教養人=高尚な趣味を持つ人とは限らない
一方で、オフの日はどうだろう。山口氏は、休日をどう過ごしているのだろうか。
「オンの日もオフの日も時間の使い方を明確に分けません。仕事をしたり、気持ちが乗らなければ泳いだり、走ったり、車の整備をして遊んだり──を繰り返す「まだらな時間の使い方」をしています。
働くといっても、平日にできる仕事はやりません。私は、短期と中長期で効く仕事の色分けをしていて、平日は短期の仕事をしています。具体的には、会議やミーティング、資料作成、ワークショップデリバリーといったアウトプット系の仕事です。
休日は中長期の仕事で、将来のキャリアについて考えたり、教養を高める時間に充てます。中長期の仕込みをしないと、知的生産の畑が枯れてしまいます」
私たちは、休日を漫然と過ごしてしまうことも少なくない。
「イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは、『怠惰への讃歌』で次のように指摘しています。『働く時間を減らすのは人類に与えられた最大の課題の一つ。では、なぜ減らせないのか。それは教養が足りないからだ』と。
労働時間が減り、自由と閑暇を手にしても、多くの人は何をすべきかわからず、時間を持て余します。閑暇を有意義に過ごすには、教養が必要なのです。
余談ですが、ラッセルは当時アメリカで誕生したビジネススクールについて、次のような皮肉を残しています。閑暇を語源とするschool は本来、暇な時間を知的に使う方法を学ぶ場所のはず。そこに、忙しさが語源のbusinessを結びつけるとは、撞着語法※として、こんなにセンスがいいものはない──。
ただ、高尚な趣味を持つ人が真の教養人であるというわけではありません。自分が楽しめる奥行きのある趣味があれば、その人は立派な教養人です。
ロックンロールも盆栽も、ジャズもぜんぶ教養です。電車の時刻表を見ているだけで幸せ、これも教養です。なんの役に立つのかはわからないけど、ワクワクするから探求する。これでいいのです。そもそも、楽器やスポーツ、哲学や幾何学といった教養は、古代ギリシアで暇つぶしとして発達したものです。
こうした時間の使い方を知っている人は、人生を豊かにできるのではないでしょうか」
※撞着語法:反意語を組み合わせる文学的技法のこと
『THE21』2019年12月号より
取材構成 野牧 峻
写真撮影 まるやゆういち
山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリー・ヘイグループ参画を経て独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』(光文社新書)『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)などベストセラー多数。(『THE21オンライン』2019年11月08日 公開)
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