相続の方法にはすべての財産を引き継ぐ「単純承認」、すべての財産の引き継ぎを放棄する「相続放棄」の他に「限定承認」というものがあります。しかし限定承認は、ある理由により、実際はほとんど活用されていません。今回は、限定承認の意義とあまり活用されない理由について解説します。

相続放棄は10万件以上なのに限定承認は1,000件以下という現状

限定承認,件数
(画像=chase4concept/Shutterstock.com)

少子高齢化が進み、相続は現役世代の誰にとっても他人事ではない時代になりました。なかには借金や自宅の引き継ぎを嫌って「相続したくない」という相続人もめずらしくありません。すべての財産の引き継ぎをしないためには「限定承認」もしくは「相続放棄」のどちらかを実行する必要がありますが、限定承認は相続放棄に比べてほとんど選択されません。

裁判所が公表している2018年度の「裁判所司法統計年表家事編」によると相続放棄の件数が21万5,320件であるのに対し、限定承認はわずか709件です。1949年度の181件と比較するとかなり増えたことになりますが、限定承認の申述・受理件数は1,000件を超えたことがありません。これは後述する限定承認の難しさが背景にあるといえるでしょう。

限定承認とは

そもそも限定承認とはどのような手続きなのでしょうか。限定承認とは、相続において被相続人の債務がどのぐらいあるか分からないときにプラスの財産を限度としてマイナスの財産を引き継ぐことです。ここでいうプラスの財産とは現預金や不動産など財産価値のあるもの、マイナスの財産とは借金などの債務や未払税金、保証債務などといった負債を指します。

被相続人の借金が相続財産を上回るほど多い場合、通常の相続(単純承認)を行うと引き継いだ債務のうち相続財産で弁済しきれないものは相続人固有の財産から支払わなくてはなりません。しかし限定承認を選択すれば相続財産で弁済可能な分だけ債務を引き継げばよいこととなります。

限定承認が使われない3つの理由

限定承認はプラスの財産も含めて丸ごと引き継ぎをやめてしまう相続放棄よりもメリットがありそうな内容ですが、いったいどうして活用度合いが低いのでしょうか。これには3つの理由があります。

理由1:手続きが大変

限定承認は手続きが煩雑です。まず相続開始があったことを知った日から3ヵ月以内に限定承認の申述を家庭裁判所に行わなくてはなりませんが、この申述には共同相続人全員の同意が必要になります。また限定承認は除斥公告や債権者や受遺者への弁済を行うことが必要になるため、実際の限定承認は弁護士や税理士などの専門家に依頼して行うケースがほとんどです。

理由2:余計にお金がかかる

限定承認を行うと除斥公告や専門家への手数料などで余計にお金がかかります。さらに限定承認を行った場合には、被相続人から相続人に対し財産の譲渡があったものとみなされて譲渡所得が発生します。その結果、相続人たちは相続開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内に所得税の確定申告と納付をしなくてはならないのです。

理由3:要件が厳しい

限定承認は無条件で認められるわけではありません。少しでも「処分」あるいは「隠匿」と認められる行為があれば、相続する意思があるとみなされて限定承認は受理されなくなるのです。「処分」には債務の一部弁済や預貯金などの費消、契約変更など、「隠匿」には文字通り財産隠しが該当します。「これくらいは大丈夫だろう」と思われる行為が「処分」「隠匿」に該当することもあるので注意が必要です。

使いにくい限定承認!こんなメリットも

限定承認は上記3つの理由から使いにくく、ほとんど活用されませんが、場合によってはメリットがあります。それは、「被相続人の財産の一部だけを押さえておくことができる」という点です。例えば、被相続人の思い出の指輪で高額なものがあったとします。どうしてもその指輪だけは引き継ぎたい場合、限定承認を選ぶことも選択肢の一つです。

なぜなら、限定承認を行った相続人が「先買権」を行使して優先的に指輪を購入することができるからです。相続放棄ではこのような権利を行使することはできません。このようなメリットがある一方、やはり煩雑さやコストが壁になります。検討する場合には専門家に相談するとよいでしょう。(提供:相続MEMO


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