『資本主義ハック お金と人を巻き込めば人生は100倍思い通りになる』(SBクリエイティブ)の出版を記念し、著者の冨田和成(ZUU代表取締役)と『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP)著者であり世界を飛び回るIT評論家の尾原和啓氏のオンライン対談が実現。対談の内容を、全3回にわたってお届けしている。
第3回のテーマは「アービトラージ」。株式や債券といった金融資本だけでなく、あらゆる資本が利益を生むのが今の時代だ。自分の夢や才能にレバレッジをかけ、賛同者を得て事業を興すこともできる。資産の増やし方が多様化した今、自分に合った方法を見極めるにはどうすればいいのか。ベストセラーの著者であり世界中のイノベーターとつながる二人の対談から学ぶ。
成功のポイントは、儲けが出る点を見極めること
冨田:インプルーブメント(改善)とイノベーションは異なります。ある程度まで地道な改善を続けた時、ここがアービトラージだと気づく。
アービトラージとは金融用語で、割安なものと割高なものの差分を見つけて利幅を出すことです。下がりそうなものを売り、上がりそうなものを買う。儲けの出る点を見極めることが成功のポイントです。
資本を増やすには、プラスをどう増やすか、マイナスをいかに減らすかが重要です。マイナス要因は、たとえば税金。日本の税制では、マイナスをいかに減らすかを考えた方が手残りへの影響が大きい場合も多々あります。
人的資本の年収を上げ続けると、所得税・住民税あわせて最高税率55%が適用されます。金融資本の場合、分離課税となるため税率は約20%です。そして法人税は、法人事業税等を含めた実際の税率は約30%です。どの資本で受け取るかによって、ここまで大きな差が出るんです。
少しマニアックな話になりますが、個人の自社株の比率が3%以上になると、配当の税率が変わります。3%未満なら分離課税が適用され税率は約20%ですが、3%以上だと総合課税となり、最高税率までいくなら55%が適用されます。そのため、3%以上は資産管理会社を設立して株式を移転し、そちらで受け取るといった方法があります。そうすれば法人税が適用されるため、税率は約30%です。
尾原:資本主義で資本に働いてもらうなら、複利効果を理解することも大切。年利5%でも、得られた利益を再投資すれば、10年で1.6倍と信じられない利益を生むことになる。
冨田:地味な話だけど、クレジットカードのポイント還元率も会社によって全く違う。これもある種の利回りです。
尾原:ブラックカードより利回りの高い会社はいくらでもある。見栄のためにブラックカードを使うより、きちんと還元率を検討すべきというのが僕の持論です。
冨田:クレジットカードのポイント還元は、ある意味元本保証の投資といえます。投資利回りで1%、2%を目指すのはすごく難しい。その点、クレジットカードなら切り替えるだけで、利回りを大きく変えられます。資本の利回りを変える手段は、身の回りに実はたくさんあります。資本の利回りをこれだけ検討できる時代は、これまでなかったのではないでしょうか。
尾原:1億円の資産を築けば、500万円の利息だけでも十分生活していける。400万円で生活すれば100万円貯金ができて、利回りはさらに増える。逆にいくら資産が多くても、利回りを超えて使えば資産は底をつく。だから利回りの感度はとても大切です。
レバレッジをかけやすい資産は何か?
尾原:今は、シェアリングエコノミーによりあらゆる固定資本がお金を稼いでくれる時代です。家、車やパソコン、ブランド製品、個人の能力などすべてにレバレッジをかけられる。僕はサブ著者業によって、主著者にブランドを移植している。最初は僕のブランドで多くの人が読み、発行部数が伸び、次は主著者の単著でも売れるようになる。人的資本は移植できる。一方で、「下らない」と思われればブランドに傷がつく。
冨田:今回の『資本主義ハック お金と人を巻き込めば人生は100倍思い通りになる』は、大学時代に読んだ『金持ち父さん貧乏父さん』のアップデートになっているのではないかと個人的に思っています。
「コップからあふれた水を飲んで生活する」というのが同書の理論。そして、資産がコップからあふれるところまで持って行く方法として、当時最もレバレッジをかけやすかった不動産が紹介されています。
その頃から、基本的なベースは変わっていないといえるでしょう。しかし、時代の変化によって不動産だけでなく事業資本の可能性がぐっと広がりました。背景には、起業コストが下がったこと、M&A、クラウドファンディングなどがあります。
拙著では、すべての資本をフラットに並べ、自分はどの資本を活用すべきか?どの資本を活用すれば、利回りが大きくなるか?を検討できるようにしました。
すべてのものが資本になっていく時代へ
尾原:すべてのものが資本として活用できるのが今の時代。これまでは土地や金などすぐお金に換えられるものが資本でした。これからは、すべてのものがつながり可視化され、すべてのものが資本になっていく。
僕の場合、「何か新しいことを教えてくれるだろう」という期待価値をレバレッジしている。西野さんの場合、自分の夢をレバレッジしている。では、「自分は何をレバレッジしよう?」と考えることが第一歩。
冨田:500万円を定期預金にするのか、500万円を頭金に2000万円の融資を受けて不動産買うのか、スモールM&Aで事業を買うのか。本来はフラットな選択肢であるべきです。
しかし、不動産会社や証券マンなど、それぞれの資本プレイヤーはあくまで自分の資本がいいと提案します。提案がぶつ切りになってしまっているんです。どの資本が自分に合っているか、見極める力は自分自身で養わなければなりません。
尾原:人ではなくて資本に働いてもらうことで、増えた資本をさらに再投資できます。不動産でお金を得たら、さらに不動産を買えます。
あらゆるものが資本となり、どんどん増えていく。箕輪さんの場合、追い詰められる自分であったとしても、編集という才能にレバレッジをかけている。僕の場合、表に出るのは好きじゃないので、裏方支援にレバレッジをかけている。
「時間を買うことで、何の資本を増やしたいか?」を自分に問いかけることが大切です。
レバレッジをかけるなら、周囲からの期待値をコントロールしよう
冨田:レバレッジをかけるなら、PER(=株価収益率)を上げることがポイントだと思います。株価はPERによって決まり、AIや地方創生などエッジのきいた分野だと、PERは上がりやすい。ただし、実態価値がついていかないとPERは下がる。
尾原:PERとは、利益に対して何倍の株価がつくかを指す指標で、わかりやすくいうと将来の可能性です。株価は今の利益に対して同じ倍率がつくわけではありません。将来成長すると思われれば、今の利益の何百倍の株価がつきます。日経平均は15倍から20倍くらいだけど、AIの株式だと2000倍の株価がつくことも。
この話を応用すると、自分のPERは何倍なのか、自覚的にコントロールすることが大切ということです。
冨田:PERを高めることは「できる」というイメージを持ってもらうことです。PERが高すぎれば、実態が追い付かず崩壊します。しかし、PERが低ければそもそもチャンスは巡ってきません。PERを高めることは、成長の機会を増やすことになり、結果的に実績がつきやすくなります。
孫さんの言う「できると言ってから考えよう」は正しいと私は思っています。必死で食らいつき、実態価値が追い付けば、どこに問題があるのかと。
4つの資本のうち、どれからスタートするのがおすすめ?
尾原:ここまで4つの資本についてさまざまな角度から述べてきましたが、これだけ資本の種類があると、何から手を付ければいいか迷う人も多いと思います。何から始めるのがおすすめか、冨田さんからみなさんへのアドバイスはありますか?
冨田:どれもラーニングコストが高いのが問題点ですね。勉強してからやろうと思うと手を付けないのが関の山です。かといっていきなり全財産をはたいて一つの資本に投資するのは危険。
私のおすすめは、全部の資本を少しずつでも持ってみることです。初めて株を買うと、株を買った企業の名前が街中で目につくようになります。そうやって関心を持つことが、ラーニングコストを下げることにつながります。少しずつでも資産を持って、値動きや利回りを見る癖をつけることが大切だと思います。
尾原:スモールスタートができる時代だからこそ、フラットに資産を持ってみて適性を判断するということですね。最後に、視聴者からの質問に答えたいと思います。
▼読者からの質問
思考のリミッターを外す方法として、毎月一人で合宿をするということでしたが、それ以外に思考のリミッターを外すために普段工夫していることがあれば伺いたいです。
冨田:高い目標を掲げて発信するのは、インパクトが大きいと思います。
私は「2038年に200兆円を目指す」という高い目標を掲げました。そうすると、嫌味っぽく「一体どうやるの?」と聞く人もいる一方で、「どんなプロセスで実現するの?」と興味を持って聞いてくれる人が必ずいます。質問に答えるうちに、自分の考えが整理され、アイデアをもらえます。
目標を発信することは、ブーメランのように周りに自分の目線を上げてもらうことにつながるんです。
尾原:人が驚くくらいの高い目標を掲げると、ネガティブフィードバックが増えます。でもその中に、きらりと光るポジティブなフィードバックが一個でもあれば勝ちだと思います。
西野さんは、「1万人に嫌われたおかげで100人の仲間がいる。声を小さくしたら、自分を嫌う人は100人になるかもしれないけど、味方は1人になる。その方が怖い」と言っていました。ありきたりだけど、変化の時代に変化しないことの方が怖い、と常々思っておくことが大切だと思います。
(『資本主義ハック』発売記念対談、おわり)