金融×テクノロジーを表す「フィンテック」をはじめ、IT(情報技術)はさまざまな業界に革命をもたらしてきました。不動産業界ではあまり活用されていないと思われがちですが、「不動産テック」という言葉が浸透しつつあることを考えると、両者の融合が急速に進んでいることがわかります。

これまで不動産業界でIT化が進んでいなかった理由や、変わりつつある今の状況、具体的に活用されている分野などを紹介しますので、不動産テックの基本を押さえてください。「不動産投資の魅力はわかるが、非効率的・前近代的なイメージがあり敬遠している」という人は、考え方が変わるかもしれません。

なぜ今不動産テックが必要とされているのか

不動産テック,キホン
(写真=YAKOBCHUK VIACHESLAV/Shutterstock.com)

不動産業界ではIT化が難しいとされてきた背景と、変わりつつある現状についてお伝えします。

IT化が遅れていた不動産業界

金融業界や広告業界などに比べ、不動産業界ではITの活用が遅れていました。不動産投資は、取引の対象が動かすことのできない実物資産であることが最大の理由と考えられます。売買でも賃貸でも、物件を見ずに取引を行うことはほとんどありません。買い主や借り主は現地を確認し、写真ではわからない建物の細部や周辺環境、日当たりなどを調べたうえで契約を検討します。

賃貸物件を探している人が、近所の不動産屋を訪ねるとします。希望を伝え、担当者は物件の管理会社に電話して空き状況を確認し、空いていれば内覧を案内します。物件を気に入れば不動産屋に戻って入居の申し込みをし、後日本契約を交わします。

このように、顧客の獲得から契約まで、その場のやり取り(オフライン)で済んでしまいます。物件の空室状況の問い合わせは、電話が最適であり最も早く済みます。いつ見るかわからないメールやSNSなどは、かえって不便です。地場の中小零細不動産屋はメールアドレスを持っておらず、遠隔地との書類のやり取りは未だにFAXで行っているところも少なくありません。

このような「対面主義」のやり取りの中にも、ITを活用することで業務の効率化や顧客の利便性を高められる部分はあります。情報技術の発達とともにITの活用にチャンスを見出す企業が増えており、その流れは「不動産テック」と呼ばれています。

顧客と業者との情報格差を解消するために

不動産テックには、取引の透明性を高めるという目的もあります。不動産業界は顧客と業者の情報格差が大きく、これを問題視した人が不動産テック関連で起業した例もあります。

情報技術は遠隔地をつなぎ、膨大な情報を瞬時にやり取りできるため、不動産や不動産業界に詳しくない人が知るべき情報にアクセスしやすくなります。また、恣意性を排除した公平な取引ができることもメリットです。

不動産テックの登場によって、個人が不動産取引で利益を得やすくなっているのです。

民泊やリモートワーク、IT重説などの新潮流とテクノロジーは相性が良い

不動産取引は、原則的に対面で行う必要があります。その理由は、取引が実物ベースであることに加え、重要事項説明(重説)が義務付けられているからです。宅建業法上、不動産業者が仲介する取引では、賃貸・売買ともに契約条件や権利関係など契約の主要な内容の説明は、原則的に対面で行わなければなりません。

重要事項説明を遠隔地から行う仕組みが「IT重説」で、個人の賃貸分野では実証実験を経てすでに解禁されています。不動産取引のIT化は、国全体で行われているのです。

民泊やリモートワーク、副業など、不動産業のビジネスモデルや一般的な働き方の変化も、不動産テックを後押ししています。働き方や稼ぎ方が多様化することで、いつでもどこでも必要な情報にアクセスすることを可能にするIT化は、さらに加速するでしょう。個人で不動産投資に取り組む人も、新たなビジネスチャンスを見つけられるかもしれません。

不動産テックでよく使われる用語

最新の情報技術を取り入れた不動産テックには、よく使われる用語があります。ここでは、特に重要な3つを紹介します。

AI

人工知能(Artificial Intelligence)の略です。従来の一般的なコンピュータは、あらかじめプログラミングされた計算を行います。これに対してAIは、それ自身が環境に適応しながら主体的に判断するという、人間に近い能力を持っています。

AIの関連用語に、「ビッグデータ」と「ディープラーニング」があります。ビッグデータとは一般的な家庭用のパソコンでは処理しきれないような大量のデータのことであり、これを分析することでビジネスや行政施策のヒントを得ることができます。不動産テックでは、売却価格の査定や購入後の収支シミュレーションなど、主に数値管理の部分で力を発揮します。

ディープラーニングは深層学習とも呼ばれ、大量のデータを瞬時に処理し、物事をさまざまな側面から分析、学習していきます。

これらによって、AIは高度な判断ができるようになるのです。囲碁でコンピュータが人間に勝つのは当分先と考えられていましたが、2016年にAIを搭載したロボット「アルファ碁」が世界チャンピオンに勝利したことは、世間を驚かせました。

コンピュータの性能は年々向上し、従来のものをはるかに上回る量のデータを処理できる量子コンピュータも実用段階に入っています。AI関連のテクノロジーは、今後も急速に発展していくことでしょう。

VR

仮想現実(Virtual Reality)ともいいます。その場にいなくても、あたかもその場にいるかのように感じられる技術です。VRの関連機器として、ヘッドマウントディスプレイのような全視界型の投影ツールや、手に装着する触感受信機、におい発生装置などが開発されています。

不動産テックでは、VRは主に遠隔地から内覧を行う際に用いられます。VRの登場によって、現地訪問は必須ではなくなるでしょう。北海道にいながら、転勤先の沖縄で住むマンションを探すこともできるのです。入居者を募集するオーナーや管理会社にとっては見込み客が増えることになり、空室対策に一役買うことになるでしょう。

IoT

Internet of Things の略で、日本語では「モノのインターネット」と呼ばれています。機器同士、あるいは機器とコンピュータをつなぐことによって、タイムリーな操作や調整、データ取得などができます。IoTは、自動運転の分野では必須の技術とされています。

不動産業界での活用例として、スマートハウスが挙げられます。施錠や空調管理、給湯や照明など、あらゆる機器をコンピュータで制御できる住宅です。これらは、新築住宅やリノベーション物件に付加価値をもたらします。

ハッキングのリスクや通信速度の限界など課題もありますが、SF映画で描かれるような近未来的な生活はすぐそこまで来ていると言えるでしょう。

不動産テックが活用されている各分野

不動産業界において、具体的に不動産テックが活用されている分野の例は以下のとおりです。さらに詳しく知りたい場合は、一般社団法人不動産テック協会の「カオスマップ」をご覧ください。

価格査定

不動産を売却する際は、不動産業者を呼んで価格査定を行うのが一般的です。不動産テックを活用すると、詳細な項目を入力するだけでWeb上で実勢価格に近い査定ができます。AIが近隣の相場やその動向などの情報を取得し、瞬時に回答してくれます。

代表的なサービスには、プロパティエージェント株式会社の「ふじたろう」や、投資用不動産の収益シミュレーションができるリーウェイズ株式会社の「Gate.」などがあります。

物件情報・内覧

物件情報の閲覧では、VRが活躍します。ナーブ株式会社の「VR内見」は、独自のアプリを使うことで撮影者による写真の質のばらつきを抑えられることや、家具配置のシミュレーションができることなどが特徴です。入居希望者や購入希望者は、不動産会社の店舗で物件の部屋の中を確認できます。

他にも、株式会社トライエルの「オンライン内見」や株式会社スタイルポートの「ROOV」など、特徴のある10以上のサービスが提供されています。

少し話が逸れますが、物件の外見や周囲の環境をGoogleマップで確認する不動産投資家が増えています。ストリートビューは道路を歩いているかのように周辺の風景を見られるので、離れた場所でも物件やその周辺の雰囲気を感じることができます。ストリートビューは、IT業界の最大手が生んだ不動産テックと言えるでしょう。

資金調達

不動産テックでは、主にソーシャルレンディングと呼ばれる手法によって、個人投資家から資金を調達します。これは、インターネットを通じて人々のお金の貸し借りをつなぐサービスです。

貸金業法の規制上、日本では仲介業者が入ることになりますが、実質的に一般の人がお金の貸し手になります。一般的な不動産投資では金融機関からお金を借りて不動産を購入しますが、ソーシャルレンディングでは個人が金融機関の役割を担うわけです。

資金が必要な人にとっては金融機関以外にも調達先が広がり、貸し手としては高い利回りを得ることができる、新時代の投資法と言えます。

ソーシャルレンディングサービスを提供する仲介業者は、不動産の査定や資金の募集などを行います。ソーシャルレンディングサービスには、ロードスターキャピタル株式会社の「OwnersBook」や、空き家・遊休不動産に特化した株式会社エンジョイワークスの「ハロー!RENOVATION」などがあります。

仲介・管理

不動産会社が行う仲介・賃貸物件管理の業務は、広範囲にわたります。テクノロジーを駆使してこれらの業務を支援するサービスもまた、多種多様です。物件情報の提供や物件管理などのほか、顧客管理や契約、内見予約などもあります。

Cocolive株式会社の「KASIKA」は顧客管理をメインに、不動産会社のマーケティングを支援するサービスです。見込み客をリストアップしてデータを抽出し、不動産会社の販売活動に貢献します。

契約書作成サービスもあります。SB C&S株式会社が運営する「IMAoS」は、インターネット上で契約書を作成し契約を交わすことができるため、書類のやり取りの手間が省けるサービスです。契約書の紛失を防ぎ、保管の手間がないことは、入居者にとってもメリットです。

仲介支援サービスが普及することで、不動産会社は仲介物件の販売や入居者の募集など、収益に直結する業務に集中できるようになります。

設備・IoT

物件の設備では、IoTが活用されています。Qrio株式会社や株式会社tsumugなどが提供するスマートロックは、スマートフォンで鍵の開錠・施錠ができます。

スマートロックは、民泊においても役に立ちます。株式会社構造計画研究所は民泊仲介大手のAirbnbと提携し、暗証番号をメールで通知するだけで鍵の受け渡しが完了するサービスを提供しています。

他にも、電気の使用状況を可視化できるHEMSや、音声入力などで簡単に家電を操作できるスマートハウスなどは、不動産に高い付加価値を与えるものとして期待されています。

マッチング

特に賃貸住宅で活用されているのが、マッチングです。SNSの人気とともにビジネスや恋愛などさまざまな分野でマッチングサービスが生まれていますが、不動産取引も例外ではありません。

個性的なサービスとしては、退去を予定している入居者と、新居を探している入居希望者をマッチングする株式会社スタイリィの「じぶん仲介」があります。現在の入居者は、入居希望者の質問に答えることで情報を提供し、金券を獲得します。入居希望者は物件や街の情報を詳しく知ることができ、オーナーは空室を減らすことができるので、「WIN-WIN-WIN」の関係が成立します。

他にも賃貸や売買の領域で、AIを駆使した不動産マッチングサービスが提供されています。

不動産テックは不動産取引の可能性を広げる

不動産業界のIT化は日本全体で進んでおり、業者と顧客の情報格差を解消するものとしても期待されています。AIやVR、IoTなどの先進技術が活用され、資金調達や管理、マッチングなどさまざまな分野でサービスが展開されており、これらによって不動産取引の可能性は広がっていくでしょう。今後はテクノロジーを駆使した「IT大家」が台頭するかもしれません。(提供:Dear Reicious Online

【オススメ記事 Dear Reicious Online】
40代からの将来設計。早いほどおトクなマンション経営
マンション経営の物件選び!初心者がまず知っておきたい必須のポイント
少子高齢化社会が不動産の可能性に与える影響
「働く」だけが収入源じゃない 欧米では当たり前の考え方とは
実は相性がいい!?不動産×ドローンの可能性