令和元年、働き方や資産形成術・成功の定義など、あらゆるモノ・コトが大きな変革にさらされている。激変の時代をどう生き抜くべきなのだろうか。

9月21日、『資本主義ハック お金と人を巻き込めば人生は100倍思い通りになる』(SBクリエイティブ)の出版を記念し、著者の冨田和成(ZUU代表取締役)と『アフターデジタル』著者であり世界を飛び回るIT評論家の尾原和啓氏のオンライン対談が実現。対談の内容を、全3回にわたってお届けする。

クラウドファンディング、シェアリングエコノミー、フィンテック。変化の激しい時代において、個人が資本主義のルールの中で勝ち抜く術とは?

令和時代の資本主義必勝法
(画像=ZUU online編集部)
冨田和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役。神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。金融経済メディア「ZUU online」を含む資産運用の総合プラットフォーム運営、月間訪問者数は650万人を超える。2018年6月、設立約5年で東京証券取引所マザーズ市場に上場。著書に『鬼速PDCA』『営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて』(クロスメディア・パブリッシング)等。最新刊に『資本主義ハック』(SBクリエイティブ)。
尾原和啓(おばら・かずひろ)
京都大学大学院で人工知能を研究。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、NTTドコモのiモード事業立ち上げを支援。その後、リクルート、Google、楽天(執行役員)などで新規事業や投資に従事。経産省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー等を歴任。シンガポール・バリ島を拠点に人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディションに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。新刊:『アフターデジタル』 公式ツイッター:https://twitter.com/kazobara

『資本主義ハック』のテーマは、非連続的な成長

尾原和啓氏×冨田和成対談#1
(画像=ZUU online編集部)

尾原:冨田さんの『資本主義ハック お金と人を巻き込めば人生は100倍思い通りになる』はかなり野心的な内容だなというのが感想です。

前著『鬼速PDCA』は、一つの習慣を生活の中に取り入れると自分の成長速度が変わる、という連続的な成長がテーマだった。それに対して今回は、レバレッジ効かせまくりの非連続的な成長がテーマ。

「読者はついてこれるのか?でも、ついてこれたらヤバイ!」という目新しさに満ちた本。冨田さんはどんな狙いで、今回の執筆に至ったんですか?

冨田:狙いというか、「お金をコントロールすることで、誰もが全力で夢に挑戦できるようにしたい」というのが私の想いです。

この5年ほどで資本主義批判が一気に加速したのではないかと思います。個人的にはそれが寂しいというか、不思議に感じています。批判したところで、現実が資本主義なのは変わらないのに、と。そこでプレイするなら、資本主義のルールを理解し、効率的に活用するのが成功への一番の近道です。

ゲームで成果をあげようと思うなら、資本主義のルールに則って、お金をコントロールする=資産をコントロールすることが大切。資本主義を前向きにとらえれば、今はものすごく可能性に満ちた世の中です。一人一人が夢や目標に思いっきりチャレンジできる時代。資本主義に抗うのではなく、前向きにとらえて自分の人生に活かそう、というメッセージを込めて今回の本を書きました。

資本主義ハック
『資本主義ハック 新しい経済の力を生き方に取り入れる30の視点』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

勘違いしている人も多い、資本主義というゲームの攻略法

尾原:資本主義ハックという言葉に、冨田さんの想いが詰まっていますよね。資本主義社会である以上、資本を使って勝つことがゲーム攻略の最短ルート。それなのに、「時間をお金に変える」という戦い方をしている人がほとんどで、資本に働いてもらうという発想は浸透していない。

資本主義社会という言葉を読み解けば、「自分で働くのではなく、資本に働いてもらう」ことが成功パターンだとわかるはず。答えが書いてあるのに誰も使わない、本当に不思議な時代だと思います。

成功したいという人には、「資本を使った戦い方、してますか?」と問いたい。

冨田:冷戦が終わるまでは、共産主義が世界共通のルールになる可能性もありました。しかし、冷戦終結とともに資本主義が勝つ形で落ち着きました。その後は、リーマンショックが起ころうが欧州危機が起ころうが、ベースは資本主義です。

尾原:資本主義と共産主義の問題は結局のところ、私有財産を認めるか否かですよね。

国や団体が資本を持ってレバレッジをかけた方が効率的なのでは?という試みが共産主義だった。だけど結局は、個人が競争的に資本を活用した方が、競争社会の中で色んなやり方が生まれる。その方がずっと効率がいい。それなら私有財産を認め、私有財産の中でレバレッジをかけた方がいい。これが資本主義に帰着した流れだと思います。

冨田:今は特に、個人の資本にレバレッジをかけやすい時代です。シェリングエコノミーやクラウドファンディングなど、個人の資本を細かく切って、色んな人から資本を集められるようになりました。

ひと昔前は、国家や企業という単位が、資本主義社会で戦うのに適していた。でも今は、個人が戦いやすい時代。個人が資本主義にチャレンジしやすくなったのは、ここ最近の大きな変化です。

尾原:よく「資本主義の終わり」といわれるけど、それは勘違いだと僕は思っています。正しくは、「金融資本主義の限界が見え、他の資本主義を模索する時代」ではないかと。

平成は、金融資本主義が行き過ぎた結果、貧富の差が激しくなり、多くの人が副作用を浴びました。これから先は、金融資本主義はある程度コントロールしながら、「金融だけが資本ではない」ことに目を向けていくべきです。

資本主義を理解するための、資本の4つの分類

尾原:『資本主義ハック』では、金融以外の資本についても詳しく触れていますよね。

冨田:拙著では、資本を人的資本・金融資本・固定資本・事業資本の4つに分類しています。

今まで資本主義というと金融資本のイメージが強く、それが資本主義への批判につながっていると思います。金融資本だと、中心となるのは株式市場や債券市場などトレーディングの世界です。商品やサービスを生むのではなく、金融の中だけで回転させている。そうやってマーケットを膨らませて崩壊させ、無関係な個人にしわ寄せがくる、というイメージが批判される原因かと。

尾原和啓氏×冨田和成対談#1
(画像=ZUU online編集部)

しかし、金融資本は資本のほんの一部でしかありません。たとえば固定資本は、シェアリングエコノミーの台頭で大きな変化を迎えています。

固定資本とは、簡単にいうと手で触れることができるものです。土地や建物などの不動産、車などの動産、その他所有しているものすべてが含まれます。

シェアリングエコノミーは、固定資本を細分化して貸し出す仕組み。今までは、不動産を買うとしたら住むか貸すかの二択でした。しかし今は、「買うけど週末は使わないので人に貸す」「一部屋だけ人に貸す」「駐車場を日中だけ人に貸す」といった選択肢を自由に選べます。

以前は固定資本を買って売るという流れしかありませんでした。しかし今は、買って利回りを生みながら将来的に売ることが可能です。固定資本が利回りを生みやすくなったのが、大きなトレンドの変化だと思います。

尾原:「貨幣経済から信用経済へ」というけれど、それはあくまで限定的な見方で、すべての有限資本がレバレッジを効かせやすくなったというのが真実だと思う。信用といった人的資本も、固定資本も、また人的資本や固定資本に基づいた事業資本も、レバレッジを効かせれば個人でも大きな利益を出せる。

Airbnbなどのシェアリングエコノミー、メルカリなどのサーキュレーションエコノミー(二次売買)など数えきれないほど事例があります。

「保有から利用へ」といわれるけど、これも逆もあるのだと僕は思います。保有しながら使わない分を貸し出すことで、レバレッジを効かせて利益を生む。利益を生まなくなれば、二次流通マーケットで売る。家や車などこれまでは稼いでくれなかった固定資本が、どんどん利益を生んでくれるのが今の時代です。

4つの資本の中でも注目したい、利回りの大きい「事業資本」

尾原和啓氏×冨田和成対談#1
(画像=ZUU online編集部)

冨田:ここまで金融資本や固定資本についてお話しましたが、人的資本と事業資本についても触れておこうと思います。人的資本は、能力やスキル、人脈と私は定義しています。個人の人的資本だけで10億円稼ぐ人がいるのが今の時代の面白いところです。

また、人的資本は企業の無形資産のようなものともとらえられます。企業買収で、「特定の技能を持ったテクノロジー集団=人材」を買う、と表現することがあります。人的資本を突き詰めれば、極端な話、預金残高がゼロでも生きていけるんです。

事業資本というのは、私が作った言葉なので耳慣れない人が多いと思います。事業資本という考え方に至ったのは、マレーシアのとある事業オーナーと交わした会話がきっかけでした。

当時、プライベートバンカーとして私は金融資本の債券ポートフォリオを提案しました。利回り10%超の提案で、他社の提案と比べてはるかに魅力的だと褒められました。しかし、「この5億円を自分の事業に投資すれば、30%の利回りを得られるから」とあっさり提案を却下されたんです。

事業資本とは突き詰めれば自社株であり、一般的には金融資本に分類されます。しかし、トヨタの株と自社株では資本としての性格は全く異なるんです。自社株は簡単に売却することができないため、流動性はほとんどありません。一方で、自分自身がしっかりコントロールすれば大きなリターンを見込めます。同時に、失敗すれば大きなリスクを背負い込むことになります。

一方、トヨタの株は流動性は高いものの、自分が関与して大きな影響力を発揮することはできません。こういった資本の性格の違いに気づき、事業資本という考え方を持つようになりました。

個人でも事業資本を扱える時代に

尾原:事業資本というと、今まで企業しか扱えないイメージでした。それが今は個人でも扱える時代になったと。

冨田:そうですね、たとえばスモールM&A市場では300万円、500万円から事業を買収できます。退職金で老舗のお菓子屋を1500万円ほどで買収し、退職後に事業を行うなんてことも自分次第で実現できるんです。クラウドファンディングなど、個人で事業資金を集められる仕組みも充実してきました。

尾原:孫(正義)さんは金融資本の天才に見えますが、実際は事業資本のレバレッジをかける天才だと僕は思っています。投資家に高い還元率を約束して資金調達をしても、事業の成長率が還元率を上回っていれば、十分成長していける。

とはいえ、孫さんのような事業資本の立て方は誰にでもできるわけじゃない。それでも、クラウドファンディングで個人が夢を追いかけられるようになった。メルマガやサロンなど、発信次第で自分の夢に協力してくれる人を集めることができる。

成功者の実例でいうと、キングコングの西野さんが思い浮かびます。クラウドファンディングでは約5億円の資金調達に成功し、サロン運営で毎月コンスタントに約2800万円が入ってくる仕組みを確立した。

一見人的資本に見えるけど、あれは事業資本です。彼という個人に対する投資ではなく、彼のやろうとしているまちづくり、夢づくりに周りが共感し、投資しているわけだから。

きちんと夢を語って、自分の夢に乗ってくれる人がいれば、かえって個人の方が事業資本のレバレッジを効かせやすい時代なのかもしれません。それでいうと、ホリエモンもいい例ですよね。

冨田:ホリエモンは、当時から事業資本のレバレッジのかけ方が天才的に上手い。

尾原:今は人的資本がクローズアップされますが、人的資本・金融資本・固定資本・事業資本の4つの資本がどれもレバレッジをかけやすくなった時代だと理解することが大切ですね。

冨田:その中でも特に、事業資本の可能性が大きいと私は考えています。

#2へつづく