2018年に出版された『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』というタイトルの書籍が、累計16万部を超えるベストセラーとなっている。これが意味するのは、多くの会社員が経営に関心を持っているということではないだろうか。また、雇われる働き方から脱却し、より情熱を注げるビジネスにチャレンジしたいという人も多いのだろう。

M&Aは従来、大企業と大企業の間で交わされるような“一大事”だった。ところが今や中小企業を買って事業を継続させる「スモールM&A」として、個人でもトライできるものになっている。

『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』著者であり、投資ファンド「日本創生投資」の代表取締役社長である三戸政和氏に取材し、「スモールM&A」にはどのようなメリットがあるのか、またゼロから起業するのとはどのような違いがあるのかを探った。(取材・藤堂真衣)

三戸政和
三戸政和(みと・まさかず)さん
株式会社日本創生投資代表取締役社長。
1978年兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、2005年にソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)に入社し、ベンチャーキャピタリストとして国内外のベンチャー投資や投資先でのM&A、上場支援を行う。16年に日本創生投資を創設。中小企業に対する事業承継・再生に関する投資も行う。著書の『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社)は累計16万部を超え、スモールM&Aを実践で学ぶオンラインサロンの会員数も200人以上。

三戸氏が“脱サラ起業”をおすすめしないワケ

スモールM&A #3
(画像=三戸氏提供,ZUU online編集部)

サラリーマンが定年後も豊かに過ごせるだけの資産を築くために思い描くのは、独立・起業して社長になる道ではないだろうか。

自分の得意分野で会社を起こし、事業をうまく軌道に乗せた先に実現する悠々自適な生活……。誰もが一度は夢見ることかもしれない。だが、三戸氏は「よほどの思いや勝ち筋がない限り、起業はおすすめしない」という。

「基本的に、ゼロから起業して成功できるのは堀江貴文さんのような“特別な人”といっていいでしょう。それこそ寝食を忘れて事業に没頭し、好きなことを仕事にして成功できるのはほんの一部の人にすぎません。そうした起業家としての成功を目指すよりも、個人でのM&Aを検討するほうが容易なのです」

ゼロからの起業はとかく資金難に陥りやすい。事業所の家賃に必要な機材、材料、人件費。会社員であれば当たり前に社内で支給されていたものをすべて自前で用意しなければならない。手元に用意した1000万円程度の資本は、あっという間に底をついてしまうのだ。

「私自身、ロンドンで神戸牛のプロモーション会社の立ち上げに参画し、失敗を経験したことがあります。海外で勝手が違うということもあったかもしれませんが、労働法や貿易にまつわる法律、さらに物流ルートの確保など、すべてを自分たちで行わなければならないのです。

実際にこのプロジェクトでは、現地でのずさんな管理で大切な商品をダメにしたり、管理施設の変更のために新たな設備投資が必要だったりと、大きな損失を出したこともあります。

会社の役割というのは単に和牛を輸入して販売するだけではありません。事業を行うために必要なすべてのことを自力でまかなう必要がある。想像以上の負荷とコストがかかりますし、ひとつのミスが命取りになりかねません。それが起業するということです」

ベンチャーキャピタル業界にも「千三つ(せんみつ)」という言葉がある。ベンチャー企業が1000社あったとして、そのうちVCによる投資を受けることができ、上場にまでこぎつける企業はわずか3社だという。つまり、上場をゴールとするなら、起業の成功率は1000分の1=0.3%ということだ。

創業期の荒波を乗り越えた安定企業を「買う」という選択

スモールM&A #3
(画像=Grodfoto/Shutterstock.com)

そこで、三戸氏が提案する「社長になるための新たな選択肢」を見ていきたい。

起業した会社が10年後も生存している割合は、三戸氏の著書では「23%以下」とされている(製造業を対象とした経済産業省工業統計表「開業年次別 事業所の経過年数別生存率」より)。

その“過酷な10年”を生き抜いた会社を買い取り、オーナー社長になるのが、個人で行うスモールM&Aの大きな狙いであると三戸氏は語る。

「創業間もない企業は、先ほどにも紹介した私の失敗体験にもあるように、とにかく資金が足りなかったり、想定外のトラブルに見舞われたりといった問題に次々とぶち当たります。

ところが、創業から5年ほどでそうしたリスクはある程度つぶすことができ、経営も安定してきます。これは創業から5年以上の企業の年別の生存率が90%以上を保っていることからも分かります」

さらに、創業から10年以上が経過した“安定企業”には、事業を回すために必要なリソースはすべてそろっている。安定した事業だけでなく、それらの経営資源を丸ごと買い取って事業を承継できると考えれば、ゼロからの起業よりも難度は大きく下がるはずだ。

「堅調に経営ができれば、役員報酬を得られます。経営が上向けば役員報酬を上げることも可能でしょう。サラリーマンとしてコツコツ仕事をしているのと同様か、それ以上の収入を得られるチャンスが個人M&Aには秘められているのです」

***

経営者の高齢化と後継者不足。経済産業省の試算では、国内の中小企業のうち2027年までに経営者が70歳を超える企業が約245万社ある。また、帝国データバンクの調査によれば中小企業のおよそ66%が後継者不在だという。

このまま経営者が年を重ねれば、いずれ経営者は会社をたたまざるをえない。まさに「大廃業時代」が始まりつつあるのだ。

スモールM&Aは、こうした国内の企業が存続するための一手になり得るのかもしれない。また、その経営を担うのは“選ばれた起業家”である必要はないのだ。個人が中小企業を買い取って引き継ぐ時代は、すでに始まっている。

#4へつづく