年収10億円プレイヤーの実情やマインドを追い続けた本特集。年収10億円を経験した弁護士・福永活也さん以外の資産家はどのような道のりで莫大な収入を得て、どのように使い、どのような価値観を得たのだろうか。
今回は、そんな超富裕層の人々の実話を基に描かれた映画をピックアップし、あらすじと登場人物のマインド、作品から読み取れる超富裕層像について考えた。
※若干映画のネタバレを含みます
もしも4億円当たったらどうする?『あなたに降る夢』
●一夜にして大富豪になった3人の男女
10億円を超える資産の作品ではないが、最初にご紹介したいのが1994年公開の『あなたに降る夢』だ。こちらは投資や金融とはまったく無関係で、ごく一般的な夫婦が宝くじで400万ドル(推定約4億円)当選したという実話ベースの物語だ。
主人公はニコラス・ケイジ演じる警官のチャーリー。お人好しで非常に善良なチャーリーは毎日警官として街の平和を守り、子どもと野球で遊ぶのが好きだった。彼はある日、妻のミュリエルに頼まれて宝くじを購入する。
その日彼はランチの席でウエートレスのイボンヌにチップを支払おうとするものの、持ち合わせがなかった。生真面目かつイボンヌが美しかったので、「宝くじが当たったら半分君にあげる、当たらなければチップ代を明日渡しに来る」と約束する。
宝くじは400万ドル分当たっていた。妻に反対されながらも、チャーリーはイボンヌに約束通り半分の200万ドルを譲渡する。無欲で生真面目なチャーリー、お金持ちになりたかったミュリエル、夫の作った借金で破産宣言を受けていたイボンヌはそれぞれの方法で賞金を使う。
●誰かのために使うのか、自分のために使うのか
物語はやがてチャーリーとイボンヌのラブロマンスへと展開していくのだが、ここではチャーリーが果たして何にお金を使ったのかを書き出してみた。
・破産宣言を受けたウエートレスに半額譲渡
・警官遺族基金に1万ドル寄付
・同僚のためにバスケの試合の通し券を購入
・地下鉄の改札で大勢の人に切符代を配る
・クイーンズの子どもたちを球場に集めて草野球大会を開く
正義感が強く欲の無いチャーリーらしいささやかな使い方は、ミリオネアクラブで財テクの話に夢中になっていたミュリエルとは対照的だ。彼女はブランド品を買いあさり、長年住んだ家を売却のためにリフォームし、豊胸手術もした。
作中でミュリエルは強欲な妻として描かれているが、実際はどちらが良いと容易には判断できない。お金の使い道は、その人が何を幸せと思うかを反映する鏡なのだろう。
年収49億円のヤバすぎる世界『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
●誰もが思い描く「仕事で成り上がった大富豪」
2013年に公開されたレオナルド・ディカプリオ主演の本作品。主人公は実在するアメリカの元株式ブローカーで、『ウォール街狂乱日記』の著者であるジョーダン・ベルフォートだ。ポスターのキャッチコピー「貯金ゼロから年収49億円 ヤバすぎる人生へようこそ」にあるとおり、金持ちを夢見てブローカーになった男が会社を設立して莫大な利益を生み出し、転落するまでがコメディタッチで描かれている。
ベルフォートは金を手に入れてからというもの会社で盛大なパーティーを連日繰り返し、女と薬に溺れ、豪邸、車、クルーザーなどあらゆる贅沢品も手に入れる。貯金ゼロ時代から自分を支えてくれた妻とは別れ、別の美しい女性と再婚までするのだ。
だが、ベルフォートが行っていたのは詐欺行為。資産を守るためにスイス銀行を頼り保身に奔走するが、あえなく投獄される。
●ベルフォートが最後まで失わなかったもの
妻も子どもも資産も信頼も失ったベルフォートだが、彼は最終的に多くの人から羨望のまなざしを受けることになる。その理由は、「モノを売る力」だ。
例えば、ベルフォートが勤めていた証券会社がブラックマンデーによって倒産し、再就職した先で売ることになったのは手数料の高い店頭株だった。1株10セントの誰も買わないようなペニー株を、ベルフォートはわずか1分間の巧みなトークで顧客に4000ドルで売ってみせる。
作中では、何の変哲もないペンを言葉一つで売り込む方法も分かる。ベルフォートはどんなモノも人に「欲しい」「必要だ」と思わせる方法を知っていたからこそ、巨額の富を築くことができたのだ。
ちなみに、同作品には日本の実業家で『ロッキーのニューヨーク商法―こうして俺は100億稼いだ』『ロッキー流億万長者(ビリオネア)になる法』などの著者、ロッキー青木さんも出演している。
4000億円稼ぎ出したトレーダーたち『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
●リーマン・ショックの始まりから終わりまで
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は2015年に公開された、リーマン・ショックを題材とした映画だ。原作はマイケル・ルイス著のノンフィクション作品『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』である。
本作品はアメリカが住宅バブルの兆しを見せた04年頃から08年にアメリカ経済が破綻するまでを4人の人物を軸にして追っている。肩書は鬼才トレーダー、野心家の銀行マン、ヘッジファンド・マネージャー、伝説の元銀行家だ。
彼らはそれぞれの方法でサブプライム問題を予期し、周囲の反対を押し切ってあらゆる大手銀行や金融機関からCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を買い求める。そして崩壊のときは訪れ……という筋書きだ。
専門用語が飛び交い、4人の行動はまったく別のシーンとして描かれるためやや難解な本作品だが、随所に金融初心者にも分かりやすい解説が挟まれている。各キャラクターもエッジの効いた性格として描かれているため、「なぜ彼らが問題を予期できたのか」「なぜリーマン・ショックは起きたのか」を直感的に理解できるだろう。
●サブプライム問題を予期した人々は何を見ていた?
見どころは、主人公たちがそれぞれどんな情報に注目していたのかということだ。
例えば鬼才トレーダーは数千ページにわたるモーゲージ債の目論見書を読むことでリスクの高い変動金利型サブプライムローンが組み込まれていることを知り、金利上昇とともに債務不履行者が大量に出ることを予期した。
ヘッジファンド・マネージャーは住宅ローンの返済が滞っている現場に足を運び、ローンの売り手や債務者に直接話を聞き、現状を理解した。貸し倒れは起きないとされていた住宅ローンは信用調査が行われておらず、借り主も変動金利の仕組みを知らずに借りている低所得者ばかりだったのだ。
主人公たちに共通するのは、誰も住宅市場が崩壊するなど考えてもいなかった中で、目の前で本当は何が起きているのか疑いを持って見続けたということだろう。作中の印象的な言葉を引用する。
“真実は詩に似ている ほとんどの人が嫌いだ”
映画にはならない、「普通」のお金持ちはどんな人たちなのか
野村総合研究所の2018年12月のニュースリリースによれば、日本における純金融資産保有額5億円以上の超富裕層は、8万4000世帯と推計されている。また、dodaの「職業別の平均年収ランキング(2018年)」によれば、1位は弁護士、2位は投資銀行業務、3位はファンドマネージャーおよびディーラーだ。
では、彼らはどういうマインドで行動をして資産形成をしていったのだろうか。トマス・J・スタンリーとウィリアム・D・ダンコの名著、『となりの億万長者』の7つの法則によればこうだ。
1 彼らは、収入よりはるかに低い支出で生活する
2 彼らは、資産形成のために、時間、エネルギー、金を効率よく配分している
3 彼らは、お金の心配をしないですむことのほうが、世間体を取り繕うよりもずっと大切だと考える
4 彼らは、社会人となった後、親からの経済的な援助を受けていない
5 彼らの子どもたちは、経済的に自立している
6 彼らは、ビジネス・チャンスをつかむのが上手だ
7 彼らは、ぴったりの職業を選んでいる
本特集冒頭で取り上げた年収10億円の弁護士、福永さんは「世の中には年収に見合った生活をしようとする人が多い」と語っていた。彼らの言わんとするところは、年収に見合った生活をすればするほど生活が苦しくなる、つまり「お金があるからあるだけ使うのではなく、自分の価値を置くところにお金を使え」ということなのではないか。
何に時間を費やし、何にお金を使うべきなのか。成功する人ほどブレない価値判断の軸があり、だからこそ資産配分の見極めが素早く、正確で、シャープなのだろう。