連載『中華圏富裕層の実態』では、香港で50年ぶりとなる金融機関「Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB)」を創設し、富裕層向けに資産運用をサポートしている長谷川建一氏が、中華圏富裕層の特徴について紹介していく。6回目のテーマは「中国人富裕層の投資トレンド」である。
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本国へ資金を戻しつつある中国人富裕層
前回までは、中華圏富裕層が利用する資産管理や資産承継の仕組みなどを見てきたが、今回からは、彼らの現在の投資トレンドを見ていきたい。ただ、居住地によって受ける規制の影響が異なるので、中華圏とひとくくりには言えないことから、今回は中国本土の富裕層について言及する。
先日、米国西海岸で不動産開発を手掛ける中堅デベロッパーにお目にかかった。彼らの物件は西海岸でも有数のプライムロケーションにあり、“質“がものをいう不動産投資の王道と言ってもいいものばかりである。
数年前は、中国本土の投資家から、こうした物件への引き合いはが途切れることなく、次から次へと現れては、彼らの物件に投資をしていったそうである。その頃、このデベロッパーはむしろ、中国本土からの投資家をどう抑制するかを考えていたほどだった。
ところが、昨年あたりから、中国本土の投資家は、数年前に投資した不動産から手を引き、資金を本国へ戻しているという。そうしなければならない事情があるというのだ。なお余談だが、それを肩代わりするように市場に入っていているのが、日本の機関投資家だそうだ。
中国人富裕層が国外投資に神経質になっている理由
「爆買い」という言葉に象徴されるように、中国本土の富裕層による投資は、リーマン・ショック後の10年で急拡大してきた。
近年では、米国各都市でのランドマーク的な不動産への投資だったり、日本でも東京大阪のみならず地方主要都市でも一棟ごと買い付けたり、アジアの主要都市でもコンドミニアムをプレビルドで大量に買付けたりといった具合で、その購買意欲の強さが喧伝されてきた。どこから金が出てくるのかと不思議に思うほどの資金力で、世界中で投資をリードしていた印象である。
ただ、日本の投資家もバブル期には同様のことをし、世界でも目立っていたことを思い起こせば、経済成長著しく投資意欲にあふれる時期は、そういう傾向ばかりが目につくものなのだろう。
ところが、最近の中国本土の投資家は、国外での投資に対して非常にナーバスになっている。