(本記事は、トマス・J・スタンリー氏(著)、広瀬順弘氏(訳)の著書『1億円貯める方法をお金持ち1371人に聞きました』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

億万長者は学校で何を学んだか

学校
(画像=AN NGUYEN/Shutterstock.com)

私は高校へ通う子供を持つ親たちから、教育上の問題を相談されることが多い。そうした親たちは、非常に教育熱心なのだが、あまりにも熱心すぎて子供までパニックに陥らせてしまっているケースがよくある。

ある母親は、自分の子供がいわゆる「TAGプログラム」に選ばれなかったことを理由に、学校に対して訴訟を起こそうと考えていた。TAGとは「有能で天分に恵まれている」の略で、その母親は、自分の息子が有能かつ天分に恵まれていると強く思い込んでいた。だが、TAGに選ばれるのは生徒のおよそ5人に1人だけであり、合否を決めるのは主として統一テストの点数、それに中学校での主要科目の成績だった。

この母親は、息子がOTTAG──「有能で天分に恵まれている者以外」に分類されてしまうという不名誉を恐れていた。たとえば、433人の生徒がいる2年生のクラスの場合、TAGの割合は20%だから、残りの80%、およそ346人の生徒はOTTAGとなる。

OTTAGに分類されたからといって、その子供が生産性の高い大人になれないわけではない。ただ、心配なのは、感受性の強い子供にこうしたレッテルを貼ったせいで、子供が潜在能力を発揮できなくなってしまうことである。子供が自分に才能がないと信じ込み、天分に恵まれた者しか人生で成功できないものだと決め込んでしまうかもしれない。

レッテルというものは、人にその内容と一致した行動をとらせてしまうことがよくある。この母親のケースでは、息子の将来をレッテルが左右すると母親が強く信じているわけだが、彼女がそう信じ込むことによって、本当にそうなってしまう危険性がある。息子が将来落伍者になるかもしれないと思い込んだら、息子はそれを感じとって、それに合うような行動をとってしまうかもしれないのだ。

しかし、人生は短距離レースではない──典型的なマラソンなのだ。レッテルは貼られてはすぐに消えてゆく。不名誉なレッテルを貼られようとも、必ず成功できると信じていれば、たいていの人生マラソンに勝つことができる。これはほとんどの億万長者たちが共有している経験なのだ──これこそが、私がこの母親に伝えたことである。

それから私は彼女に、別のことも言った。OTTAGのようなレッテルを克服することで、その人間は強くなれる。それは鋼にチタンを加えるようなものだ──そうすることで、鋼は単体のときにくらべて何倍も強くなる。アメリカの実業界のトップ、弁護士、医師たちなどのうち、かつて劣等生とか、さらに悪いレッテルを貼られたことが一度もないと答えたのは、ほんの一握りだ。

誰もがクラスの卒業生総代になれるわけではない。その他の人たちにも、成功への無数のチャンスが残されている。両親が一貫して子供に成功できると言いつづければ、その子は生産的な大人になる可能性が高いのである。

つまり、この母親は考えを転換させるべきなのである。訴訟のために用意した資金を充てれば、息子のために家庭教師を雇うことができる。しっかり勉強すれば目的はきっと達成できる、と息子に言ってやるのだ。レッテルのせいで16歳の生徒に未来がないと決めつけるなど、恥ずべきことである。

私は億万長者たちに、大学時代の成績についても尋ねた。あなたはトップの1%に入る成績で大学を卒業しましたか?決してそんなことはなかった。調査した億万長者のうち、トップの1%に入る成績だったと回答したのは約2%である。ここからわかるのは、経済的に成功するのはトップの成績で卒業した者たちではなく、また、及第点すれすれの成績で卒業した者たちでもないという事実である。

億万長者たちのなかで、大学では成績がB、C、D、FよりもAの割合が多かったと答えたのは、10人中3人程度にすぎない。全体としては、成績評価点の平均値は2.91よい成績ではあるが、格別めざましい成績でもない。

ほとんどの億万長者たちは、学校での経験が、その後の人生で生産的な大人になるうえでなんらかの形で影響していると述べている。ただ、細かく見ていくと、とりわけ重要な経験、成績やレッテルなどよりもずっと重要な経験がある。それは、「確固とした労働観を形成した」ことである。この経験が経済的生産性の高い大人になるうえで〈重要〉だったと考える億万長者は、ほぼ全員に近い。

もちろん、億万長者たちは、単に勉強することや授業に出席することによって「確固とした労働観を形成した」のではない。彼らの多くは学校へ通いながらパートタイムの仕事をし、かなりの時間をかけて人を的確に判断する方法を学んだのである。そして、この学習プロセスは、彼らがキャンパスの内外で参加した多くの社会的交流や活動を通して強化されていった。

そうしてみると、「勉強ばかりしている子供は馬鹿になる」という諺は真実をついているようにも思えてくる。富を築こうと思うなら、多種多様の技術や能力を身につけるのがベストで、よく勉強し、働き、社会活動に参加し、人との関わりを楽しむことが大切なのだ。

億万長者が学校時代に重要と考えているのは、確固たる労働観、時間や資源の効率的な割り当て、判断力、粘り強い精神力、共感能力といった、単なる勉強の枠組みを越えた、より社会的な経験なのである。

●両親の前向きな言葉が成功をもたらす

ではここで、今日成功している人たちは、人格形成期にどのような家庭で育ってきたかを見てみよう。自力で資産を築いた、いわば第一世代の億万長者たちの大部分は、情愛深く、思いやりのある、調和のとれた、離婚の可能性などほとんどありえない両親のあいだに生まれている。ほとんどの両親が、最後まで離婚せずに暮らしつづけている。

よくマスコミは、悲惨な家庭環境から必死で這い上がった立志伝中の人物というイメージを喧伝したがるが、実際には、億万長者の大多数はストレスのある家庭環境では育っていない。

経済的に成功している人たちの親は、一般的に、考え方がポジティブである。そうした親の支えや建設的な意見は、子供が批判を跳ね返すための精神的な鎧を形作る土台となる。また、こうした親は、子供に将来の成功を妨げる心理的な障壁を築かせることは決してない。

父親が子供を虐待することもないし、他人より優秀になれ、優秀になれと絶えずプレッシャーをかけることもない。

億万長者になった人たちが、学校時代にあまり芳しくない通知表を家に持ち帰ると、両親は決まって次のようなことを言った。

・おまえはもっとできる。
・調子を取り戻す方法を見つければいいのよ。
・問題をいくつか、一緒に解いてみよう。
・私もこの科目にはいつも手を焼いたが、とにかくなんとかやり通すことだ。
・微積分法は数学の天才が一生かけて編み出したのよ、だから、すぐに理解できなくたってがっかりすることはないわ。

さらに、以下のような講釈がつづく。

だから、クラスメートのブライアンが全科目でAをとって、卒業生総代になったからって、なんだっていうんだ。ブライアンは毎日勉強ばかりしている。友達はいないし、課外活動もしていない。私だったらブライアンではなく、おまえを雇うよ、トッド。おまえは成績はBでも、いい生徒だ。学級委員長で、学校代表チームのレギュラー選手だ。おまえには幅広い才能が有るから、必ず成功できる。

きっとブライアンは、いつかおまえのような人間の下で働くことになるよ。クラスの順位なんかで、先生にこれからの人生でやれることを決めさせちゃいけない。先生がそんなに将来を予測できるんなら、今頃ウォール街の株取引で億万長者になってるか、ラスベガスでギャンブルの胴元になってるだろうさ。

親という、子供にとっては権威ある立場の相手の言葉から、トッドは何を得たか?鎧である!トッドは彼の将来を悲観的に見なそうとする者からの攻撃をかわし、自分の身を守る方法を学んだのだ。一方、全科目でAをとり、卒業生総代に選ばれた優等生のブライアンは、ビジネスの世界で成功するために必要な、精神的な鎧を身につける機会に恵まれなかったということになる。

ビジネスの世界では、長年にわたって懸命に働きつづけても、次の年には破産してしまうことがある。また、最高に素晴らしい事業計画を添えて融資申込書を提出しても、銀行から貸し付けをはねつけられることがある。

ある億万長者の定義によれば、銀行の融資担当者は、ノーと言うしか能のない「ドクター・ノー」の集団だという。そうした人々からの否定的な評価にくじけることなく、融資が認められるまで大胆に食いさがれるのは、きっとトッドのように精神に鎧をまとった人物たちにちがいない。

自力で億万長者になった人たちに、最近高校の同窓会に出席したことがあるか、あればそこで何が最も印象に残ったかと尋ねると、だいたいこういう答えが返ってくる。

高校のクラスでいちばん頭がよくて人気者だったやつが、いまはあまり順調にやっているようには見えないんですよ!

たいていの億万長者は、同窓会に出るとなにか場ちがいな気がして落ち着かないという。多くの場合、「最も成功する可能性が高い」と見なされ、知能に恵まれ、教師たちから太鼓判を押された優等生は、同窓会ではもはやトップ集団のなかにはいない。ではトップに立っているのは誰か?ブライアンではなく、トッドのような人物なのである。

1億円貯める方法をお金持ち1371人に聞きました
トマス・J・スタンリー
アメリカにおける富裕層マーケティングの第一人者。ジョージア州立大学の教授職を経て、ニューヨーク州立大学オルバニー校マーケティング学部の教授となり、1973年にアメリカ全土の億万長者を対象とした初の大規模調査を実施。富裕層向けビジネスを行なう企業や金融機関へのアドバイザーとして活躍。2015年逝去。主な著書にベストセラー『となりの億万長者』(早川書房)。
広瀬順弘(ひろせ・まさひろ)
1932年東京生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。アメリカ大使館広報文化局勤務を経て翻訳家となる。フィクション、ノンフィクションを問わず幅広く活躍。2007年逝去。

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