モチベーションを下げず、成長を続けるためには?
7月26日(金)、東京都中央区にて、「人生100年時代の戦略的人事構想会議」が開催された。第1回である今回のテーマは「企業戦略としてのミドル・シニアのキャリア開発」。法政大学大学院政策創造研究科教授で、人材育成やキャリアについて研究をしている石山恒貴(のぶたか)氏による基調講演のあと、同会議を主催する3社による各社の取り組みの紹介と、石山氏と3社によるパネルディスカッションが行なわれた。
総務省の「労働力調査」によると、2017年の時点で、労働力人口の52.2%を45歳以上が占めている。この割合は今後も増えていくと予測され、ミドル・シニアのキャリア開発が、企業にとっても、社会にとっても、大きな課題になっている。
今年5月には、政府が、希望者が70歳まで働けるようにするための法改正案の骨格を発表した。その中には、65歳以上の社員に対する、フリーランスで働くための資金提供、起業支援、NPO活動などへの資金提供を、企業に努力義務として課すという内容が含まれている。これらは、雇用ではない形で、一生働ける環境を作ろうという施策だと、石山氏は説明した。
そのうえで、雇用ではない形で働き続けるためには、個人として、それぞれの個性や強みを武器に働くことが必要だが、それができるミドル・シニア人材を企業が育てていない、と指摘した。
役割主義で社員を評価するとしながら、実質は年次で管理しており、55歳で役職定年を迎えると給与が下がり、60歳で定年再雇用になると、さらに給与が下がる企業が多い。そのため、55歳以降は「引退モード」に入ってしまい、社員が成長しようとしなくなっているのだ。
石山氏によると、実際に役職定年を迎えた人のうち20.7%が「マネジメントから解放され、今まで取り組めなかったことをやる気になった」そうだが、それよりも、モチベーションを低下させた人のほうが多いという。彼らがショックを受けるのは、給与が減ることよりも、会議に呼ばれなくなったり、届くメールの数が日に日に減っていったりすることだそうだ。
こうしたことを踏まえ、ミドル・シニア人材が成長し続け、躍進するためには、企業としては、裁量を与えて仕事を任せるとともに、自分自身の振り返りを促すことが重要であり、本人としては、自分の価値観を知り、職場や家庭以外のサードプレイスでも活動することが重要であると、石山氏は話した。
〔株〕ライフワークス事業企画部長の野村圭司氏は、働く本人がキャリアオーナーシップを持ち、自ら会社に対して手を挙げて、「役割創造」をすることが重要だと話した。役割創造を支援するため、同社は、公募ポストへの挑戦権を年齢で制限する制度の廃止など、企業へのコンサルティングを行なっている。
人事や教育のコンサルティングを行なっている〔株〕アクティブ アンド カンパニーの常務取締役・八代智氏は、役職定年制を廃止して役職任期制を導入する企業が増えていることなど、ミドル・シニア人材の躍進を支援する人事制度について説明した。
エッセンス〔株〕代表取締役の米田瑛紀(えいき)氏は、シニア世代は「管理職としてのマネジメント経験・実績」が他社に評価されると考えている一方で、企業側はシニア世代の「知識・スキル・ノウハウ・経験」を評価しているというギャップを紹介し、早い段階でこれに気づくことが重要だと指摘。同社は、「他社留学」など、社外活動の機会を提供しており、それを通じて社外から評価される経験をすることが自信につながり、成長を促すと話した。
パネルディスカッションでは、会場に集まった企業の人事担当者から、「役職定年で給与を減らすことは、どの程度なら不利益変更に当たらないのか」「定年を迎えた社員を再雇用するのではなく、個人事業主として契約することはできるのか」など、具体的な質問が相次いだ。
THE21編集部(『THE21オンライン』2019年08月01日 公開)
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