(本記事は、阿部George雅行氏の著書『 BQ−身体知能−リーダーシップ』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

成功するビジネスパーソンは高い「BQ」を持っている

BQ−身体知能−リーダーシップ
(画像=Webサイトより※クリックするとAmazonに飛びます)

BQ(Body Intelligence Quotient=身体知能)についての理解を深めるために、欠かすことのできない2つのポイントがある。まずは、その話からしていきたい。

ひとつは、仕事や人生の成功へ大きな影響を与えるIQ(Intelligence Quotient=知能)やEQ(Emotional Intelligence Quotient=感情知能)といった能力の土台にあるのがBQであるということだ。

身体(BQ)を変えれば、心や感情(EQ)が変わる。心や感情(EQ)が変われば、知能や思考(IQ)が変わる。知能や思考(IQ)が変われば行動変容が起こり、行動変容が起これば習慣も変わり、習慣が変わればパフォーマンスが向上するといった流れは、至極当然なのである。

逆に言えば、いきなり仕事のパフォーマンスの向上を目標に掲げて行動に移したところで、それは叶わない可能性が高いということだ。しかしこれは、多くのビジネスパーソンが未だに陥りがちなパターンでもある。

すべての土台となるBQが整っていなければ、行動変容も起きづらく、習慣も変わることはない。何か変化をもたらそうと考えた時に見落としてはならないのがBQという土台であり、パフォーマンス向上のために通るべき最初のゲートなのである

もちろん見落とした場合でも、偶然その日はパフォーマンスが高く、結果を残せることもある。しかしそれは、あくまでも「偶然できた」にすぎない。再現性や持続性がなく、さらに習慣化されていない「結果」は怖い。なぜならその人を過信させるだけであり、本来の実力ではないため、どこかに無理が生じてくるからだ。

我々ビジネスパーソンは仕事や人生の成功への土台としてBQを高めることがまず大事であることを、押さえておいていただきたい。

プレゼンティズムは大きなコスト

BQに続いて、もうひとつの重要な概念が、アブセンティズムとプレゼンティズムである。中でも、プレゼンティズムはBQと仕事の生産性の関係性について考える際にとても重要となる概念だ。プレゼンティズムとは何かについて改めて述べよう。

まず、アブセンティズムとは、病気による欠勤や休職、あるいは遅刻早退や休養など業務に就けない状態のことである。そしてプレゼンティズムとは「会社に出勤していながらも、体調不良やメンタルヘルス不調などの原因によって、仕事のパフォーマンスが低下している状態」である。

ここでいう仕事のパフォーマンスにはふたつの意味がある。

ひとつは作業効率としてのパフォーマンスである。プレゼンティズムが高いと、例えばオフィスにおけるルーティン業務で集中すべきときに意識が散漫となり、作業効率が低下して作業が遅れる、もしくはケアレスミスが増加して、作業がストップしてしまう。

また、営業活動の場合なら、本来なら1日10件の訪問が可能であるにもかかわらず、5〜6件の訪問で終わってしまい、結果として個人の営業成績や、会社の売り上げの機会損失につながってしまう。

「仕事におけるパフォーマンス」のもうひとつの意味合いは、アイデアの着想力や意思決定、提案・企画などで求められるクリエイティブな力のパフォーマンスである。商品開発やデザイン、プログラマーなどのクリエイター職であれば、既存のアイデアやルール、パターン、関係性を創造的に破壊していく能力が必要となる。このような能力の発揮には、プレゼンティズムが阻害要因となる。

また、取引先にプレゼンテーションを行うような場合も同様だ。資料作成のために連日睡眠不足で、体調不良のまま当日を迎えたとすると、明らかにプレゼンティズムは高くなる。

そうすると例えば顔色が悪かったり、鼻声で声が聞き取りにくかったり、提案する内容を話し間違えたりしてしまう。結果、取引先も不安になり、プレゼンテーションは失敗に終わるという事態も十分あり得る。

軽めの風邪、睡眠不足、二日酔い、花粉症、偏頭痛などがプレゼンティズムの原因となる。会社を休むほどではないが、仕事のパフォーマンスが確実に落ちる状態だ。アブセンティズムのように会社を休み、本人がオフィスにいないのであれば、周囲がフォローアップすることも可能だが、プレゼンティズムから起こる業務遂行能力の低下は周囲から見えづらく、周囲が気づかないまま生産性が落ちているため、とても厄介なのだ。

例えば普段の生産性を100%と仮定して、プレゼンティズムが発生して80%の生産性しか発揮できていなければ、20%の損失コストとなる。つまり、プレゼンティズムを解決しないまま1年間業務が続けば、年収の20%が損失コストとして積み上がることとなり、アブセンティズムによって1〜3日休んだ場合の損失コストを大きく上回ることは想像に難くない。

経済産業省は、社員の健康に関するコストと個人の健康の関係を調査した結果、健康関連リスクの多寡によって一人あたり30万円程度のコスト差が発生するとしている。

プレゼンティズムに関する研究はアメリカが先行しており、企業における健康関連の総コストのうち、医療費や薬剤費は約24%であるのに対し、労働生産性の損失が占める割合は30〜60%と公表している。また、約3万人の米労働者を対象とした「アメリカ人の生産性に関する調査」では、プレゼンティズムにより年間1500億ドル(約16兆円)の損失が出ているとされている。

プレゼンティズムの測定方法

プレゼンティズムの測定には、世界保健機関(WHO=World Health Organization)が開発した「WHO-HPQスケール」を利用するのが一般的だ。ただし、日本企業の事情に合わせていくつか変更した評価スケールも作られている。

当社においても、「WHO-HPQスケール」をベースにしたプレゼンティズムを可視化するための質問票を作成し、健康経営コンサルティングやセミナーの際に使用している。

質問内容はシンプルで、健康上の問題が仕事の生産性にどのように影響したかについて問うものだ。

例えば先に挙げた花粉症などのアレルギー疾患や軽度の病気など、健康上の問題の有無を回答してもらったうえで、それらの健康上の問題によって「大変な仕事を終わらせられないことがあったか?」「注意が散漫になったことがあったか?」「仕事のストレスに対処するのは大変か?」など生産性にどう影響したと感じるか、あるいはそうは感じないかを5段階で回答。

さらに、通常の生産性を100%とした場合、プレゼンティズムの影響で何%になったか。何時間の就業時間が失われたかについて質問している。

また、このような自己評価による絶対的な測定方法に加え、他者と比較した相対的な測定方法も取り入れられている。自分と同じ業務内容で生産性やパフォーマンスもほぼ同等と考える人物と自分を比較して、「自分は何%の生産性を発揮できたか?」を問うことによって、より客観的なプレゼンティズムの状態を導き出そうとしているのだ。

一般的に日本人は自己評価が低いとされるため、WHOの質問票をベースに調査した場合、低めの数値が出る可能性はある。正確な数値を測るためには、一度きりの調査ではなく、数年にわたって継続的に定点観測していくことが大切だと言える。つまり、1年前の自分の評価と今年はどう変化しているのか。上がっているのか、下がっているのか、あるいは変わらないままなのかを知る必要があるということだ。

プレゼンティズムの測定で問題と感じるのは、現状国内における統一された評価スケールが存在しないため、他社と比較したり、国の統計としてまとめたりすることが困難であるということだ。「働き方改革」に続く、次なる施策として「健康経営」によって企業の生産性を上げていくことは、いわば国家の命題と言える。

大学入試におけるセンター試験や、財務会計における企業会計原則のような、同じルールで評価するような統一した評価スケールの作成が生産性の評価やプレゼンティズムの評価にも望まれる。

 BQ−身体知能−リーダーシップ
阿部George雅行(アベ・ジョージ・マサユキ)
株式会社ボディチューン・パートナーズ代表取締役社長、NPO法人アスリートヘルスマネージメント理事、早稲田大学スポーツビジネス研究所(RISB)招聘研究員。明治大学卒業、早稲田大学大学院博士課程単位取得退学。筑波大学大学院退学。グロービスMBA。富士銀行、みずほ銀行、グロービス等ベンチャーを経て現職。

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