(本記事は、トマス・J・スタンリー氏(著)、広瀬順弘氏(訳)の著書『1億円貯める方法をお金持ち1371人に聞きました』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

金持ちが考える「運」は、ふつうの人とはちがう

運
(画像=alisafarov/Shutterstock.com)

自力で億万長者になった人たちは、進んでリスクを負い、強い自制心や目的意識を持って一生懸命働いたことが蓄財につながったとまちがいなく答えるだろう。ところが、およそ8人に1人の割合で、自分の経済的成功を説明するのに欠かせない要素は運だったと信じている億万長者がいる。実際、彼らが運と見なしているものと高い純資産額のあいだには、非常に興味深い関係がある。

運が経済的成功をもたらすと信じる人は、高収入を得ているが億万長者ではない人たちのあいだでは約9%、100万から200万ドルの純資産を有する億万長者のあいだでも同じく約9%にとどまっている。しかし、純資産が1000万ドルを超えるスーパー億万長者になると、なんと5人に1人以上(22%)が、経済的成功を収めるのに運が〈非常に重要〉だったと信じているのだ!また、10人に4人が、運が〈重要〉だったと回答した。

もし運が裕福になるための秘訣であるというなら、私たちはみなギャンブルに手を出すべきなのだろう。しかし、これらの億万長者たちが口にする「運」というのは、カジノの常連客や宝くじ愛好者にとっての運とは、いささか性質を異にする。

億万長者はギャンブル業界のお得意様ではない。過去12ヵ月間にカジノに足を踏み入れたことのある億万長者は4人に1人しかいない。その1人にしても、カジノのあるホテル、もしくはその近辺で開かれた産業見本市や同業者の会合に出席したついでに立ち寄っただけ、というケースが少なくない。

それでも、金持ちたちは運も経済的成功の1つの要因であると信じていて、それを自明のことのように口にするが、それは別のタイプの運なのである。運の果たす役割をとりわけ強く確信する億万長者たちは、次のように感じているのだ。

仕事に打ち込めば打ち込むほど、運もよくなるのです!

この言葉をアンケート用紙に書いてきたのは、純資産額が2500万ドルを超える人物だった。つまり、彼のような考え方をする億万長者にとっての「運」とは、天候や競争相手の出現、金融政策、個人所得の変動、景気後退といった、自分一人では制御不能な要素を左右するものなのである。

自営業を営む、純資産額1000万ドル以上の億万長者の考え方を、高収入の弁護士や医師と比べてみるのも面白い。こうした専門職に就く人たちの大半は、自身の成功を説明する因子として運を除外する。成功は、自分の積み重ねた実績の結果にすぎないと考えるのである。

彼らは学業に励み、大学で優秀な成績を収め、ロースクールやメディカルスクールに入学を許可された。そこでも必死に学んで、自分に適した専門分野を選び、賢く投資した。だから裕福になった──ほとんど、敷かれたレールの上を走ってきたようなものなのである。

だが、自営業者や起業家たちはどうか?彼らの成功は、事業を開始した時点では、明確に予測できるものではなかった。経済的成功を収めるまでには、いろいろと予期せぬ出来事が起こった、と多くの人が語っている。だが、それらの予想外の出来事が、彼らの収支に好影響を及ぼしたのである。

こうした人々のなかには、決断を迫られたときの自身の直観が功を奏したと信じている人もいる。しかし、トップレベルの資産を築き上げた人たちのあいだでは、むしろ運のほうが、財を成すうえでより重要だったと信じられている。リスクには運はつき物なのだ。

●リスクは冒してもギャンブルはしない

高額所得者1001人に、簡単な質問をしてみよう。

妥当な収益が見込めるときには積極的に金銭的リスクを負うという姿勢は、あなたの場合、経済的成功を達成するうえでどれだけ重要だったと思いますか?

この問いに〈非常に重要〉と答える人は、数百万ドルを超える純資産の持ち主である確率がかなり高い。じつに、10人中4人以上(41%)の1000万ドル級億万長者が〈非常に重要〉と答えている。純資産額が100万ドル以上200万ドル未満のグループで同じ答えを選んだのは、およそ10人に2人(21%)しかいない。では、億万長者ではない高額所得者の回答はどうだろう?経済的成功の要因を金銭的リスクをいとわなかったことだと答えたのは18%にとどまった。

リスクを積極的に負う姿勢と純資産額のあいだには、明らかに無視できない結びつきが見られる。経済誌がしばしば喧伝する「リスク対報酬」理論は、ここでもまた証明されたわけである。経済的に成功したのはリスクを冒した結果だと考える人たちは、資金の投資対象にうるさく、ほぼ全員がギャンブルを金の愚劣な浪費と見なしている。

結局、宝くじが当たるかどうかは、偶然の問題でしかない。金持ちや金持ち予備軍の大半は、宝くじを買わない。ギャンブルもしない。金銭的リスクに挑む人がギャンブラーであることは、きわめて稀なのだ。

私がインタビューした億万長者たちは、確率論を理解していた。つまり、オッズ──予想される配当率をちゃんと知っているのだ。実際、宝くじの予想配当は驚くほど少なく、「宝くじに金を注ぎ込むくらいなら、毎週札を数ドルずつマッチで火をつけて燃やしたほうがまし!」である。

たいていのギャンブルについて同じことが言えるが、とくに宝くじでは、購入者は選ばれる当選番号をまったくコントロールすることができないばかりか、オッズも見当がつかず、予想配当は宝くじの代金よりも安いときている。当たる確率を上げるには、もっと宝くじを買う以外に手はない。

さほど裕福でない人たちは私にこう言う。週にわずか1、2ドル、多くてせいぜい10ドルの金を賭けるだけだ。それに対して、当たる金額を見てみろ、と。だが、予想配当はいくらになる?仮に、100万ドルの宝くじが450万枚売り出され、そのうちの1枚を買ったとしよう。当選率450万分の1に対し、賞金はたったの100万ドルである。

その100万ドルにしても、そっくりそのまま手にできるわけではない。当選者は分割払いと一括払いのどちらかを選ばなければならない。もし賞金を毎年10万ドルずつ10年間にわたって受け取ることにすれば、貨幣価値で現在の100万ドルより目減りが生じる。また、一度に全額を受け取ることにすれば、課税されて100万ドルを大きく下回ってしまう。

要するに、宝くじ1枚に投資した1ドルに対する真の予想配当は、1ドルより小さいのだ。50セントを切ることも多い。リスクに対する報酬という考え方からすれば、宝くじの類のほとんどは消費者搾取である。

宝くじを買う頻度と、その人の資産レベルのあいだには、非常に顕著な反比例関係がある。純資産額でグループ分けした場合、過去30日間に宝くじを購入したことがある人の割合は、1000万ドル級億万長者が最も低く、100万ドル未満の非億万長者が最も高かった。

両者の比率は1対2.7。過去30日間に宝くじを買ったことがある1000万ドル級億万長者1人に対し、非億万長者は3人近くいた計算になる。ここで注意してもらいたいのは、これら非億万長者も、年間10万ドル以上を稼ぐ高額所得者だということである。もし収入をもっと本格的な投資に回していたら、彼らも億万長者の仲間入りをしていたかもしれない。

「たかだか週に数ドルじゃないか」と、反論する向きもあろうが、お金の問題だけではない。時間の問題でもあるのだ。くじ1枚を買うのに10分かかると仮定しよう。この10分には、行列に並ぶ時間、売り場まで出かける時間が含まれる。購入頻度は週に一度としよう。すると、1年で520分も、この大金を手に入れる可能性がほぼゼロに等しい行為に割り当てられることになる。

さらに、520分というのは、換算すると8.7時間になる。標準的な億万長者の1時間あたりの稼ぎは約300ドルである。とすれば、億万長者がどうして近所の宝くじ売り場に毎週立ち寄ったりしないのかが理解できよう。その8.7時間はもっと生産的な活動、たとえば仕事や新しい技能の習得、家族や友だちとの交流に当てられるのだ。

これを時給で計算すれば、億万長者が宝くじを買わずに稼ぎ出す金は300ドル×8.7時間、すなわち年間2600ドルになる。これが20年間続くと、その額はじつに5万2000ドルとなる。もし、この金が全額、同じ期間ホームデポ社の株に投資されていれば、今ごろは数百万ドルに膨れ上がっていたことだろう。

同じ計算を、1時間の労働で1000ドル近くを稼ぎ出す1000万ドル級億万長者に当てはめてみると、宝くじを週1回買うことによって年間8700ドル、20年で17万4000ドルの損失となる。想像してもらいたい。この金額で上の例のようにうまく投資していたら、100万ドルは下らない儲けになっているはずなのだ。

独力で億万長者になった人たちは、宝くじの購入にあてる時間と金があるなら、もっと生産的な活動に回すべきだと心得ている。あまりにも多くの大人が、この望みの薄いゲームに人生の貴重な時間を費やしすぎている。宝くじ業界に長く忠誠を尽くしていれば、優れた投資家になれるだろうか?よりよい父親、よりよい経営者になれるだろうか?

1億円貯める方法をお金持ち1371人に聞きました
トマス・J・スタンリー
アメリカにおける富裕層マーケティングの第一人者。ジョージア州立大学の教授職を経て、ニューヨーク州立大学オルバニー校マーケティング学部の教授となり、1973年にアメリカ全土の億万長者を対象とした初の大規模調査を実施。富裕層向けビジネスを行なう企業や金融機関へのアドバイザーとして活躍。2015年逝去。主な著書にベストセラー『となりの億万長者』(早川書房)。
広瀬順弘(ひろせ・まさひろ)
1932年東京生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。アメリカ大使館広報文化局勤務を経て翻訳家となる。フィクション、ノンフィクションを問わず幅広く活躍。2007年逝去。

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