地元に溶け込み地元を味方につける
築地場外市場をどのように盛り上げていくのか。大西氏らがまず取り組んだのは、プロジェクトの活動拠点として飲食店を場外市場にオープンすることだった。イベント運営が本業の同社では、当然飲食店経営は素人だ。にもかかわらずいきなり自分たちの店を開いたのは、それがプロジェクトの成功に不可欠だと考えたからだ。
「築地に会社があるとはいえ、場外市場からすれば〝外野〟の我々が、何を提案しても誰も耳を傾けてもらえません。一緒に場外市場を盛り上げていくためには、自分たちも同じ立場に立つ必要があると考えたのです。 店を持つなんて思い切ったね、とよく言われます(笑)。我々も場外市場のステークホルダーになったことで、地元の人たちとのコミュニケーションが取りやすくなりました。地元が主催するイベントに『一緒にやらないか』と声をかけられたり、相談を持ちかけられたりすることも増えています」
外から入ってきたからこそ、地元の人たちにはなかった新たな視点や発想が強みでもある。
「従来は場内市場に合わせて明け方から店を開け、午後2時頃には店を閉める飲食店が大半でした。しかし、市場が移転し、場外市場だけで人を呼び込んでいくには、時間軸を変えていかなければなりません。築地は銀座や汐留にも近く、新しい商圏としてのポテンシャルも高い。夜の築地をもっと盛り上げていくために、我々は夜を中心に営業する店を出したのです」
築地は外国人など観光客が多く訪れるエリアだが、大西氏らがまずターゲットに選んだのは、地元の子供たちだった。
「まずは地元に住む人たちが場外市場を好きにならなければ、このプロジェクトは長続きしないし、外部からも人は来てくれないと思ったからです。そこで近隣の小学校にお声がけをし、お父さんやお母さんが場外市場で働いているという小学生を場外市場に案内する『築地場外市場サポーターズツアー』を開催しています。地元で育ちながら、場外市場で買い物した経験のないお子さんは意外に多いんです。外国人観光客に交じって買い物したり、食事したりする経験は、お子さんにも親御さんにも好評です」
地域活性は誰が中心で進めるのかが課題
地域の魅力をPRし、観光客や移住者を増やしたい地方自治体は多い。しかし、そうした自治体が直面するのは、「中心になってプロジェクトを推進する人がいない」という問題である。
「地域に人を呼ぶために何かしたくても、誰がどう進めていくのかはどの地域でも課題なのではないでしょうか。我々は築地が好きで、自分たちがやりたいと思ったから勝手に始めました。この『やりたいからやる』ことが実はとても重要だと感じています。これがもし、『築地を盛り上げるためにイベントを企画してほしい』と依頼されたとしたら、クライアントありきの仕事になって、我々のやりたいことではなくなっていたでしょう。 例えば、町を盛り上げるために、地元の小学生がその町の魅力をポスターに描き、中学生がPRする。自分たちが中心となって発信することが重要で、その町に住む人の顔が町のブランドになると一番いいのではないかと個人的には思います」
地方自治体の予算の使い方にも「もったいないケースが多い」と大西氏は指摘する。
「地域活性化のための予算があっても、その町を元気にしたいと考える地元の人たちが使えているかというと、疑問です。承認を受けるための時間と労力がかかるため、結局は自分たちでお金を持ち寄って活動しているのが現実です。もう少し低い垣根で活用できて、町を元気にする活動に直結する財源にしていく必要があると思います。我々も、本来なら中央区の財源を使って、このプロジェクトを持続可能にするための施策を打ちたかったのですが、承認に時間がかかりそうだったので、自分たちで勝手にやることにしました」
そこで4月から始めたのが、「あなたの1杯が築地を元気にします」をキーメッセージに、ビールを飲んで乾杯するだけでこのプロジェクトを応援できる「築地乾杯サポーター」である。
「東京のクラフトビール工場と組んで、『築地クラフト』というオリジナルビールを作りました。場外市場の飲食店で注文すると、金額の一部がプロジェクトの運営費用に充てられる仕組みです。できるだけ多くの飲食店や利用者の方々に賛同いただき、継続的に築地を盛り上げていくための基盤を作れればと思います」