「○○の土地・建物を長男に相続させる」など特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言書を作成するケースがあります。これは財産を相続させたい人へ確実に財産を渡すことができる方法です。今回はこの「相続させる」旨の遺言について解説します。

「相続させる」旨の遺言とは

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(画像=And-One/Shutterstock.com)

すべての財産について、それぞれ特定の相続人に「相続させる」旨の遺言書をのこしておけば相続人は遺産分割協議が不要です。また相続財産が不動産の場合には、その不動産の相続を指定された相続人が、単独で名義変更を行うことができます。遺産分割協議を行う場合には、各相続人の公的書類などが必要となりますが、手続きが比較的スムーズに行えるという点はメリットです。

ただし相続人の「遺留分」が侵害されている場合には、遺言の内容通りに遺産分割が行われない可能性があります。また特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言は、2019年7月1日に施行された改正民法から「特定財産承継遺言」と呼ばれるようになりました。

“民法
(特定財産に関する遺言の執行)
第千十四条
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる”

出典:電子政府の総合窓口e-Gov(イーガブ)

今回の改正では、特定財産承継遺言があった場合にも、その相続人の法定相続分を超える部分については「登記等の対抗要件」を満たしていない場合には、第三者に対抗できないものとされました。

“(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない”

出典:電子政府の総合窓口e-Gov(イーガブ)

こちらは、「遺言の有無や内容を知らなかった他の相続人や債権者などの利益を害する」「登記制度や強制執行制度の信頼を害するおそれがある」という点から創設されたものです。例えば不動産の場合、登記をしないままであれば第三者はその財産について差し押さえなどができるようになりました。したがって財産を相続した場合には速やかに登記の手続きを行うことが以前よりも重要になっています。

「相続させる」旨の遺言は法的に有効?

この「相続させる」旨の遺言は、「特定の相続人に対する『遺贈』に該当するのか」「単純に『遺産分割の方法』を指定したものなのか」ということが過去に争われていました。ただし最高裁の判決で、このような遺言は「遺産分割の方法」を指定したものだとする判断がなされています。

“裁判要旨
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである”

出典:裁判所

このように現在では「特段の事情」がない限り遺産分割の方法が指定された遺言と解釈されますが、先の民法改正によって第三者への対抗要件が変わった点だけは注意が必要です。

「遺贈」との違い

相続人に対して「遺贈する」旨の遺言を遺すこともできますが、遺贈は通常、相続人でない人に対して財産を遺したい場合に活用するのが一般的です。相続人が「相続させる」遺言で財産を取得した場合には「遺贈する」旨の遺言の場合と比較して主に下記のような違いがあります。

・財産が不動産の場合、その相続人が単独で所有権移転登記の申請が可能
・財産が農地の場合、農業委員会の許可が不要(農地法第3条による農地の権利の移転・設定の許可)
・賃借権を相続する場合、賃貸人の承諾が不要

このような違いがあるため、相続人に財産を遺す場合には「遺贈する」ではなく「相続させる」旨の遺言を遺したほうが、財産を受け取る側にとってもメリットが大きくなります。いずれにしても特定の財産を指定する遺言によって財産を遺す場合には、特に他の相続人の「遺留分」などについて事前に充分な検討をしたうえで遺言書を作成することが大切です。(提供:相続MEMO


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