(本記事は、松原英多氏の著書『もの忘れをこれ以上増やしたくない人が読む本 脳のゴミをためない習慣』講談社の中から一部を抜粋・編集しています)

若返りホルモン・マイオカインを出す筋トレ

筋トレ
(画像=antoniodiaz/Shutterstock.com)

運動に話が及べばマイオカインが登場します。

マイオカインとは筋肉で作られる物質で、若返りホルモンとも呼ばれています。

また運動の重要性を解くカギとしても、話題になっています。

マイオカインが分泌されると、筋肉はもちろん若返るし、血糖値も低下、脂肪も分解され、認知症予防にも効果があるとの報告もあります。

マイオカインの効果は、次のとおりです。

・筋力や骨力の向上
・抗炎症性の向上
・脂肪細胞での脂肪分解
・血糖代謝・認知機能・動脈硬化の改善
・免疫力アップ
・美肌効果

などです。これだけ多くの効果があると知れば、運動の必要性もわかりますね。

マイオカインは筋肉から生まれるといっても、どこの筋肉からでも生まれるのでしょうか。よくよく調べてみると、下半身の筋肉、とくに太ももやふくらはぎの筋肉から分泌されやすいと言われています。

それもただ漫然と生まれるのでなく、「筋肉新生時」に分泌されます。と言われても筋肉新生時がわかりませんね。

筋肉新生時とは、字のままを追いかければ、「筋肉が新しく生まれるとき」と解釈したくなります。

文字どおりの筋肉新生時であったら、筋トレのたびに新しい筋肉が生まれて、解剖図を書き換えなければならない。解剖学者は疲労困憊でぶっ倒れるでしょう。

筋肉新生は「新しい筋肉の誕生」でなく、筋繊維の強化の意味です。筋肉の構造は、丈夫な筋膜という袋の中に、幾千万本の筋繊維が入っている形をしています。

わかりにくければ、「そうめんの入った袋」を想像してください。袋が筋膜で、なかのそうめんが筋繊維です。そして筋繊維は筋トレで強化されます。そのときマイオカインが分泌されるのです。つまり筋トレがマイオカインの生みの親。

これで運動が、健康作りや老化防止、さらには認知症予防に役立つことも想像がつきます。

マイオカインを生み出すのは筋肉であり、筋トレです。

誰でも「そんなに効果のあるものならば、一刻も早く、たくさん手に入れたい」と願います。「少々、ハードすぎるかもしれないが、これでゆこう」になる。そして多くは挫折します。中高齢者の挫折は恐ろしい。「やはり挫折か。オレには根性がない。ダメ人間だ」となって、大きな意欲の低下を生み出します。

無理な計画はやめましょう。「無理が通れば道理が引っ込む」。軽量運動を、毎日欠かさず実行することがいちばんの近道なのです。

「こんな簡単な運動で効果があるのか」と疑わず、実行と継続です。信じる者は救われます。「継続は力なり」ですよ。

マイオカインの増やし方は、太ももとふくらはぎのソフト筋トレが有効と言われています。

太ももとふくらはぎのソフト筋トレは、ここでも毛細血管増加と同じく、簡単スクワット+かかと上げ下ろしの組み合わせがよいでしょう。もう少しできるとしたら、もも上げ足踏みを追加します。

スクワットも正式というか正しくやるのは、かなり難しい。そのぶん効果も大きいでしょう。でも、肝心の実行と継続も難しくなり、やがて「面倒だ」の世界に追いやられてしまいます。同時にマイオカインも消え去ります。

簡単スクワットは、起立して膝の屈伸運動。かかと上げ下ろしは棚の上の物を取る要領。もも上げ足踏みは、ももを地面と平行になるまで上げます。

ここで中高齢女性にプレゼント。

スクワットは中高齢女性を悩ませる膝痛の妙薬です。ももの筋肉を鍛えて、老いて弱った膝関節を助けるのです。

にもかかわらず、スクワットを嫌う女性は非常に多い。理由は「痛む膝を曲げるとよけいに痛くなる」というのです。

スクワットは膝を曲げる運動ですが、痛くなるほど曲げてはいけません。痛くならない程度に曲げることがコツです。

この「痛くならない運動」は軽量健康運動のすべてに通じます。

「痛くならない程度に曲げるとは、どのくらい曲げるのか」。答えは、曲げてみて痛くなれば即中止。そして「痛くない範囲で曲げる」をくり返します。

スクワットばかりでなく、ラジオ体操だろうがテレビ体操であろうが、痛み発生とは、痛む箇所の悲鳴です。悲鳴を放置すれば、炎症となり症状はより悪化します。

とくに関節痛は結果を急がぬことです。痛くても関節を動かさない日はないでしょう。言い換えれば、関節に悪いことをしながら治すしかないのです。一夜にして関節痛が治るなどは夢物語にすぎません。

回数は朝、昼、晩と決める必要もなし。可能なときに可能な回数を行えばよいのです。可能な回数といっても、上限は20〜40回くらいでしょうか。運動に慣れたら増やします。

認知症予防や「その前」運動は、オリンピック出場のためのものではありません。毎日の生活行動が苦労なく、スムーズに行えれば目的達成です。

そのためにも、「可能な運動を、可能な時間帯に、可能な限り多く」です。

簡単スクワットもかかと上げ下ろしも、もも上げ足踏みも、いつでもどこでも可能だし、道具も不要。通勤途上でも帰宅途上でも、お買い物途上でも、実行可能です。

この手軽さによる実行と継続が、マイオカインを産み、認知症を予防するのです。

しかも、簡単スクワット+かかと上げ下ろし+もも上げ足踏みの組み合わせには、特別なおまけがつきます。お尻の筋肉の強化です。

お尻の魅力は別にある

ちょっと視点を変えて、お尻の話に移ります。

多くの人はお尻を誤解しているようです。場所が体の下部であり、性的魅力に目がくらむ。

お尻の存在価値は、女性であれば子宮保護のためもあるでしょう。でも、お尻の筋肉は大・中・小の殿筋を中心に大腰筋・小腰筋、さらには腸腰筋・大腿筋膜張筋と重要な大物がずらりと並びます。

これらの筋肉をよく見ると、その目的は、長く歩くため、速く歩くため、ピョイと飛び越えるためにあるらしい。

つまり人間は長歩き動物なのです。そしてお尻の筋肉は長歩き用のそれなのです。

しかし、大物筋肉には悲しい運命が待っています。老化の波が押し寄せると、大物だけに重量があるから重力もかかります。

年を取ると、若いころピンと張っていたお尻が、重力に負けてしなびるし垂れ下がる。悔しいけれど、見事に落ち込みます。

同時に長くも歩けなくなるし、速くも歩きにくくなる。今までピョイと飛び越えられた側溝にもつまずく。「年だから仕方がない」と諦める前に、お尻の筋肉の衰えを知るべきです。

おまけに日本人は世界で一、二を争う「座り時間の長い」国民です。

筋肉は使わなければ衰えます。お尻の筋肉も例外ではありません。座り時間が長くなるとは、お尻の筋肉を鍛える時間が減ることです。

弱った筋肉に重力が加われば、お尻の筋肉は下方に引っ張られます。そして垂れ下がります。

さらにわが国には、「柳腰」という美的表現があります。美形の象徴のような言葉です。欧米女性に比べると、骨盤の幅も奥行きも短い。つまりは骨盤も小さく、お尻の筋肉も小型で、あまり強くない。

弱いお尻の筋肉に加齢や重力が加われば、お尻が垂れ下がっても当然でしょう。

だが、事情はともあれ、お尻の垂れ下がりは老化のシンボルであり、運動不足の証拠でもあります。残念ですが、美しくない。

お尻がしっかりしていないと姿勢が悪くなります。老人性亀背の人を調べるとほとんど例外なしにお尻が貧弱でした。

前に述べたとり、姿勢が悪いと、声に勢いがなくなり、認知症に近づきます。

ここまでわかれば、あとは実行と継続です。

やってみるとすぐにわかります。簡単スクワットやかかと上げ下ろし、もも上げ足踏みを続けると、太ももやふくらはぎの筋肉がピンと張ってくる。と同時に、お尻の筋肉にも張りを感じる。

この張りが、衰えかけたお尻の筋肉を救うのです。

たまには、わがお尻をなでてやってください。お尻も喜んで、認知症から守ってくれますよ。認知症も防げるとあらば、「やらなきゃ損々」です。

予防医学の基本は「楽しさ、喜び」にあるのです。

もの忘れをこれ以上増やしたくない人が読む本 脳のゴミをためない習慣
松原英多(まつばら・えいた)
医学博士・内科医・日本東洋医学会専門医・エビス診療所院長。東京生まれ。東邦大学医学部卒業後、アメリカ・カナダの医学教育調査の助手として4年間各地を視察。帰国後、母校で大脳生理学の研究・東洋医学・医学心理・催眠療法を学ぶ。臨床医として現在、認知症予防に専念。日本テレビ系列「午後は○○おもいッきりテレビ」のホームドクターとして23年間レギュラー出演。著書には、『使い捨てカイロで体をあたためるすごい! 健康法』『健康長寿の医者が教える 人の名前が出てこなくなったときに読む本』(ともにロング新書)他がある。

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