投信信託(以後、投信)を販売する金融事業者に実施した金融庁の調査によると、投信の運用損益率がマイナスの投資家(顧客)の割合が2019年3月末は35%であることが明らかになった。2018年3月末は46%であったので、投信の運用損益がこの1年で改善したと思われる。
詳しく運用損益率別の投資家の比率の分布をみると、2018年3月末(赤棒)は運用損益率が「▲10%以上、0%未満」の投資家が最も多く、その割合は32%であった(図表1)。それが2019年3月末(青棒)には25%に減少した。その一方で、運用損益率が「0%以上、+10%未満」の投資家が2019年3月末では32%と最も多く、2018年3月末の22%から増加した。つまり、2018年3月末に多少の含み損を抱えていた投資家の一部が、2019年3月末には若干の含み益が出ている状況に転じたようだ。
このように2019年3月末に含み損を抱えている投資家が1年前と比べて減った要因の一つとして、外国REITの運用実績の改善があげられる。外国REITは2014年から2016年にかけて投資家の人気を集め、外国REIT投信を購入した投資家が多かった。実際に2019年3月末のETFを除いた日本籍追加型株式投資信託の純資産総額(残高)をみると、純資産総額が大きい上位10本のうち最大の投信を含む4本が外国REIT投信であった。そのことからも外国REITが投資家に人気だったことや、運用損益に与える外国REITの影響が大きいことがうかがえる。
人気とは裏腹に外国REITのパフォーマンスは、2015年から2018年にかけて低迷していた。2015年4月から2018年3月の指数の円建ての収益率(赤棒)をみると、外国REITが▲6%と主要6資産の中で最も低く、低迷していることが確認できる(図表2)。そのため、外国REIT投信を保有している投資家の多くが、2018年3月末に外国REIT投信で含み損を抱えていた可能性が高い。
なお、2018年3月末の調査結果が金融庁から公表直後は、損失を抱えた投資家が半数近くと、予想外に多いことが話題になった。一部では販売手数料などのコストが要因としてあげられていたが、コスト以上にこの外国REITの低迷が影響していたと考えられる。
それが2018年4月以降は一転して、外国REITはそれ以前の低迷を補って余りあるくらい上昇した。外国REIT指数の2018年4月から2019年3月の円建ての収益率(青棒)は20%に達し、主要6資産の中で最大であった。純資産残高が大きい外国REIT投信などをみると、2019年3月末には購入タイミングによらず保有している全ての投資家で含み益が出ている状況であった。つまり、2018年3月末に外国REIT投信によって含み損を抱えていた投資家の多くが、1年後にはその含み損が解消したと推察される。外国株式や国内REITが上昇したことなども追い風になったと思われるが、この外国REITの好転が2019年3月末に含み損を抱えていた投資家が減った主な要因の一つといえるだろう。
また、全体でみると1年前と比べて運用損益率がマイナスの投資家の割合が減少したが、個別にみるとマイナスの投資家の割合が増加している金融事業者もあった。そのような金融事業者は、国内株式が足元で軟調だった影響を受けたためだろう。実際にそのような金融事業者は、国内株式投信の残高が大きいところが多かった。まさに、投信の資産クラスによって明暗が分かれた形である。
そもそも外国REITや国内株式など投資先が特定の地域や資産クラスに偏ると、どうしても運用損益はその時々の市場環境の影響を受けやすくなってしまう。金融庁の調査結果は、運用損益を安定させるには資産クラスの分散や地域分散など分散投資を意識して投資することが大切だと、再確認させられるような結果であったといえよう。
前山裕亮(まえやまゆうすけ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員
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