(本記事は、トマス・J・スタンリー氏(著)、広瀬順弘氏(訳)の著書『1億円貯める方法をお金持ち1371人に聞きました』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

高価な靴のほうが安上がりである

靴
(画像=Daniel Jedzura/Shutterstock.com)

金持ちというのは、商品をせっせと買っては使い捨てにしているのではないか?物を修繕して使う、とくに靴を靴底の張り替えによって長持ちさせるなど、考えただけでぞっとするにちがいない。だが意外にも、億万長者に関する私の全国調査の結果は、そのような仮設とは遠くかけ離れていた──取材調査した億万長者の70%は、靴底の張り替えをしているのだ。

しかも、この数値は実際より低めになっているはずである。というのは、億万長者の約20%はすでに仕事から引退しているから、ふだんはスーツを着ることがなく、したがってビジネスシューズも履かないのである。

調査した男性の億万長者の8割は、オールデン、アレンエドモンズ、ジョンストン&マーフィーといったブランド品の高級紳士靴を履いている。この種の靴は、アメリカの一般家庭のクロゼットにあるような代物よりもずっと高価で、2、300ドルはする。なぜ彼らは、高価な高級靴を好むのだろうか?

一般の人たちが靴を買うときに値段を決め手にするのに対して、億万長者は購入時の値段はあまり気にかけない。靴の値段ではなく、品質を重視するのである。彼らにとって品質のよし悪しとは、製品の寿命を加味したコストによって決まるものである。

私はオールデンのタッセルローファーを10年以上履いているが、靴底を張り替えた(靴底全面を取り替えた)のは2回だけだ。しかも、この靴は流行に左右されることがなく、履き心地も抜群にいい。だからこそ高価なのだ。

調査に協力してくれたある億万長者は、いわゆる安物紳士靴について苦い経験を語ってくれた──

安い靴は、靴底よりも人間の足のほうが擦り減るよ!

では、「製品の寿命を加味したコスト」について、もう少し具体的に考えてみたい。私はオールデンの靴を10年間愛用している。日数にして、およそ1600日履いたことになる。購入当時の価格は100ドルで、靴底の張り替えを1回50ドルで2回している。

したがって、これまでのコストは200ドルである。それに、上等の靴型に費やした20ドルを加えると、総数220ドルになる。高級靴の寿命を延ばすためには、靴型はきわめて重要なのだ。

220ドルを1600回で割ると、1回あたり14セント以下になる。参考までに、私の大学生の息子が靴にどれほど金をかけているか打ち明けよう。息子はナイキやアディダスのスポーツシューズを──履きつぶしたり、流行遅れになって履かなくなったりして──1年にだいたい6足買う。

妻の計算によると、息子が靴を履く回数は、1足につき80回から100回ぐらいである。値段は1足65ドルから85ドルで、長くもって100回履けたとしても、寿命を加味したコストは、1回あたり65セントである。

これらの数値を考慮すると、靴に余計に金をかけているのは、300ドルのカーフスキン・ローファーを買う大金持ちの重役だろうか、それとも85ドルのスポーツシューズを買う大学生だろうか?外見はあてにならないものである。

同様に、製品の最初のコスト、つまり購入価格も、それだけでは本当に安いかどうかはわからない。ショッピングの際には、買おうとする製品の「寿命を加味したコスト」を考えてから購入するほうがよい場合が多いのだ。

金持ちがアンティークな家具を好む理由

億万長者の家のなかを見たら、あなたは驚くかもしれない。おそらく誰もが、最新デザインの家具や調度品がいっぱいの、豪華きわまりない屋内を想像するだろうからだ。そんな、世間の描くミリオネア像は、この際捨ててもらわなくてはならない。

億万長者がどんなインテリアを選び、どのような家具を購入するかは、映画やテレビでは本当のところはわからない。ハリウッドの映画スターが夫や妻をしばしば替えるように頻繁に家具を替えるわけではないのである。

億万長者のほとんどは、古風な一戸建て住宅に住んでいる。多くはコロニアル風のどっしりとした屋敷に住んでいて、なかには英国チューダー様式の邸宅も見られる。インテリアはやはりクラシックな家具で占められ、なかでも植民地時代様式のものが最も多い。つまり、最新のモダンな家具は買わないのだ。

ミリオネアたちが好むのは、決して流行に左右されることのない、高品質の古風な家具なのである。億万長者の家具には、もう1つ、注目すべき特徴がある──材料は本物の木材で、オガクズを接着剤で固めたまがい物の素材でもなければ、チップボードに高級木材の薄い板を貼った合成板でもない。

億万長者は無垢材でつくった家具か、そうでなければ高級硬材に上質の合板を貼った家具を選ぶ。また、正真正銘の「古い」アンティーク家具や骨董品を所有している億万長者も多い。

億万長者の目から見ると、そういう家具こそ真に高品質といえるのであって、この「高品質」という評価には、家具の作りのみならず、耐久性も含まれる。極上の家具は、最低限の手入れをするだけで1世紀以上はゆうにもつ。この物理的な長寿が大きな特徴なのである。

ここ数年の価格の推移を見ても、品質のよい家具の評価額は上がりつづける傾向にある。ところで、われわれの買う消費財の中で、今日買って明日になったら値上がりするものがいったいいくつあるだろうか?

4年前に3万ドルで買った自動車はどうか?昨日500ドルか800ドルで買ったスーツは?参考までに、ほんの一例を挙げよう。10年前、あるいは20年前に買ったヘンケルハリスやベイカーの家具は、現在では買値の2倍以上の値段で売れる。

当然ながら、億万長者には収集家が多い。おそらく親たちも収集家で、その性質を受け継いだのであろう。両親も祖父母も、値打のあるものは手放さない人たちだったにちがいない。とにかく、「物をむだにするな、新品を欲しがるな」が、ミリオネアたちの多くが実践しているモットーなのだ。彼らは本能的に、あとで資産価値が上がりそうなものを収集して大事にとっておくことの大切さを知っているのである。

しかし、単に資産価値が増すという予測だけが、ミリオネアたちがそうした品を求める動機ではない。一代で財を成したミリオネアであれ、彼らの息子や娘である2代目の世代であれ、子孫のことを考えて買い物をする傾向がある。彼らは、将来若い世代に譲りわたすことができるような家具を買おうとする。

つまり、億万長者の定義では、そういうものこそ良質の家具ということになるのである。そういう家具は持ち主が一生使ったあとも子孫に受け継がれ、いつまでも魅力が失せることなく、しかもそのうえ、おそらく財産価値も上がるにちがいないからだ。

では、億万長者たちが実際に家具を選ぶ場合、どんなふうに品定めをするのだろうか?彼らは、自宅に家具を置くなら、良質のものが結局いちばん得であることを知っている。だから、オガクズを固めて作ったまがい物の木製家具ではなく、その何倍も値の張る上等のチェストやドレッサーを買い求める。

オガクズ材に薄板を貼っただけの安物のチェストなら、とても50年はもたない。表面に水やコーヒーを少しでもこぼしたら、薄板とオガクズ材が剥がれてしまうかもしれない。そうなったら、億万長者の一人が言うように──

オガクズには鉋はおろか、やすりだってかけられないからね!

良質の家具なら、何度も仕上げをやり直すことができる。金持ちはなぜ家具の仕上げをやり直すのか?家具を消耗品──非耐久財とは考えていないからだ。古い家具にちょっと傷がついたからといって、すぐさま新品を買ったりはしない。最新の全国調査に協力してくれた億万長者のうち約半数(48%)が、こう回答している──

家具は新調せずに、仕上げをやり直したり表面を張り替えたりしている。

資産数百万ドルの億万長者のクローリス・レクター夫人も、「家中の家具」の仕上げ直しと表面の張り替えをすると私に語っている。

だって、そのほうが簡単だし、ずっといいんです。いろんな店を回って、何時間も家具を探し回ったところで、結局値段が高いだけのガラクタしか見つからないんだから!

レクター夫人は腕のいい家具の修理業者と張り替え業者のリストを持っている。

電話をかける。材料の見本が送られてくる。家具を取りにきてくれる。ショッピングセンターを歩き回ることも、なんの面倒もなし。

レクター夫人がよく家具の張り替えを頼む業者は、じつに多種多様な布地を用意しているそうである。彼女の話では、それでも新しく家具を選ぶのに比べたら、布地選びはずっと楽だという。夫人はお気に入りの寝椅子の表地をこの30年のあいだに5回、その店で張り替えてもらっている。

最近、ウォールストリート・ジャーナルに家具探しにまつわる記事が掲載された。ジェームズ・R・ハガティーとロバート・バーナーの両記者はそのなかで、人々が買いたい家具を見つけるのにいかに苦労しているか、その実態を詳述している。

何時間も探し回ってようやくいい家具を見つけたとしても、それが自宅に届くまで何週間も、ときには何ヵ月も待たされる。現代は、家具のデザインや色があまりにも豊富なので、目の肥えた客でもどれを選んでいいのやらわからなくなるというのだ。

両記者の記事によると、ソファーと革張り椅子の色とデザインに、17億通りもの組合せを用意している業者もあるという。生地やデザインの種類がそんなに多くては、ミリオネアたちが新しい家具を探し回ったりせずに、手持ちの家具の仕上げ直しや張り替えのほうを選ぶのも不思議ではないのではないだろうか?

1億円貯める方法をお金持ち1371人に聞きました
トマス・J・スタンリー
アメリカにおける富裕層マーケティングの第一人者。ジョージア州立大学の教授職を経て、ニューヨーク州立大学オルバニー校マーケティング学部の教授となり、1973年にアメリカ全土の億万長者を対象とした初の大規模調査を実施。富裕層向けビジネスを行なう企業や金融機関へのアドバイザーとして活躍。2015年逝去。主な著書にベストセラー『となりの億万長者』(早川書房)。
広瀬順弘(ひろせ・まさひろ)
1932年東京生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。アメリカ大使館広報文化局勤務を経て翻訳家となる。フィクション、ノンフィクションを問わず幅広く活躍。2007年逝去。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます