産業革命直前の1744年に英国ロンドンで創業し、現在も存続しているオークションハウス(競売会社)にいおいて世界で最も長いの歴史を持つサザビーズ。ニューヨーク、ロンドン、パリ、香港などの世界9カ所にオークションの会場を持ち、さまざまなジャンルの美術品をはじめ、時計、ジュエリー、骨董品といった70種類以上の出品物を取り扱っている。

年間で約250回も開かれるオークションでは、億単位の取引ばかり行われるイメージが強いが、実際は5000ドル程度の出品物もあり、手が届かない世界ではないことについては前回の第2回で触れた。

前回、そうした話から、実際に入札者・出品者となるための資格などについて詳しく語ってくれたのが、サザビーズジャパン代表取締役会長兼社長の石坂泰章氏だ。今回は、石坂氏インタビューの後編をお届けしよう。

前途有望な新人作家の作品を購入する意義や、著名人の所有物が高値で取引されている理由、美術品を購入する際の心構え、日本の美術品・工芸品の将来的価値などについて存分に語ってもらった。ぜひ最後までご一読いただきたい。

(取材・文 大西洋平)

有望作家の作品は未公開株以上のリターン?

サザビーズ石坂社長インタビュー
(画像=Courtesy of Sotheby's)

サザビーズで数々の大口取引を手掛けてきた石坂氏だが、実は18年間にわたって画廊を経営してきた経験を持つ。画廊には、既存の作家の優秀な作品を販売することに加え、将来有望な新人を発掘するという役割もあるのだ。後者はまさに“未来への投資”の感覚に近いとも言えよう。

「たとえば、ある新人の作品が10万ドルで売れたします。たいていのケースでは作家と画廊で折半するのが慣例ですから、5万ドルが作家の懐に入り、残る5万ドルが画廊の取り分となります。ずいぶんと粗利が大きい世界だと思われるかもしれませんが、人気が出ればともかく、鳴かず飛ばずのケースも少なくない、厳しい世界であるのも事実です」(※以下、カッコ内のコメントは全て石坂氏によるもの)

まだ株式が未公開のスタートアップ企業に投資するケースと同じようなイメージである。「このビジネスは伸びる!」と期待して創業当初から出資し、狙い通りにIPO(株式の新規公開)を果たせば、通常の株式投資ではなかなか得がたいキャピタルゲイン(値上がり益)を得られるのだが、前途有望な作家への投資はそれを凌ぐリターンにもなるかもしれない。では、どういう買い方をすればいいのか。