『資本主義ハック お金と人を巻き込めば人生は100倍思い通りになる』(SBクリエイティブ)の出版を記念し、著者の冨田和成(ZUU代表取締役)と『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP)著者であり世界を飛び回るIT評論家の尾原和啓氏のオンライン対談が実現。対談の内容を、全3回にわたってお届けしている。
第2回のテーマは「時間」。人間にとってもっとも有限な資産である「時間」をうまくコントロールすることで、人生は劇的に変わる。しかし、「こうしなければいけない」という固定観念に縛られて時間に振り回されてしまっている人が多いという。当たり前の壁を超え、自分にとって大切なもののために時間を上手に使うにはどうしたらいいだろうか。資産家が実践する、思考のリミッターを外す方法を紹介する。
有限資産である時間をコントロールしよう
尾原:冨田さんと私が意気投合したのは「人がお金に振り回されるのではなく、お金を制御することで人生の目的を叶えやすくしよう」という意見が一致しているからです。人間にとっての一番の有限資産は時間。その時間に振り回されている人が多いと思うんです。だから、時間をコントロールするところに着目した冨田さんの視点はすごいなと。
冨田:元本の大きさや利回りももちろん重要ですが、利回りを生む期間が実は非常に重要です。多くの時間を投下できれば、その分利益も大きくなる。
この間、私の書いた「1日を240時間にできる?時間はお金で買うべきと言える理由」という記事がNewsPicksでバズりました。時間を確保する最もシンプルな方法は「誰かにやってもらうことを考える」ことです。
今は、時間を小さく切って売り買いしやすい時代です。だからこそ、記事内では徹底して自分の時間をアウトソーシングできるかを論じています。空いた時間は、大切な人と過ごすことに費やしたり、自分の人的資本を増加させることに投下したりできます。
尾原:冨田さんの記事にもあった「資本の大きさ×利回り×時間=リターン」の方程式を理解していても、自分の時間をアウトソーシングしている人は意外と少ないです。
マッキンゼー時代に死ぬほど言われたのが、「クライアントに対してバリュー最適化してる?」という台詞。30分相談すればわかることを、10時間悩んで解決策を出したとしたら、なぜ相談しなかったんだと怒られる。当たり前なんだけど、これを日頃から意識するのは難しい。徹底的に時間の最適化を叩き込まれるのがマッキンゼー流。
もう少しゆるやかなやり方でいうと、ガイアックスのアウトソーシング予算は面白いと思う。ガイナックスでは、アウトソーシング予算が一人一人に割り振られ、それぞれが自分の業務を効率化しアウトソーシングを活用する機会が与えられている。
「本当に自分にしかできない仕事なのか?適切なクラウドソーシングを活用できているか?」を毎月問われる仕組み。定型化し、人に依頼できる仕事はないか、振り返る機会を持てる。本当に自分にしかできないことに向き合い続ければ、全体の生産性は上がる。
3時間以上かかる仕事はアウトソーシング
冨田:ZUUでは「3時間以上かかる仕事は外に出すことをまず検討しよう」という方針を掲げています。そうすることで、メンバーはより価値の高い仕事に専念し、PDCAを回すことに時間を割ける。
経営者勉強会で「KPIの未達が解消しません」と相談を受けることがよくあります。解決しない原因は、多くの場合「何に何時間かかっているか把握していない」ことです。KPI(結果指標)ではなく、KDI(行動指標)の話ということがほとんどなんです。
KDIが動かなければ、KPIが達成されるわけがありません。一つ一つの行動にかかる時間を見える化し、アウトソーシングも含めてまずはKDIを見直すことが大切です。
尾原:リクルートもKPIとKDIを分けるという考え方を明確に打ち出しています。日次で追うのはあくまでKDIで、行動量を最大化することに注力する。週次で行動量が質を担保しているかを考える。月次で、KPI達成のためにそもそもKDIが見合っているかを検討する。この三重のループを回すのがリクルート流。
リクルートが編み出した最強の営業マンを作るループが、個人でも活用できるのが今の時代です。KPI・KDIの考え方と見直し方を装着しているかどうかで、達成できる成果が大きく変わる。
以前、自分の仕事をインドにアウトソースして退職させられた会社員の話がありました。本来、彼は称賛されるべきだと僕は思います。効率よく開発できるところを探し、自分の給料より安く依頼してマネジメントしていたわけだから。レバレッジをかける発想を柔軟に受け入れることが、これからの会社に必要な考え方だと思います。
冨田:会社と個人の関係も、今後は変わっていくでしょうね。会社から1000万円で仕事を受け、500万円で外注し、自分はディレクションのみという形もありだと思います。
尾原:時間を買うことは今の時間効率をよくすることだけじゃなく、将来の自分の成長を買うことにもつながります。レバレッジをかけることは、ある意味バランスを崩すこと。だからこそ、「何を本当に大切にするか」という芯を明確に持っておくことが重要です。
時間を分解していくと、本当に大切なものが見えてくる
尾原:今はどの資産にもレバレッジを効かせやすい時代。だからこそ、『LIFE SHIFT』著者であるリンダ・グラットン氏が説く3つの資産の考え方を知るべきだと思う。リンダ・グラットン氏は、資産を生産性資産・変身資産・安心資産に分類しました。
生産性資産とは、一部の人的資本や事業資本のことで、スキルや知識、ノウハウを指す。生産性資産によって、生産性や所得、キャリアを向上させることが可能。
変身資産とは、変化に対応する考え方や姿勢、ネットワークを指す。変身資産の有無によって、次の自分に飛び立てるかどうかが決まる。
安心資産とは、アンカーになる場所。自分を不安定な中に追い込むには、安心できる場所を持っておくべきだというのがリンダ・グラットンの考え方。僕はこの安心資産という考え方をきちんと持っておくことが大切だと思う。
冨田:「1日を240時間にできる?時間はお金で買うべきと言える理由」の記事に対しては、批判コメントも多数寄せられました。「そこまで時間を効率化して人生楽しい?」「料理や家事を時間の無駄だと言っているの?」といった批判がありました。
もちろん、料理や家事の時間を無駄だと言うつもりは私にはありません。私は、5年後に夢を実現したいと考えている人に対して、「効率化すれば2年半でできるのでは?」と提案したいんです。
たとえば、「家族との大切な時間」とひとくちにいっても、「料理している時間」なのか「子どもとおしゃべりする時間」なのか、細かく区分することで自分にとって大切な時間が見えてきます。
たとえば、おいしいと喜ぶ家族の顔を思い浮かべながら料理するのが自分にとってとても大切な時間なら、それは全く削る必要はありません。だけど、時間を細分化しリスト化してみると、本当に自分が時間を使いたいところに意外と時間をかけられていないことに気づきます。
「料理している時間」より「子どもとおしゃべりする時間」を優先したいなら、時間の使い方を工夫することで望みが叶うかもしれません。場合によってはアウトソーシングを活用した方が、自分が本当にやりたいことを人生でたくさん実現できることもあるんです。
時間の解像度を高くして細分化し、自分にとって本当に大切なものを追求する。それが私の伝えたいメッセージです。
幸せを掴むために「当たり前の壁」を超えられるか
尾原:「今やっていることリスト」と「やりたいことリスト」があって、その中で何を削って何を足すかという実は非常にシンプルな話。今の時代、「思考停止しないこと」が大切なんだと僕は思います。本当に必要かどうかを自分に問いかけ、必要でないものはアウトソーシングを活用する。
冨田:私たちは無意識に選択肢を狭めてしまいがちです。「必要ない」と思って選択肢を意識的に外す場合もあれば、そもそも選択肢を知らないがために、結果的に切り捨ててしまっている場合もあります。「1日は24時間しかないから」とあきらめていたことも、10時間のうち8時間分をアウトソーシングすれば、実現できるかもしれません。
選択肢が増えて実現したいことが増えれば、人生の幅が広がる。誰もが自分が本当に熱くなれるものに出会い、生き生きと過ごす。そんな社会を考えると、楽しくなってくるんです。
尾原:『資本主義ハック お金と人を巻き込めば人生は100倍思い通りになる』を活かせるかどうかも、「当たり前の壁」を超えられるかどうかにかかっていると思います。
「こうしなければいけない」という固定観念に縛られている人が世の中には多い。たとえば、ZOZOの田端さんは3分間でお弁当を完成させる。
だけど一部のお母さんは、冷凍食品を使うことが手抜きに思えて、自分を責めてしまう。根拠のはっきりしないやましさの壁に阻まれ、行動を変えられない。本当は、浮いた時間で子どもに本を読んであげることのほうが親子にとって幸せなことかもしれないのに。
固定観念の壁を破るには、思考のリミッターを外すしかない
冨田:『資本主義ハック お金と人を巻き込めば人生は100倍思い通りになる』の第一章では、そういった無意識のリミッターを外す方法について触れています。
私は月に1回、一人で海の近くのホテルに泊まってマインドマップに思考を書き留めることを実践しています。その際には、半年後・一年後に今の10倍の成果を出すにはどうしたらいいかを書き続けます。
10倍という大きな目標を掲げることで、「これとこれを組み合わせたら?」といったアイディアが次々と浮かび、発想が柔軟になる。書き出すうちに、自分のリミッターが外れる瞬間があって、選択肢の幅がぐんと広がるんです。
尾原:ちなみに、冨田さんがリミッターを外す重要性に気づいたきっかけは?
冨田:小さい頃にさかのぼるんですが、母親の影響が大きいかもしれません。私が「無理」と言うと、「無理なんて言葉はないの。あんたが無理だと思うからそうなの」と。私が「不可能」と言うと、「不可能なんてないの。あんたがやり切ってないからでしょ」と。
訂正されると自然とその言葉を使わなくなっていくんです。そのうち「無理じゃないとすると」「可能だとすると」と考え始め、チャレンジングな目標を持つようになりました。いつの間にか高い目標を持つのが楽しくなり、今に至ります。
10倍の目標で思考すると、2倍・3倍のことは達成できるという、実体験から得た学びもあります。
尾原:楽天で成長する人は、そういう発想を持つ人が多いですね。楽天では、10倍・100倍の達成目標を掲げる。そこで「そんなの無茶だ」と思う人と、「こんな面白いことはない」と思う人がいる。「無理」と言った瞬間に、人は思考を止めてしまう。でも「面白い」と言うと、何か探し出すのもまた人間。
尾原家で大切にしているのは、「すいません」を「ありがとう」に言い換えることと、「〇〇が悪い」を「〇〇はもったいない」に言い換えること。
ありがとうに言い換えれば、相手のいいところがわかり、コラボレーションしてもっとよくしていこうという発想になる。もったいないに言い換えれば、あなたと私で一緒に解決しましょうという発想になる。これはレバレッジをかける基本だと思っています。
「自分で働くのではなく、資本を働かせる」ことが資本主義社会の成功ルールだとわかっているのに、実践している人は少ない。この不思議現象を解決するには、リミッターを外すしかないんです。
#3につづく