ESG投資が広がる中、企業における女性活躍への関心が高まっている。ESG評価機関によるレーティングではダイバーシティが重要な評価項目となっており、取締役や管理職などにおける女性活躍が企業評価に影響するようになりつつある(1)。しかしながら毎年のジェンダーギャップレポートで示されているように、日本企業における女性の活躍度は主要国の中で著しく低く、日本企業のESG評価を引き下げる一因となっている。
図表1は女性役員比率、女性管理職比率の推移を見たものであるが、女性役員比率(取締役、監査役、執行役における女性比率)は着実に上昇しているものの2017年度(2018年3月期)でも3.0%に止まっている。その一方、執行役員を除いた女性役員比率は上記の比率よりも大きく上昇しており(2017年度で4.3%)、足下の女性役員の増加が社外取締役の増加によってもたらされていることを示唆している。女性管理職比率は緩やかに上昇してきているものの直近でも4.8%に止まっており、内部取締役候補が少ないことが窺える。
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(1)女性役員ゼロならトップ選任反対 米議決権助言会社(2018/12/7日本経済新聞)。
昇進や処遇に関する男女格差を説明する有力な仮説として統計的差別仮説がある。この仮説によれば、経営者は統計的に生産性や離職率を考慮して男女の採用、登用に差をつけることになる。ホワイトカラーの職場を前提とすれば男女で生産性に差がある理由は見いだしにくいが、出産等を機に離職する女性が多い現状を踏まえると人材育成コストを回収しやすい男性社員を優遇することには一定の理があることになる。他方、男女の賃金格差を前提とすれば、家事の機会費用が低い女性が家事、育児を主に担い、男性が家計を担うという分担が家計の合理的な意思決定ということになる。山口(2017)が指摘するように、日本の男女不均等は統計的差別→賃金格差→家庭内分業→離職→統計的差別という悪循環に陥っている(図表2)(2)。
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(2)山口一男(2017)、「働き方の男女不平等 理論と実証分析」1章、日本経済新聞社。
このような状況を改善すべく、2016年には女性活躍推進法が施行され、大企業では女性のリーダーシップに関する目標設定とそのためのアクションプランが求められるようになってきている。また、2018年の改訂版コーポレートガバナンスコードにおいても、取締役会におけるジェンダーダイバーシティがより明確に求められるようになってきている。米国の議決権行使助言会社のグラスルイスは女性役員がいない企業のトップ選任に反対する方針を表明しており,投資家からの女性活躍に向けた圧力は益々強まっていこう。
このような外圧による急激な女性活躍の上昇はどのような影響を企業にもたらすであろうか。欧州では2004年のノルウェー以降、クオータ制の導入が進んでいるが、強制的な女性登用には否定的な見解も多い。代表的な研究の一つであるAhern and Dittmar (2012)(3)はクオータ制導入が経験不足な女性取締役の登用を通じて企業価値にネガティブな影響を及ぼしうることを指摘している。
その一方、図表2に示すような悪循環を脱するためにはクオータ制などの荒療治が必要である可能性もある。とりわけ、今後半世紀で労働力人口の半減が見込まれる日本において、人材の半分しか活躍できないことは企業経営において大きなリスクとなりうる。そのようなリスクは人口減少の進展とともに顕在化すると思われるが、女性活躍のための環境整備やノウハウの蓄積、企業文化の醸成には一定の時間がかかる。企業は人材不足リスクが顕在化する前に女性が活躍しやすい環境を整えるべきだろう。
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(3)Ahern, K. R., & Dittmar, A. K. (2012). The changing of the boards: The impact on firm valuation of mandated female board representation. Quarterly Journal of Economics, 127(1), 137-197.
佐々木 隆文 中央大学 総合政策学部
ニッセイ基礎研究所
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