結果の概要:雇用者数は前月から伸び鈍化も、市場予想並みの増加、失業率は横這い

米雇用統計
(画像=PIXTA)

8月2日、米国労働省(BLS)は7月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+16.4万人の増加(1)(前月改定値:+19.3万人)と、+22.4万人から下方修正された前月を下回ったものの、市場予想の+16.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)並みの増加となった(後掲図表2参照)。

失業率は3.7%(前月:3.7%、市場予想:3.6%)とこちらは前月から横這いとなり、前月から▲0.1%ポイントの低下を予想していた市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率(2)は63.0%(前月:62.9%、市場予想:62.9%)と前月から+0.1%ポイント上昇し、市場予想も上回った(後掲図表5参照)。

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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

結果の評価:労働市場の回復持続も雇用増加ペースは鈍化

7月の雇用増加数は市場予想並みとなった一方、後述するように過去2ヵ月分が合計▲4.1万人下方修正された結果、過去3ヵ月の月間平均雇用増加数は14.0万人増となった。当研究所は今年の雇用増加ペースを10万人台半ばから後半と予想しており、足元では予想を若干下回るペースとなっている。もっとも、19年通年では16.5万人増と依然として予想通りのペースを維持している。

家計調査では、失業率が市場予想に反して前月から横這いとなったものの、7月も労働力人口の増加を伴う労働参加率の上昇がみられており、労働需給の改善は持続していると判断できる。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月改定値:+0.3%、市場予想:+0.2%)と、+0.2%から上方修正された前月に一致し、市場予想を上回った。また、前年同月比は+3.2%(前月:+3.1%、市場予想:+3.1%)と、前月から+0.1%ポイント上昇し、市場予想も上回った(図表1)。

米雇用統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

このようにみると、7月は過去2ヵ月分の雇用者数の下方修正によって雇用増加ペースがやや鈍化したものの、賃金上昇を伴う労働市場の回復が持続していることを確認する結果であったと言える。

事業所調査の詳細:全般的に雇用増加ペースが小幅に鈍化

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+13.3万人(前月:+15.0万人)と前月から伸びが鈍化した(図表2)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

民間サービス部門の中では、娯楽サービスが前月比+1.0万人(前月:+0.7万人)と前月から伸びが加速した一方、専門・サービスが+3.8万人(前月:+3.8万人)、医療サービスも+3.0万人(前月:+3.0万人)と前月並みの伸びに留まった。また、小売業は▲0.4万人(前月:▲0.7万人)と6ヵ月連続の減少となった。

財生産部門は前月比+1.5万人(前月:+2.9万人)となり、こちらも前月から伸びが鈍化した。製造業が+1.6万人(前月:+1.2万人)と、前月から伸びが加速したものの、建設業が+0.4万人(前月:+1.8万人)と前月から伸びが鈍化した。

政府部門は、前月比+1.6万人(前月:+1.4万人)とこちらは前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+0.2万人(前月:+0.3万人)と前月から伸びが鈍化した一方、州・地方政府が+1.4万人(前月:+1.1万人)と前月から伸びが加速した。

前月(6月)と前々月(5月)の雇用増加数(改定値)は、前月が+19.3万人(改定前:+22.4万人)と▲3.1万人下方修正されたほか、前々月が+6.2万人(改定前:+7.2万人)と、こちらも▲1.0万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲4.1万人の下方修正となった(図表3)。

なお、BLSの公表に先立って7月31日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+15.6万人(前月改定値:+11.2万人、市場予想:+15.0万人)と、+10.2万人から上方修正された前月改定値を上回ったほか、市場予想も上回った。この結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは10.4万人増、18年通年が13.4万人増となり、ADP統計も雇用統計同様、足元で雇用増加ペースが鈍化していることを示した。

7月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が27.98ドル(前月:27.90ドル)となり、前月から+8セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.4時間)と、こちらは4ヵ月ぶりに前月から▲0.1時間の減少となったほか、17年9月以来の水準に低下した。この結果、週当たり賃金は959.71ドル(前月:959.76ドル)と3ヵ月ぶりの低下となった(図表4)。

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家計調査の詳細:労働力人口は3ヵ月連続増加、労働参加率は2ヵ月連続で上昇

家計調査のうち、7月の労働力人口は前月対比で+37.0万人(前月:+33.5万人)と3ヵ月連続の増加となった。内訳を見ると、就業者数が+28.3万人(前月:+24.7万人)増加したほか、失業者数も+8.8万人(前月:+8.7万人)増加した。一方、非労働力人口は▲18.3万人(前月:▲15.8万人)と、こちらも3ヵ月連続の減少となり、職探しのために労働市場に再参入する人数が増加していることを示した。

この結果、労働参加率は63.0%と2ヵ月連続の上昇となった(図表5)。もっとも、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は82.0%(前月:82.2%)と、こちらは前月から▲0.2%ポイント低下した。男女の内訳では男性が88.9%(前月:88.7%)と前月から+0.2%ポイント上昇したものの、女性が75.3%(前月:75.9%)と前月から▲0.6%ポイント低下し、全体を押下げた。

前述のように失業率は前月から横這いとなったものの、労働力人口が3ヵ月連続増加、労働参加率も2ヵ月連続で上昇しており、労働需給の改善は持続していると言えよう。

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7月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は116.6万人(前月:141.4万人)と前月から▲24.8万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも19.2%(前月:23.7%)と、前月から大幅に低下した(図表7)。一方、平均失業期間は19.6週(前月:22.2週)とこちらも前月から短期化した。

最後に、周辺労働力人口(147.8万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(398.4万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、7月は7.0%(前月:7.2%)と前月から▲0.2%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.3%ポイント(前月:3.5%ポイント)と、前月から▲0.2%ポイント縮小した。

米雇用統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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