同じ不動産を個人か法人かで所有するのでは、最終的にかかる税金が異なることがあります。また、法人成りすることによって、銀行からの評価が高くなることもあります。
不動産投資を小規模で行うのであれば、個人として物件を買い進めていくケースが多いですが、将来的に5棟、10棟と規模を拡大していくことを考えているのであれば、法人で物件を所有することも検討すべきでしょう。個人事業主から法人成りするには、どのようなタイミングが最適なのでしょうか。法人成りのメリット・デメリットと合わせ、具体的な数字を参考にしながら考えます。
目次
1.個人事業主から「法人成り」を考えるタイミング
まずは、個人事業主から法人成りを考えるタイミングについて見ていきましょう。
法人成りを検討するケースでは、法人で所有するほうが税金の支払いが少なくなるというのが一般的な理由でしょう。
現在、日本の個人課税所得の最高税率は住民税も含めると55%です。
一方、法人の場合は資本金や所得によって税率が異なりますが、小規模の法人の場合、実効税率は30%弱です。
個人として物件を所有していることで55%の税金が課されている人は、小規模法人に物件の所有権を移転することで税金を25%程度下げられることになります。これが、個人事業主が法人成りを検討する主な動機です。
とはいえ、法人成りにはデメリットもあるので、メリットとのバランスを考えながら検討していくことになります。
では、具体的に所得税と法人税を比較して、課税所得がいくらを超えれば法人成りしたほうが得なのかを見てみましょう。
1-1.サラリーマン大家として課税所得900万円
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁 所得税の税率
区分 | 適用関係(開始事業年度) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
平28.4.1以後 | 平30.4.1以後 | 平31.4.1以後 | ||||
普通法人 | 資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | |||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | |||
上記以外の普通法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% |
出典:国税庁 法人税の税率(普通法人部分を抜粋)
会社に勤務しながらマンション経営を行っている人をサラリーマン大家と呼びます。サラリーマン大家は、給与収入と不動産収入を合算して課税所得を計算します。所得税と法人税の税率を比較すると、900万円を超えたら法人成りしたほうが節税になります。法人税の年800万円超の税率が23.20%に対し、課税所得では900万円を超えた場合の所得税率は33%に跳ね上がります。同じ900万円の課税所得なら10%程度法人税のほうが安くなるのです。
1-2.専業大家で不動産所得330万円
専業大家は個人事業主となり、サラリーマン大家に比べると給与収入がない分課税所得は低くなるのが一般的です。専業大家の場合は不動産所得が330万円を超えれば法人成りしたほうが節税になります。課税所得が330万円を超えた場合の税率は20%です。一方、800万円以下の適用事業者の法人税率は15%ですので、法人税のほうが5%程度安くなります。
さらに、個人の場合は住民税が所得割10%+均等割額4,000円が課税されます。法人住民税は、法人税で計算した所得金額に連動して課税されます。資本金1,000万円以下の会社の均等割額は都道府県民税が2万円(東京23区は7万円)、市民税が5万円です。
2.法人成りのデメリット
法人に物件の所有権を移すことで税金を減らせるケースを紹介しましたが、法人を設立することによって逆に税金が多くなってしまうことがあります。法人を設立すると何かと維持コストがかかるからです。法人を設立するための手順と、どのような費用がかかるのかを確認しておきましょう。
2-1.設立や維持のため費用がかかる
個人事業主になるときの手続きは簡単でしたが、法人になる場合には設立に関する書類や会社の印鑑を作成する必要があります。書類や印鑑に関する届け出は、以下のような手順で行います。
- 会社の定款を決めて公証役場で認証を受ける
- 法務局に代表印の提出や会社設立登記申請を行う
- 法務局に登記事項証明書を提出し、代表印印鑑証明書を取得する
- 税務署、都道府県・市町村税事務所、年金事務所、労働基準監督署、公共職業安定所、健康保険組合に会社設立届を提出する
- 金融機関に法人口座を開設する
株式会社と合同会社の設立にかかる費用は下表のとおりです。
費用項目 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
定款用収入印紙代 (電子定款では不要) | 4万円 | 4万円 |
証人に払う手数料 (定款の認証) | 5万円 | |
定款の謄本手数料(登記) | およそ2,000円 (250円/ページ) | |
登録免許税(登記) | 15万円または資本金額の 0.7%のうち高いほう | 6万円または資本金額の 0.7%のうち高いほう |
合計 | 約21~25万円 | 約6万円~10万円 |
出典:freee「会社設立の基礎知識」
個人で不動産を所有している場合、不動産所得が赤字であれば税金はかかりません。
しかし、不動産賃貸業を営む法人で、不動産所得が赤字となった場合でも、先に述べたように法人住民税は必ず発生します。
また、法人の確定申告は個人と比べて複雑です。自力で申告を行うことは難しいため、税理士に委託している不動産投資家は多いです。
委託する税理士や法人の規模により異なりますが、税理士費用は最低でも毎月1~2万円、確定申告時は申告代行手数料で10万円程度はかかるため、年間コストとしては軽視できない金額です。
さらに、法人の住所や名称などの登記情報を変更するたびに、登録免許税を支払う必要があります。変更登記の種類によって変わりますが、3~6万円程度かかります。
2-2.長期譲渡所得の優遇税制利用はできない
個人であれば長期譲渡所得の優遇税制を利用して節税する方法がありますが、法人はこの制度を利用することができません。
所得の種類 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
---|---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 30% | 0.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得 | 15% | 0.315% | 5% | 20.315% |
短期譲渡所得とは、売却した年の1月1日の時点で所有期間が5年以下の土地・建物を売却した場合の所得をいいます。長期譲渡所得は同じ時点で5年を超えて所有している土地・建物を売却した場合の所得をいいます。個人であれば5年以上所有することによって税率は約半分に減りますが、法人では一律短期譲渡の税率で計算されます。ただし、賃貸目的の所有ではなく、売却益を得るために短期で不動産売買を行う場合は法人でも不利はないので、デメリットはなくなります。
3.法人成りのメリット
法人成りすると、個人事業主のときに比べて有利になる点がたくさんあります。おもなメリットとして以下のような点が挙げられます。
3-1.使用可能な経費が増える
法人成りすると使用可能な経費が増えるメリットがあります。おもに以下のような経費を計上することができます。
1つは「役員報酬」です。法人になると自分を含めて家族を役員にして報酬を支払うことができます。役員報酬を1人で受け取る場合と、配偶者と2人で受け取る場合で手取り額をシミュレーションしてみましょう。
・1人で900万円の役員報酬を受け取る場合
900万円×33%-153万6,000円=143万4,000円(所得税)
900万円-143万4,000円=756万6,000円(手取り額)
・2人で450万円ずつ役員報酬を受け取る場合
450万円×20%-42万7,500円=47万2,500円(1人あたりの所得税)
450万円-47万2,500円=402万7,500円(1人あたりの手取り額)
2人合わせた手取り額は、805万5,000円-756万6,000円=48万9,000円多くなります。
もう1つのメリットは、社長や役員のために退職金積み立てを行えることです。積み立てた退職金は全額経費(損金扱い)になりますので、課税所得を圧縮することができます。
3-2.資金調達の手段が広がる
法人になると個人事業主のときより資金調達の手段が広がります。個人事業主のときは資金を調達するのは金融機関から借り入れることにほぼ限定されます。しかし、株式会社に法人成りすると増資によって資金を調達することができます。
また、銀行融資を受ける場合でも法人のほうが融資枠は広くなる傾向があります。法人は個人融資のように年齢制限はないので、会社が続いている限りいつでも融資を受けることが可能です。
3-3.融資の上限が高くなる
法人成りのメリットは、納める税金が少なくなる可能性があることに加えて、個人と比べて融資額の上限が高くなることです。
融資の上限は、個人の場合は「年収の30倍まで」というように年収が基準になることがほとんどです。年収1,000万円のサラリーマンであっても融資額上限は3億円程度であり、個人で5棟や10棟といった規模まで買い進めるのは難しいのが実情です。
一方で法人に融資をする場合、銀行はその法人の事業性を評価し融資の可否を判断します。その法人が毎年黒字を出し続けていて、設立後3年以上経過していれば、融資額の上限は特に設定されません。
5棟や10棟を所有していて、負債総額10億円以上という不動産投資家は、法人で買い進めているケースがほとんどです。
3-4.損失を10年間繰り越せる
単年度で損益通算しても赤字になる場合、何年かにわたって損失を繰り越すことができます。個人事業主が青色申告を利用して申告すると最大3年間まで損失を繰り越せますが、法人になると最大10年間まで繰り越しが可能になります。大きな損失があり、数年かけて繰越損失を解消するという方法ができる点では大きなメリットといえます。
3-5.決算月を任意で決めることができる
サラリーマン大家や個人事業主として確定申告する場合は、その年の1月から12月までの所得を翌年の3月15日(土・日・祝日の場合は次の平日)までに申告・納税することが決められています。一方、法人になると決算月を自社の事業に合わせて、任意で決定することができます。一般的には3月が年度末になりますが、多くの会社が集中するのを避ける目的でほかの月にする方法もあります。
このように法人成りすると、有利に経営できるメリットがいろいろあります。合同会社であれば10万円程度の費用で設立することができるので、法人設立のハードルは決して高くはありません。法人成りによって法人の維持コストが発生しますが、それ以上に享受できるメリットが大きい場合は法人成りを検討するといいでしょう。
ここまで法人成りによるメリット・デメリットについて見てきました。サラリーマン大家で900万円、専業大家で330万円という法人成りにするボーダーラインはありますが、節税の問題以外のメリット・デメリットも考慮して検討する必要があります。
事業規模を大きくするには法人成りは避けては通れない道でしょう。まずは個人事業主としてマンション経営を軌道に乗せ、事業所得の拡大とともに法人へと発展するのが理想的な形といえるのではないでしょうか。 (提供:YANUSY)
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