要旨
2018年のタイ生命保険市場の正味収入保険料(返戻金控除前)は前年比4.3%増の6,170億バーツ(約2.2兆円)と、前年の同5.5%増を下回った。生保市場の拡大ペースは4年連続で一桁台の伸びに止まり、2014年頃までの二桁成長と比べて大きく見劣りする水準にある。この要因としては低金利環境や新しい会計基準の適用などから各社が消費者ニーズに応える商品を出せず、貯蓄性商品を中心に販売が伸び悩んだこと、また2018年の株価の弱含みによって逆資産効果が働いたことや高止まりする家計債務も販売の足枷となったと考えられる。
2019年上半期の収入保険料は前年比6.0%減となった。タイの生保事業環境は厳しさを増しており、各社が対応策を迫られている。低金利環境や新規制の導入などに伴い長期の保険負債を抱える生保事業の資本効率が低下するなか、所要資本の少ないユニット・リンク保険の販売を伸ばしている。こうした商品構成の見直しや販売チャネルの開拓、そして最新のデジタル技術を駆使したITシステム&サービスを展開することで他社との差別化を図るなど、各社が様々な取組みを進めている。
タイ生命保険市場は足元でマイナスに転落しているが、中期的にはプラスに回復するだろう。タイの年金制度は受給額が小さいうえに日本のような介護保険制度は存在しないなど公的支援が不十分である一方、少子・高齢化と医療費の高額化は着々と進んでおり、老後の生活に不安を抱く国民は増えている。年金保険をはじめとする退職準備関連商品や医療・介護保険の販売がこれまで以上に増していくものと予想される。