多くの人にとって、お金に関する懸念はつきないものだ。しかし、フューチャー・マインド(未来志向)に切り替えることで、衝動的な浪費を抑え、長期的な見解から貯蓄を増やす習慣がつくかもしれない。
「老後より今を楽しみたい」人が3割以上
日々の多忙さのため、「ライフプラン(長期的な経済計画)を立てている時間がない」という人が少なくない。その一方で、「時間は瞬く間に過ぎてしまうからこそ、しっかりと将来のことを考えたい」という、フューチャー・マインドをもった人もいる。
HSBCが2018年に英国で実施した調査 によると、1002人中、31%が「老後のために貯蓄するより、現在の生活を楽しむためにお金を使いたい」 と答えた。また、42%が貯蓄をしているものの、車や旅行などあくまで短期的な目標のためであり、実際に老後資金を貯めているのはわずか29%だった。
この例が示すように、フューチャー・マインドをもって老後のために長期的なライフプランを立てて実行している人の割合は、「今この瞬間が楽しければよい」と考えている人の割合より、はるかに低い。
しかし、こうした考え方の違いが、将来の経済的・社会的成功に影響をおよぼすという、数々の実験結果が報告されている。
今1つ食べる?後で2つ食べる?「マシュマロの実験」
最も有名な例として、1960年~1970年代にかけ、スタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェル博士の研究グループが行った、「マシュマロの実験」が挙げられる。実験の目的は、子どもたちの満足遅延耐性(将来、より大きな成功を得るために、一時的な衝動や感情をコントロールすることができる能力)を測定することだ。
実験では、子どもたちの目の前に、大好物のお菓子(マシュマロ、クッキー、プレッツェルなど)を置き、研究者は部屋から退出する。子どもたちは、お菓子が食べたくなったらベルを鳴らし、研究者を呼ぶ。部屋に呼ばれた研究者は、「今お菓子を食べるなら1つだけ食べてもよいが、もう少し(15~20分)待てるのならば、2つ食べてもよい」と、子どもに選択肢を与える。結果的に約3分の1の子どもが、「1つより2つのお菓子」のフューチャー・マインドを示した。
縦断的研究として、この子どもたちの追跡調査を行った結果、2つのタイプの違いは、思春期に入ると明白に表れた。
重要な試験や社会適応性、感情のコントロールといった幅広い側面で、フューチャー・マインドをもった子どもは、もたない子どもより優れた成果を出し、成人になってからも、極端な攻撃性や過剰反応を示すことは少なく、さらに肥満になるリスクも低かったという。
また、フューチャー・マインドをもった人は、金額に関係なく、貯蓄を増やし、浪費を避ける傾向がみられた。
トレーニング次第でフューチャー・マインドを養える?
それでは、幼少期にフューチャー・マインドをもっていないと、一生目先の欲に走る人生を送ることになるのかというと、決してそうではない。 前述の実験で4~6歳の子どもを比較したところ、実行機能が発達した年上の子どもの方が、「1つより2つ」のために我慢する傾向がみられた。また、実験が実施された状況も、満足遅延耐性に影響を与えたと報告されている。
つまり、幼少期から好きなものが我慢ができないタイプの人でも、以下のようなトレーニングを実行し、フューチャー・マインドに切り替えることは可能だということだ。