(本記事は、トマス・J・スタンリー氏(著)、広瀬順弘氏(訳)の著書『1億円貯める方法をお金持ち1371人に聞きました』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

億万長者の現実と幻想

余暇活動
(画像=New Africa/Shutterstock.com)

まず最初に、典型的な億万長者をイメージしてほしい。億万長者には成功を収めた自営業者や経営幹部、医者、弁護士などが多い。彼らは高級住宅地に建てられた、平均評価額が140万ドルの邸宅に住んでいる。90%の人が大学を卒業した高学歴の持ち主で、世帯の年間総所得は平均60万ドル以上、純資産は7桁を下らない。

仕事を離れたら、そうした大金持ちはどんな生活を送っているのだろうか?億万長者の多くは仕事中毒ではないし、ハリウッド映画が描くような派手な暮らしぶりをしている人はほとんどいない。忘れてはならないのは、億万長者とは、高い収入を稼ぎ出し、資産を貯えることに成功した人たちだという事実である。

だから当然、この2つに関連した事柄に最も時間を割いている。たとえば、資産運用計画を練ったり投資アドバイザーに相談したりといったことにだ。しかし、それ以外においては、データが示しているとおり、一般の人と何ら変わりない生活を送っている。ほんの数点を除けばちがいはないと言っていいくらいである。だから、私は億万長者のライフスタイルについて聞かれると、いつもこう短く答える。

典型的な億万長者というのは、いたって質素なもんだよ!

さて、ミリオネアたちが行った余暇活動の上位2つは何であったかというと──

1 子や孫との交流。
2 親しい友人との交流。

なんと、億万長者たちがその余暇に行ったことのなかで1位にランクされたのは、家族との交流だった。そして、2番目に多かったのは友人との交流である。

誰にも、子供時代に仲のよい友だちと一緒にやった泥んこ遊びやブランコなど、金のかからない遊びが何よりも楽しかった記憶があるのではないか。億万長者たちも、親しい友人とのつき合いにはそれほど金をかけない。数人の友人をブリッジやディナーに呼ぶのに、いったいどれほど金がかかるだろうか?大してかかりはしない──何よりも大事なのは親しい友人との心の交流だからだ。

ところが、若い人たちの多くは、楽しみは金で買うものだと思っている。だから巷には、金で買える楽しみを謳い文句にした商品やサービスが氾濫しているのだ。

しかし、果たして、親友と遊ぶのに5万ドルもするボートがどうしても必要だろうか?ジェットスキーなしでは1日も生きていけず、友だちもできないのだろうか?ディズニーワールドに行って大金を使わなければ楽しい思い出は残せないのだろうか?スキー場に別荘を持っていなければ旧友は離れていき、新しい友人もできないのだろうか?

真の友人とは、たとえ高価な消費財などは何も持っていなくても、一緒にいるのが楽しいからといって遊びにきてくれるような存在なのである。

億万長者たちは、たとえ1000万ドル級のスーパーリッチであれ、高価な消費財に頼らずに人生を楽しんでいる。この事実を若い人たちは知っておくべきだろう。ミリオネアたちは家庭、友人、宗教、経済的自立、健康といった幸福の基本的条件を基盤として自己充足をはかり、あとは少々のゴルフを楽しむぐらいなのだ。

なかには、何百万ドルもの消費財に取り囲まれながら、親しい友人も愛する家族もいないというミリオネアもいる。だが、そんな惨めな生活をしている億万長者はほんの一握りに過ぎない。

●ただ観るだけでなく

金持ちというと、毎日ゴルフやテニスばかりやっているように皮肉まじりに描かれることが多いようだ。事実、億万長者の多くはゴルフやテニスを趣味にしている。ちなみに、資産レベルとゴルフをする回数とのあいだには、かなりはっきりとした相関関係が見られる。

資産1000万ドル級のスーパーリッチがゴルフをプレーする回数は、ミリオネアでない高所得層の約2倍である。

多くの億万長者にとってゴルフは重要な意味を持っているが、スポーツに関連する活動のなかには、もっと重要視されているものがある。調査対象となった1ヵ月間はゴルフ・シーズンだったにもかかわらず、ゴルフをしたと答えた億万長者は45%で、すべての活動のなかでも13位にとどまっている。これに対して、ミリオネアたちの61%がチェックマークを入れているのが──

自分の子供や孫のプレーするスポーツを観戦する。

つまり、億万長者の多くが、ゴルフ(45%)やテニス(23%)をするより、子供たちのプレーするスポーツを観戦するほうを優先させているのだ。ただし、億万長者たちはただ単に愛情のみからそうするわけではない。調査対象となった億万長者のほぼ半数が、学生時代に何らかの団体競技を体験していて、その体験から大事なものを学んだと思っている。

競争意識を育んだり、チームワークの重要性を身につけることができたと感じているのだ。また、学生時代にスポーツをやっていた人は、社会人になってからも、そうでない人より多く運動することもデータからわかっている。定期的な運動が、健康な身体と健全な精神づくりに役立つことは言うまでもないだろう。

こうした理由から、億万長者の大半は自分の子供たちにスポーツをやらせている。円満な人格形成の一環として、スポーツは必要と考えているからだ。だから、ミリオネアたちは貴重な時間を割いて、子供たちのプレーするスポーツを観戦する。これは、べつに億万長者がふつうの人よりステータスが高いからとか、より子供を愛しているからというわけではなく、時間をどう使い、何を優先させるかの考え方の問題なのである。

純資産レベルが高い人ほど、子供のプレーするスポーツを観戦する頻度が高くなる。

これはどういう理由からなのか?それは、資産レベルが高い人ほど、自由に時間配分を決められる立場にあるからだ。放課後に行われるスポーツ行事を観に行く親は、ブルーカラー層より富裕層のほうが圧倒的に多い。億万長者の多くは、自身が経営する会社のオーナーか、弁護士などの専門職なので、自分でスケジュールを組むことができる。

だが、工場の作業員やトラック運転手といったブルーカラー層は、仕事を優先させざるをえない。億万長者とふつうの人の大きなちがいは、その報酬の支払われ方にある。億万長者の場合は通常業績や成果に対して報酬が与えられるが、ふつうの人の場合は労働時間や仕上げた製品の数など、拘束された時間や労働量によって給与が支払われる。となると、経済的成功の鍵となるのは、自分で時間をやりくりできる職業に就けるかどうかということになるようである。

●安上がりなライフスタイル

人は同時に2つの場所にいることはできない。だから、子供の野球を観ながら、ブルックスブラザーズのような名門店で買い物はできないし、カジノでスロットマシンを楽しむのも不可能である。この考え方が、億万長者たちの安上がりなライフスタイルの根底にある。

億万長者たちが余暇をどんな活動に使っているかだが、金のかかる活動より、かからない活動のほうが多いことがわかる。しかも、金のかからない活動は単に安上がりであるばかりではない──じつは仕事に役立つ場合が多いのだ。

億万長者の半数近くがお祈りに時間を割いている。神様に相談するのに費用はほとんどかからない。それでいて信仰はその人の人生を支える役割を果たし、正しい判断や不屈の精神を生む重要な要素になっているのだ。

安上がりなライフスタイルには、もっと別の側面もある。大半のミリオネアたちは、日曜大工などを自分でやるDIY(ドゥ・イット・ユアセルフ)派ではない。とくに、完成までに何時間もかかる大工仕事はやらない。時は金なり、と心得ているからだ。

億万長者の主たる仕事場での時給は、平均して320ドルである。仮に柵を取りつけるとしよう。板をのこぎりで切り、やすりで磨く下準備だけで軽く1時間はかかる。材料を買いに行く手間も忘れてはならない。取りつけにはもっと時間を要する。10ドルの板を壁に取りつけるのに4時間かけるということは、彼らにとっては1050ドルから1400ドルの損失に匹敵するのだ。

億万長者たちが日曜大工をやらないのは、金銭的な理由からばかりではない。金持ちは日曜大工をする代わりにゴルフをする。億万長者がゴルフに費やす時間と日曜大工に割く時間とのあいだには、明らかな反比例の関係があるのだ。むろん、ゴルフはゴルフ場の会員権購入費、グリーンフィー、道具代、ウェア代と非常に高くつくスポーツである。しかし、億万長者たちはゴルフにかかる費用を、必要経費だと見なしている──

ゴルフ自体が目的ではないんだ。ゴルフは新規の顧客の獲得に役立つし、既存の顧客を喜ばせることにもなる。

とはいえ、億万長者の余暇活動に占めるゴルフの順位は13位で、3位の「資産運用計画」を練ることに比べるとかなり低い。これもまた安上がりな活動なのである。私は研究や執筆のために図書館をよく利用するが、そこで億万長者たちをしょっちゅう見かける。彼らは金融専門誌や投資家向け雑誌などを借りるために列をなして待つ。もちろん、図書館を利用するのに費用は1セントもかからない。

1億円貯める方法をお金持ち1371人に聞きました
トマス・J・スタンリー
アメリカにおける富裕層マーケティングの第一人者。ジョージア州立大学の教授職を経て、ニューヨーク州立大学オルバニー校マーケティング学部の教授となり、1973年にアメリカ全土の億万長者を対象とした初の大規模調査を実施。富裕層向けビジネスを行なう企業や金融機関へのアドバイザーとして活躍。2015年逝去。主な著書にベストセラー『となりの億万長者』(早川書房)。
広瀬順弘(ひろせ・まさひろ)
1932年東京生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。アメリカ大使館広報文化局勤務を経て翻訳家となる。フィクション、ノンフィクションを問わず幅広く活躍。2007年逝去。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます