2015年1月に相続税法が改正、施行されて以来、将来の相続税を意識する風潮が強まったせいか、生前贈与を行う人が増えました。ただ、その一方で生前贈与の思わぬ落とし穴に苦慮する人もいます。今回は、生前贈与のやりすぎによるリスクについて解説します。

相続対策としての「生前贈与」が急増している

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(画像=beeboys/Shutterstock.com)

2015年の相続税法改正により、相続税の課税対象となる世帯が増えました。高い相続税で資産を目減りさせないために、生前贈与を活用して子や孫に資産を移転する高齢者が急増しています。活用される生前贈与制度として、主に次の2つがあります。

暦年贈与の非課税枠110万円を使った生前贈与

相続税法上、贈与税の課税制度には2つあります。一つは年間110万円までは非課税となる暦年課税制度、もう一つは総額2,500万円まで非課税となる相続時精算課税制度です。後者の活用については細心の注意が必要となるため、一般的には暦年課税制度を使って贈与を行うことが多いようです。

よくあるのが贈与税の基礎控除額110万円に満たない金額を毎年、子や孫に贈与する「暦年贈与」という手法です。ただし、贈与の仕方によっては「定期金給付契約に基づく定期金に関する権利の贈与(定期贈与)」を受けたものとして「まとまった金額が毎年分割して贈与されただけ」とみなされることがあります。例えば毎年同じ月に同じ金額を10年間続けて贈与されていた場合、暦年贈与とみなされず、贈与税の課税対象とされることがあるため注意が必要です。

結婚・子育て・教育・住宅取得に関する贈与税の非課税制度

もう一つが結婚・子育て・教育・住宅取得に関する贈与税の非課税制度の活用による生前贈与です。これらの人生のイベントに伴う贈与については、一定要件を満たすことで、以下の金額を上限に贈与税が非課税となります。

結婚・子育て資金の非課税の特例…1,000万円
教育資金の非課税の特例…1,500万円(学校関係以外のいわゆる「習い事」などは500万円)
住宅取得等資金の非課税の特例…最大3,000万円(時期や取得する住宅により異なる)

これらを活用して、未成年や現役世代の子や孫に資金を贈与し、その人生に役立ててもらおうとする世帯も多くなりました。ただしこちらも、要件や用途に注意しないと、かえって税金がかかる場合もあります。

生前贈与「やりすぎ」による2つのリスク

上記の制度を活用して生前贈与を行えば、無駄に税金を払うことなく早めに相続対策を行うことができます。ただし、どんな制度も両刃の剣です。やりすぎれば、次のようなリスクが生じます。

①贈与した側の老後資金が足りなくなる

最大のリスクは「贈与した人自身の老後資金が足りなくなる」ことです。子供への金銭的な負担を過度に意識し、焦って生前贈与したことでかえって今の自分の生活を苦しくしてしまう人もいます。相続対策も生前贈与も「自分の生きている間の生活の尊重」を前提にしたうえで行わなくてはなりません。

②贈与を受けた側の納税資金が足りなくなる

生前贈与のやりすぎは、贈与を受けた側に将来の相続税の納税資金不足を招く場合があります。

例えば、結婚・子育て・教育・住宅取得に関する贈与税の非課税制度は、その制度の目的に沿った用途にしか受け取った資金を使えません。また、目的どおりに使われなかった場合は、残っている資金に贈与税がかかります。

他に、暦年課税制度で贈与された資金に相続税が課税される場合があります。これは相続税に「相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算」すると決められているからです。被相続人があと何年で亡くなるかは誰にも予測できません。そのため、暦年課税制度で贈与を受けている場合はこの相続税課税について知っておく必要があります。もしも「贈与だから相続税はかからない」と思い込んで全ての贈与資金を生活に使ってしまっていると、いざ相続となったとき、納税資金に苦慮することになります。

こういったことから、生前贈与をするからといって将来の納税資金まで安泰とは言い切れないのです。

ある程度現預金に余裕を持った上での相続対策を

将来の相続税を憂えるあまり、贈与する側の今の生活が困窮しては元も子もありません。対策を練るならば、ご自身の生活に必要な現預金に余裕を持ったうえで行うことが重要です。また、生前贈与だけが相続対策ではありません。死亡保険金は納税前に受け取れるうえ、一定の相続税の非課税枠があります。状況によっては生前贈与よりも死亡保険金の方がよい場合があります。

相続対策は幅広い視野と余裕をもって行うようにしましょう。(提供:相続MEMO


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