なめらかな営業トークで、顧客の反応も上々。それなのにふたを開けてみれば契約には至らなかった。そんな苦い経験をした人は多いのではないだろうか。失敗の要因はさまざまだが、一つには顧客の本音を引き出せなかったことが関係しているだろう。
営業の成果に直結するのは話し上手よりも聞き上手、さらに言えば「引き出し上手」だ。今回は顧客との対話で欠かせない質問のテクニックを解説する。
営業ケーススタディ(12)――日常に着想を得た新垣のひらめき
ある日突然、新垣理子(22)の勤める採用コンサルティング会社に中小企業を経営しているという40代の女性社長が訪れた。契約しているお客さまではなく全くの新規だ。事前にアポもとっていないという。
運悪く、対応できる社員は出払っている。新垣は意を決して、お客さまが待つ会議室に向かうことにした。
社会人1年目、不安はある。だが、もしうまく契約に至れば上司に認めてもらえるかもしれない。採用コンサルタントとして早く独り立ちしたい新垣にとって、ピンチであると同時にチャンスでもあった。
何としても一人でコンサル契約をとりたい――意気込む新垣だが、その熱意は吉と出るか、凶と出るか?15年目のベテランである先輩・及川圭佑(37)の解説も交え、スムーズなヒアリングを実現するための質問術を紹介する。
警戒している相手と心の距離を縮めるには?
「お待たせしてしまい大変失礼しました。採用コンサルタントの新垣と申します」
笑顔を浮かべ、きびきびとした動作で名刺を差し出す。これまで先輩コンサルタントのサポート役としてお客さま先を訪問していたため、新規のお客さまに一人で接した経験はない。内心緊張していたが、それを吹き飛ばすように新垣はあえて堂々と振る舞った。
40代の女性社長は、挨拶を交わしたきりこちらの様子をうかがうように黙り込んでいる。さて、まず何から話題にしようか。
(1)採用についてどんな悩みがあるか尋ねる。
(2)今年は採用を予定しているかどうか尋ねる。