(本記事は、阿部George雅行氏の著書『 BQ−身体知能−リーダーシップ』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
BQを構成する6つの要素(6T)
BQの具体的な考え方について詳しく解説していこう。ここで紹介する「6T」とは、BQを自分自身の体に落とし込むためのフレームワークだと考えてほしい。「T」とは体のさまざまな要素を示す言葉の頭につく「体(TAI)」を示している。6Tは内的な要素であるSOMA(ソーマ)と外的な要素のBODY(ボディ)の2つに分けて考えることができる。
SOMAとは、身体の細胞や内部を示すギリシャ語である。我々は、以下の3つの要素のTで整理している。
1 体調(TAI・CHOU) 2 体力(TAI・RYOKU) 3 体質(TAI・SHITSU)
一方のBODYは、車のボディという表現のイメージに近い。身体の外見や見た目を表しており、以下の3つの要素のTで構成される。
4 体形(TAI・KEI) 5 体勢(TAI・SEI) 6 体動(TAI・DOU)
「体調」(TAI・CHOU)
まず「体調」とは、体のコンディションを示す言葉だ。6Tの構成要素の中では、最も核となるのがこの体調である。
「今日は体調がいい(もしくは悪い)」と日常会話でもよく耳にするに違いない。「なんとなく体調が悪い」という状態は、先にも説明したプレゼンティズムが高い状態である。体調が悪いと集中力が低下したり、やる気が出てこなかったりするなど、業務遂行に大きく影響を与えるのだ。
体調というアウトプットに対して強く関係するインプットは、睡眠に関係するものである。私たちの体は、約24時間を周期として規則的な働きを繰り返している。これは、サーカディアンリズム(概日リズムや日周リズムともいう)と呼ばれるもので、「一定の時刻がくると自然に眠くなり、一定時間眠ると自然に目が覚める」といった入眠と目覚めをはじめとして、体温、血圧、脈、尿の量、ホルモンの分泌などが規則性を持って変動していることをいう。
規則正しい生活をすることが、人間の体にとって自然であり、体調も整えやすくなる。日の出とともに朝起床して日中はフルに活動し、夜はあまり遅くならないうちに床に就き、十分な睡眠時間をとる。睡眠不足であったり、質の悪い睡眠をとる悪い習慣を続ければ、6Tの核となる体調を損なうことにつながるのだ。
「体力」(TAI・RYOKU)
「体力」を維持し高めるには、適度な運動が欠かせない。体力というと、走ったり跳んだりというスポーツの基礎になる力だけを考えがちだが、病気に対する免疫力、ストレスに適応する抵抗力もまた、体力があってこそのものなのだ。
前者(すなわち走ったり、跳んだり)の体力も当然大切だが、BQの目指す体力とは「仕事のパフォーマンスを上げる」ために必要な体力であり、後者がより重要だ。例えば運動オタクになってマラソン大会に出場することが大目的になってしまったり、ベンチプレスを150キロ上げるための体力づくりが仕事よりも優先される大目的になったりすることは本末転倒であり、BQ でいう体力とは、そういうものを示すのではない。
また、いくらスポーツにおける持久力や筋力が高くても、例えば夏場の暑さや湿気、冬の寒さや乾燥といった外的環境に弱く、体を壊しやすければ、十分な仕事上のパフォーマンスを発揮できない。ビジネスのために必要な体力を高めている人は免疫力が高く、生活習慣病などの病気になりにくいという傾向も報告されている。
「体質」(TAI・SHITSU)
冷え性や風邪を引きやすいなどの「体質」は、食事が影響するところが大きいだろう。特に食事に無頓着な人や食事の時間が不規則な人は、体質に悪影響を及ぼしやすい。体の細胞は、食事によって作られ、その細胞は体を形作る基礎中の基礎となるものだ。
体内の細胞の数は60兆個にも及び、200種類ものさまざまな用途に使われていると言われている。そして細胞は、日々生まれ変わるものから数年に一度入れ替わるものがあり、体にとって良いものを取り入れることを常に意識することは、時間はかかるかもしれないが体質改善にはとても大切なことなのだ。
「食」に注目すれば、私たちの毎日は食事というインプットの繰り返しだ。本来摂取すべき栄養とは何かを意識せず、無頓着な食生活を続けてしまうと、体質の改善は難しい。少し体調が悪いからといって、栄養ドリンクをすぐに手に取ることが習慣になっていれば、調子が一時的に改善されたとしても、体質の本質的な改善にはつながっていないことを認識すべきである。
また体質には「水分補給」の視点も大事だ。水分補給によって体の中の老廃物をアウトプットすることができる。ミネラルは老廃物の排出を助けるため、水分量だけでなく、水の硬度も加味して水分補給することをお勧めしたい。
「体形」(TAI・KEI)
続いて、見た目に関わる「BODY」についてだ。「体形」とは外見・見た目に関することである。メタボリックシンドローム(以下メタボ)に代表される肥満や、その逆で極端に痩せすぎている体形などは、「自己管理」ができていないという印象を与え、対人関係における信頼度の多寡にもつながる。
ひと昔前は、ビジネスの場で体形など気にする人はあまり多くはいなかった。ある程度の年齢をすぎればむしろ恰幅がいいほうが良いとされる傾向もあった。しかし時代も変わり、体形が悪いと「自己管理ができない人」と思われる傾向が顕著となっている。今後、長く現役生活を続けるためにも、体形を良い状態に維持することは必須なのである。
1970年台にアメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」をご存じの方も多いであろう。話し手が聞き手に与える影響は、言語情報がたったの7%にすぎないのに対し、視覚情報は55%にも及ぶという(ちなみに、聴覚情報は38%)。視覚情報には見た目のほかに、ノンバーバルコミュニケーションも含まれるが、人は言葉以上に相手の見た目や表情、仕草などを重視していることがわかる。
また、肥満の場合は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)など睡眠にも悪影響を与え、6Tのひとつである「体調」の悪化にもつながる。学生時代はすらっとした体形でメタボとは縁遠かったような人が、デスクワーク中心の業務になった途端に1年で何十キロも太ったというケースもよく聞き、そうした急激な体形の悪化には十分注意が必要と言える。
「体勢」(TAI・SEI)
体の構え方や姿勢などを表す要素が「体勢」である。主に体を静止した状態、例えばデスクワークでパソコンの操作をしているときの姿勢、会議に参加しているときの椅子の座り方、駅のホームで電車を待っているときの立ち方などを指す。
デスクワークや食事の際に背中を丸めて座っている姿は、見た目が良いとは言えない。また、見た目の悪さだけでなく、猫背になればパソコンモニターと目の位置が近くなり、目が悪くなる。また体にゆがみが生じ、腰痛や背中の痛み、肩こりの原因にもなる。さらに脊髄に負担がかかると、心筋、肺、消化器官のトラブルをもたらすことがあるなど、プレゼンティズムにも大きな影響を与える。
また、体勢が悪いことで呼吸が胸式呼吸になり、結果として血流量が減少することがある。血流量が不足すれば、栄養や酸素が体全体に十分に行き渡らず、体調不良や集中力の低下にもつながるのだ。
「体動」(TAI・DOU)
前項の「体勢」は、体を静止した状態を指しているのに対し、「体動」とは体の動かし方のことだ。立ち居振る舞いという言葉があるが、「立ち居」は体勢で「振る舞い」が体動である。
例えば、上司や部下から後ろから話しかけられたとき、振り返らずにパソコンに向かったまま答える人がいる。これは明らかにNGだ。振り返る、または立ち上がって相手に正面を向いて対応するべきだろう。こうした咄嗟の出来事であっても、普段から適切な体の動かし方ができていれば、対人関係にも好影響を与えるだろう。
また、体動が整っていない人は、普段の歩き方にも表れやすい。妙にペタペタと音を鳴らして歩いていたり、かかと部分に重心がかたよってコツコツと大きな音を鳴らして歩いていたりする。自分ではまったく気にならない音でも、オフィスでは同僚に不快感を与え、耳障りだと感じさせているかもしれない。何より、必要以上に音がするということは、不自然な姿勢で動いているということであり、体に大きな負荷がかかっている可能性が高い。
背筋を伸ばして、丹田に力を入れて股関節と脚がつながっていることを意識し、頭のてっぺんから引っ張られているような感覚で颯爽と歩くことを普段から心がけたい。胸を張った良い姿勢が痛みの発生を抑え、ストレス耐性も高くする、という実験結果もある。良い姿勢は感覚だけでなく、感情にも良い効果があるのだ。
6Tの要素は互いに影響し合う
以上が6Tの概要である。6Tは独立した要素ではなく、それぞれが関連性を持ちながら互いに影響し合っている。体の内外の健康を構成する6つの要素なので、たとえ体調や体力が十分であっても、食生活を疎かにすると、脆弱な体質となってしまい、やがては体調や体力にも悪影響を及ぼすという悪循環があることをふまえておいてほしい。
また、6Tのうち体形のみが悪いがために、取引先から信頼が得られずに営業成績が伸びないといったケースもある。あるいは、体形はいいけれど体勢が悪いがために骨盤にゆがみを生じ、腰痛を原因とするプレゼンティズム発生によって、仕事全体のパフォーマンスが下がることもあるのだ。
ここで話した6Tが健康の構成要素のすべてを網羅しているわけではない。あくまでビジネスパーソンにとっての生産性向上につながる健康(=BQ)を考える際に、誰もが理解しやすく、取り組みやすいフレームワークとして押さえておいてほしいものである。
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