経営においての「運」とはなんだろうか。多くの人は「運」というパラメーターは固定値であり、自らの意思で自在に取り扱える変動値とは考えていないだろう。だが、運を科学することで、ハックする価値が見えてくる。

「運」とは外的要因で固定値

運
(画像=fizkes/Shutterstock.com)

運は、「ブームがきた」「競合ができた」などの外的要因として考えられる。それに対して、「魅力的な商品、サービスを開発する」「商品やサービスの質を上げる」などは内的要因となる。内的要因は、売上アップを目指すために着目されやすい要素だ。しかし経営において、内的要因のみ注力するケースは少なくない。しかし、商品やサービスを購入するかは顧客次第であり、手出しのできない外的要因とも言えるのだ。結果、運という外的要因を「固定値」として捉えがちである。

そもそもその商品を買うためのお金を持っていない相手なら、どうやっても相手に買わせることができない。故に顧客の気持ちは手の出しようがなく「運は固定値である」と投げやりに捉えている社長もいるだろう。

運は引き上げられる

だが運は固定値ではない。運を引き上げることこそ、社長の仕事とも言えるのだ。たとえば営業をかける上で闇雲に数をこなす力技で突破するのは、今ほどものが溢れていなかった時代にのみ通用する昭和の思考だ。今は競合他社も無数におり、顧客から選ばれる理由を必要とする。

筆者は高級フルーツギフトや、英語多読のオンライン学習プログラムをはじめ、様々な商品、サービスを提供している。その際、運を引き上げるためにサイトに流入した時から、販売、購入後サポートに至るまで様々な要素を分解して改善する工夫をしている。「鬼速PDCA」という書籍では、改善ポイントに複数分けることを「因数分解」と呼んでいる。

筆者の場合、売上の要素を分析したところ、サービスの紹介ページへ飛ぶバナーへのクリック率が極端に低いことが分かった。端的にいえば、サイトに流入した潜在顧客にとって、このバナーは無視されていたのだ。それでも売上はそこそこ上がっていたが、このクリック率を2倍にできれば、売上は大きく高まることは因数分解の結果ハッキリと見えた。

そこでバナーのキャッチコピーや、画像などを複数パターン試していった結果、売上は改善前に比べて約5倍に伸びた。

サイトに流入する人、そこから買う人は運次第だ。だが、運任せにして放置をするのではなく、成約という結果に結びつけるためにも、運を引き上げるための努力をするべきなのだ。

魚が釣れる場所で釣りをする

魚釣りは、魚が釣れる池や海でするものだ。ほとんど魚が住まないところに釣り糸を垂らしても、高い効果は得られない。魚釣りは運任せではあるが、釣る場所を選べば結果も大きく変わってくる。

当たり前の話ではあるが、ビジネスをする上でこの当たり前が意外と理解されていないケースは多い。例を挙げると、見込み客に訴求する情報収集ができていなかったり、千客万来で誰彼構わず売ったりするセールスなどだ。これでは、労力と成果は比例しない。釣り糸を垂らす場所を考えなければ、同じ運でも結果は何倍、何十倍も違ってくる。

もっとも運が高いのはリピーター

どんなビジネスでも言い尽くされていることだが、リピーターほど重要顧客はいないのだ。常に新規開拓し続けるのは、経営も安定せず獲得コストがとても大きい。だが、顧客満足度を高めてリピート顧客に育てることができれば、商品・サービスを出す度に何度でも購入してくれる。筆者はセミナーを運営しているが、参加者の中には何度も参加してくれるリピーターがいる。セミナーの告知を出せば、リピーターがすぐさま申し込みをしてくれるので、もはや空席に怯えることはなくなった。

つまり、ビジネスにおいて運の要素を可能な限り高めるには、ファンを作るということにほかならない。ファンを作れば購入してくれ、そこで満足してもらえばまた次も買ってくれる。リピーターをたくさん持てば、それだけで商品を売り上げる確率をドンドン高めていくことが可能だ。

ビジネスにおいて「運だから手の出しようがない」と諦めてしまうのではなく、「運は意識的にハックするもの」という思考で取り組むことが重要と言える。最近ではネットビジネスで稼ぐ人も増えたが、低い成約率のままで大量にPVをかき集めて力技で売上をあげることではなく、少ないPVでもその数少ない1PVを心底、惚れ込ませるつもりで取り組むことで、ビジネスを発展させることができるのである。

運をハックする、というのは平たく言えば「効率を上げる」ということにほかならないのである。

文・黒坂岳央(水菓子 肥後庵 代表・フルーツビジネスジャーナリスト)

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