米国では、国防や教育関連予算などが含まれる裁量的経費について、毎年の予算編成によって歳出額を決めている。また、財政規律ルールである予算管理法(BCA)は裁量的経費の歳出上限額を定めているため、予算編成はこの制約を受ける。もっとも、議会はBCAを上書きする法律を超党派で成立することによって、歳出上限額を超える予算編成が可能となっている。

米国,2019年超党派予算法
(画像=PIXTA)

20年度(19年10月~20年9月)予算編成では、BCAに基づき前年度から2割程度の大幅な歳出削減が求められていたため、「財政の崖」(1)が懸念されていた。しかしながら、8月2日に成立した2019年超党派予算法(BBA)では、BCAが定める歳出上限額から、国防、非国防予算の合計で20年度は1,686億ドル、21年度は同1,529億ドル、2年度合計で3,215億ドル引き上げることが盛り込まれた(図表1)。さらに、BCAで歳出上限額の算入から除外される、「海外緊急事態作戦費用」(OCO)や「災害対策費」などの裁量的経費も20年度に820億ドル、21年度に770億ドル盛り込まれた。この結果、OCO等も含めた歳出上限の引き上げ幅は20年度が2,506億ドル、21年度が2,299億ドル、2年度合計で4,805億ドルに上った。このため、BBAによって21年度まで「財政の崖」は回避された。

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(1)「財政の崖」(Fiscal Cliff)は、元々バーナンキ元FRB議長がブッシュ減税の期限切れに伴う実質的な増税と、BCAに基づく大幅な歳出削減の相乗効果によって米国景気が崖から落ちるように悪化する状況を表現したものだが、本稿のように前年度から歳出が大幅削減される状況に対しても当該表現が用いられる。

米国,2019年超党派予算法
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、BCAは、元々金融危機後に景気対策などで財政赤字(GDP比)が一時10%近い水準まで拡大したことを受けて、財政規律強化の仕組みとして2011年に施行された。BCAは10年間で合計2.1兆ドルの歳出削減を目指し、12年度から21年度まで裁量的経費の歳出上限を定めていた。

しかしながら、議会は、BCAが施行されて以降、累次に亘って超党派予算法を成立させ、歳出上限や、歳出上限に算入されないOCO等の予算を計上してきた。実際に、12年度以降の歳出額をみると、12年度と13年度を除いて歳出上限額が引き上げられているほか、該当期間の全ての年度で歳出上限に参入されないOCO等の予算が計上されてきたことが分かる(図表2)。この結果、BCAは11 年の施行以来、一度も遵守されないまま、その役割を終えることとなった。

米国,2019年超党派予算法
(画像=ニッセイ基礎研究所)

米国の財政赤字(GDP比)は18年度が▲3.9%となっており、金融危機後の水準に比べて低いものの、15年度の▲2.4%から上昇基調が持続している。また、減税や歳出拡大などの放漫財政により10年後の29年度では▲4.5%まで拡大することが見込まれている(図表3)。一方、債務残高(GDP比)も金融危機前の4割程度から18年度は8割弱となっており、およそ2倍に増加した。さらに、29年度には95%と戦時下を除くと米国史上最高水準となることが見込まれており、今後も財政状況の悪化が続く見通しとなっている。

米国,2019年超党派予算法
(画像=ニッセイ基礎研究所)

BCAは遵守されてこなかったものの、予算編成作業で歳出上限が意識されてきたことから、一定程度財政規律に貢献してきたと考えられる。BCAは21年度で期限切れとなるため、22年度からは財政規律の制約は存在しない状況となる。今後も財政状況の悪化継続が見込まれる中で、BCAの後継となる実効性のある財政規律ルールの導入が求められる。

窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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