話関連費用の削減の方針を受け、まずは5月に携帯電話の価格が下げ始めた。

6月には携帯電話通信料が本格的に下落を始め、5月の同?4.3%から6月の同?5.8%へ、下落幅が拡大した。

一方、6月のコアコア(除く生鮮食品・エネルギー)は同+0.6%と、5月から変化はなかった。

人手不足による賃金上昇を含むコスト増と持続的に拡大する内需に対応するため、サービス産業では値上げが浸透してきているようだ。

教養娯楽サービスは5月の同+1.0%から6月には同+1.4%まで上昇幅が拡大した。

景気拡大と大胆な金融緩和などにより、地価の上昇が東京から地方都市へも波及してきた。

東京では、これまでなかなか上昇してこなかった家賃(帰属を含む)で、今後の物価の押し上げにつながってくる動きの兆候がみられるが、全国にも徐々に広がっていく可能性がある。

6月の全国の家賃は同0.0%となり(5月同?0.1%)、2008年9月以来初めて下落が止まった。

全般として、下落がエネルギーや通信などのテクニカルなものが多く、上昇が需要超過とコスト増の基調の動きのものが多くなってきている。

テクニカルな要因で物価上昇圧力は見えにくくなっているが、徐々に強さを増しているのは事実だろう。

4月の新年度入り後に企業の価格戦略には変化がみられるようだ。

4~6月期の日銀短観の大企業非製造業の売上高計画は前年比+1.4%(当社季節調整済)と堅調であるが、10?12月期の同+3.1%からは減速圧力がかかっている。

一方、4?6月期の売上高経常利益計画は+6.3%と、10?12月期の+6.4%からほとんど変化はない。

景気不安がある中で売上高経常利益率が堅調なのは、価格の引き上げが寄与する部分が大きいからだろう。

利益率の維持のために、値上げを迫られている企業が多く、物価上昇圧力が強くなっていく素地があることを示している。

総賃金はしっかりとした拡大が始まっており、値上げが販売数量を減少させる弾力性は過去より低下しているとみられることが、売上高経常利益率の堅調さに表れているのだろう。

2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略も広がることもあり、1%を上回る水準に上昇率が加速する可能性は十分にあると考える。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司