多様なコラボレーションやオープンイノベーションマッチング、ネットワーキングが行われるアジア最大規模のオープンイノベーションマッチングイベント「イノベーションリーダーズサミット (ILS)」が、10月28〜30日に東京虎ノ門ヒルズで開催された。
このイベント内で、「コーポレートベンチャーキャピタル最前線~ベンチャー・エコシステムにおけるCVCの役割~」と題したカンファレンスが行われ、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)事業者らが登壇した。登壇者は、ベンチャーキャピタルと比べるとあまり知られていないCVCの現状に言及。パネルディスカッションではベンチャー・エコシステムにおけるCVCの役割について議論が行われた。
CVCに必要なのは迅速な意志決定
カンファレンスの冒頭、株式会社野村総合研究所 上級コンサルタントの飯塚浩介氏が「CVC活動の課題とプラクティス」と題したキーノートスピーチを行った。
飯塚氏は「ベンチャー企業は、中小企業や大企業とは異なり、スケーラブルなビジネスを急速に成長させることを目指すイノベーションに特化した事業組織である」と定義した上で、「CVCは前提として、自社の論理を押し付けるようなことは避け、ベンチャーの成長を阻害しないように対等な関係を持つことが重要だ」と述べた。
また、CVCは成果を出すことに時間がかかる場合もあるので目的や評価方法について経営としっかりとしたコンセンサスをとっておく必要性を指摘。
その上で、CVC側に求められるものとして、ベンチャー企業のスピード感にあった迅速な意志決定をあげた。具体例として、2008年からCVC活動をしている企業の事例を紹介し、「この企業は、3分の2の投資が直近2年で起きている。何故かというと、この企業では2年前から投資の決定を日本の本社から切り離し、シリコンバレーにある部署が行うことにして、意志決定のスピードアップを図った」と説明した。
ベンチャーがCVCから出資を受ける際のポイントは
続いて、三井化学株式会社 理事の善光洋文氏、素材化学分野に特化したVC・ユニバーサルマテリアルズインキュベーター株式会社のディレクター山本洋介氏、創薬系ベンチャーを支援するそーせいCVC株式会社のディレクター鈴木規由氏が登壇し、それぞれの取り組みを紹介した上で、パネルディスカッションを行なった。
善光氏は、CVCの役割について、「三井化学が事業のポートフォリオを組み替える上で、オープンイノベーションに期待している」と述べ、ロボットやドローンなどに使う素材に同社の技術をいかすことで軽量化に成功した事例などを紹介。他にもヘルスケアなどCVCが次世代事業開発につながっていることをアピールした。
山本氏は、「素材化学産業は地味だが重要な産業。しかし、これまでスタートアップへの投資は1%未満だった。そのため新事業の創出が最大の課題だと10年以上言われている」と業界の課題を指摘。
こうした課題を踏まえ、「大学などアカデミアにはシーズとしてはいいものがあり、大企業には生産技術があるが、その間をつなぐものがなかった。そのため、業界をあげて、CVCのような取り組みが必要なのではないかということになった」と自社の役割を語った。
鈴木氏は、スタートアップと連携する際の基準について「再生医療領域のベンチャーは母数が少ないので基本来るものは拒まずというスタンス。ただ、グローバルで戦えない会社はなかなか苦しい。日本だけで成立していても世界での戦略、ビジョンが必要」と述べた。
続いて、モデレーターから、CVCが出資をする際のポイントについて問われると、それぞれから、「出資前にお互いが期待することを確認しておくこと」「事業計画を一緒に作っていく中で将来をどれだけ具体的にイメージできるか」「経営チームの経験値」などの点が挙げられた。
CVCに必要な人材については、善光氏が「新しいことに興味がある。学習のプロセスを楽しめる人が向いている。ただ調整能力も必要になる。両方できる人が好ましいがなかなかいないので、どちらかを持った上で、新たに能力を身につけていこうとする人が好ましい」と語った。
一方、山本氏は「キャピタル活動は総合格闘技。一つの自分の専門知識を軸として、好奇心があってフレキシブルに対応できる人。成長していく志向があればやっていけると思う」と述べている。
CVCとVCの違いについて、善光氏は「リターンだけではなく、CVCは一緒に新しい事業を作ることが一番の目的」と語る一方で、山本氏は「CVCはVCと違って長く付き合える可能性もあるので、そういうスタンスで対等なパートナーとして付き合っていける」といった点を挙げた。
会場は開始前から満員となっており、途中からの入場者も目についた。参加者は登壇者の話に熱心に耳を傾けており、本テーマへの注目度の高さがうかがえるカンファレンスとなった。