(本記事は、阿部George雅行氏の著書『 BQ−身体知能−リーダーシップ』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

WHAT・WHY・HOW思考が「健康」を「パフォーマンス」に生かすカギ

健康
(画像=l i g h t p o e t/Shutterstock.com)

BQ(Body Intelligence Quotient=身体知能)と、BQの構成要素である6T(体調、体力、体質、体形、体勢、体動)の基本については理解いただけたと思う。

仕事のパフォーマンスを高めるために、あなたやメンバーに何が足りないのか、どのように行動すればいいのかということについて、「WHAT・WHY・HOW」の問題発見解決のプロセスに沿って解説していく。このフレームワークはBQを考える際に限らず、ビジネスリーダーが会社や部署の課題解決に活用している基本的な思考法のひとつである。

まず、ありたい姿(To be=目標)を明確にする。BQをテーマとすることを前提とすれば、「仕事のパフォーマンスを最大化するための健康を高め、維持すること」となるだろう。

この目標を「健康な体をつくってフルマラソンで2時間30分を切る」など、誤った設定にしてしまわないよう注意が必要だ。目標設定を見誤ると、その後の「WHAT・WHY・HOW」がすべてブレてしまい、本来ビジネスパーソンが身につけるべきBQとはかけ離れたものとなってしまうからだ。

ただし、「WHAT・WHY・HOW」を知る例としてわかりやすいので、少し脱線するが、マラソンを例に説明したい。

例えばフルマラソンに出場して、目標(ありたい姿)が「2時間30分で走ること」、現状=FACTは、「2時間45分だった」とする。すなわち、問題(=WHAT)は、15分オーバーしているというギャップになる。ここで、この問題を解決するためにただ闇雲に走るという解決策を考える人は皆無であろう。

原因(=WHY)は何か、フォームに問題があるのか、心肺機能なのか、ランニングに必要な筋力が不足しているのかなど、原因を洗い出したうえで練習しないと意味がないからだ。原因がフォームなら、解決策(=HOW)としてフォームを修正するようなトレーニングを取り入れれば、あるべき姿(=To be)を実現できるわけだ。

問題発見解決のためのフレームワークに当てはめてマラソンの話をしたが、マラソンのタイムを上げることと、ビジネスパーソンの業務上の仕事パフォーマンスを上げることはあくまで別物であることは再度お伝えしておきたい。

さて、話を戻そう。ありたい姿(ここでは、仕事のパフォーマンス最大化のためにBQを高めること)を具体的な業務内容に落とし込み、さらに現状(=FACT)について冷静に分析する。そしてありたい姿の実現に向かって、WHAT(ありたい姿と現実のギャップ)、WHY(問題の発生原因)、HOW(解決に向けた対策)という手順で問題解決のプロセスを進めていく。

先にも述べたとおり、目標設定やあるべき姿をそもそも間違えていたり、曖昧な設定であったりしてはいけない。本気で「こうありたい」という意志と信念がなければ、後に続く行動は伴わず、目標達成の難易度はとてつもなく高くなってしまうからだ。

逆に、明確で具体的な目標を設定することができれば、自然と行動が変化し、取り組んでいる最中に加速度的に目標達成に向けて進化することも容易であろう。

また、多くの人が間違えがちな罠は、ありたい姿を決めた後にいきなりHOWを考えてしまうことだ。問題点であるWHATと原因であるWHYを明確にしなければ、先のマラソンの例にもあるように適切でないHOWを導き出してしまうことになる。せっかく目標設定をしても、解決に向けた行動が継続できず、その目標は途中で雲散霧消してしまうであろう。

ありたい姿とフロー状態

一般的に、ビジネスパーソンにとっての一番の目的・目標(ビッグイシュー)は「自身やメンバーの生産性の向上」に関することに設定すべきであろう。

そのためには、アブセンティズムやプレゼンティズムの原因を徹底的に分解して、いつでもベストの状態で仕事に臨める状態になるための解決策を習慣化していることが重要だ。そのうえで、ルーティン業務にかかる時間を短縮し、その分クリエイティブな仕事へシフトしていく。

例えば、一般的な業務のメールを1本書くのに30分かかっていたものを、5分で書けるように習慣化し、クリエイティブな時間に25分をふりわけるようにすることなどもそのひとつだ。

加えて生産性の向上を目標とした場合、1日の業務の中でいかにしてフロー状態の時間帯を作れるかが大切になる。フロー状態とは、アメリカの心理学者チクセントミハイが提唱した「時を忘れるくらい、完全に集中して対象に入り込んでいる精神的な状態」である。

ゾーンと言ったり、超集中と言ったりしてスポーツの世界でもよく使われるが、このフロー状態をビジネスでも作るうえで、BQという考え方は絶対に外せない土台となる概念なのだ。

WHYを明確にすれば解決策もわかる

例えば、「ありたい姿」として「営業成績トップ」という目標を設定したケースで、問題発見解決のフレームワークを使って考えてみよう。

まず、現状として営業成績が社内で10位だった場合、ランクを9つ上げていかなければいけない。これがギャップであり、問題(WHAT)ということになる。

そして、自分がトップになっていない原因(WHY)は何か?を因数分解していく。考えられるのは、(1)訪問件数が少ない、(2)1件あたりの滞在時間が短くコミュニケーションが十分取れていない、(3)訪問先にとって魅力的な商品やサービスの提案ができていない、もしくは(4)営業パーソン自身に魅力がないことなどが原因としてあり得るだろう。

こうして原因をもれなく、ダブりなく、MECE(ミーシー)で洗い出していく。現在、営業トップの先輩をロールモデルにしてもいいし、直接聞いてみるのもいいかもしれない。ただし「どうすれば売り上げが伸びるのか?」とHOWを尋ねても答えづらい場合もあるので、「営業成績が伸びないのは、自分のどんなところに原因があると思われるか?」とWHYを聞いてみるのもいい。

そのうえで、解決策(HOW)を考えていく。例えば、「(1)訪問件数が少ない」ことに原因があり、ほかの人は1日10件回っているのに、自分は8件しか回れていない場合、BQの観点で言えば、6Tの中の「体調」「体力」「体動」がかかわっている可能性がある。寝不足でいつも体調が悪かったり、運動不足で体力が落ちていたり、あるいは体動が悪く歩き方に問題があるため足腰を痛めやすいといったケースが考えられるだろう。

また、「(4)営業パーソン自身に魅力がない」ことが原因と考えられる場合は、メラビアンの法則が参考になる。見た目の問題には、6Tの中の「体形」などがかかわってくる。メタボ体形で全身から汗を吹き出したまま取引先を訪問しているのであれば、それを不快と感じている人もいるかもしれないのだ。

(1)が原因であれば、毎日、深酒をしたり、深夜までテレビを見たりゲームをしたりするという生活習慣を変え、質の良い睡眠をとるように生活を改善するといった解決策が考えられてくる。あるいは、1日10件訪問できる体力をつけるために、通勤時は1駅歩いたり、休日は家でゴロゴロせずにウォーキングで汗を流すようなことも解決策となる。

(4)であれば食事と運動など複合的な手法でメタボ対策に取り組むなど、HOWの前にWHYを明確にしておけば、「何をすればいいのか」は一目瞭然であり、行動に移しやすく、かつ結果に表れやすいことにもなるのだ。

 BQ−身体知能−リーダーシップ
阿部George雅行(アベ・ジョージ・マサユキ)
株式会社ボディチューン・パートナーズ代表取締役社長、NPO法人アスリートヘルスマネージメント理事、早稲田大学スポーツビジネス研究所(RISB)招聘研究員。明治大学卒業、早稲田大学大学院博士課程単位取得退学。筑波大学大学院退学。グロービスMBA。富士銀行、みずほ銀行、グロービス等ベンチャーを経て現職。

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