ヘッジファンドは市場の変動の影響を受けにくく、安定的な収益の獲得が期待できるとされている。このため、年金基金など多くの機関投資家が投資を行っている。しかしながら、直近数年間のヘッジファンドのパフォーマンスは、伸び悩んでいる。経済成長の鈍化や各国中央銀行による大規模な金融緩和により、リスクプレミアムや資産間のリターンのばらつきが縮小し、ヘッジファンドの収益機会が減少した可能性があると言われている。近年のヘッジファンドのパフォーマンス動向について見ていきたい。

ヘッジファンド,パフォーマンス
(画像=PIXTA)

図表1は、2019年12月末時点の直近1年間(2019年)、直近5年間(2015~2019年)、2014年以前10 年間(2005~2014年)のヘッジファンドの戦略類型毎の年率換算リターンを示している。これを見ると、2005~2014年のヘッジファンド全体の年率換算リターンは+7.9%だったが、直近5年間は+3.9%に低下している。2019年は、グローバル株式が上昇する中、ヘッジファンド全体のリターンは+8.4%と比較的好調なパフォーマンスとなった。

戦略類型毎のパフォーマンスを見ると、CTA戦略の2005~2014年の年率換算リターンは+8.8%だったが、直近5年間は+1.4%に落ち込んでいる。一方で、アービトラージ戦略の2005~2014年の年率換算リターン+6.4%に対して、直近5年間は+4.2%とCTA戦略よりは小幅な低下にとどまった。2019年は、全ての戦略類型のリターンが直近5年間の平均を上回り、特に株式ロングショート戦略のリターンは+11.0%と好調であった。

ヘッジファンド,パフォーマンス
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2019年のヘッジファンドの好調なパフォーマンスの背景には、どのような要因があったのだろうか。図表2は、2004年12月末から2019年12月末までの各戦略類型のヘッジファンドとグローバル株式のリターンの相関を示している。これを見ると、ヘッジファンド全体とグローバル株式のリターンの相関係数は0.83と強い相関であることが分かる。各戦略類型とグローバル株式のリターンの相関をみると、アービトラージ戦略0.74、CTA戦略0.11、債券戦略0.76、株式ロングショート戦略0.88、マクロ戦略0.52 となっている。CTA戦略やマクロ戦略を除き、軒並みグローバル株式と強い相関があることが分かる。多くのヘッジファンドでは、ロングポジションとショートポジションを組み合わせて、市場変動の影響を抑制する。しかし、特に株式ロングショート戦略などでは、実際にはロングポジションがショートポジションよりも多いロングバイアスであることが多い。これにより、ヘッジファンドとグローバル株式のリターンは正の相関を持つと考えられる。但し、CTA戦略については対象資産の値動きに従って投資ポジションを決定する。このため、CTA戦略とグローバル株式のリターンの相関は、状況により大きく変化することに注意が必要だろう。

また、アービトラージ戦略などは金融商品間の価格のゆがみが縮小することによる収益の獲得を目指す。しかしながら、こうした取引を行う投資家の資金が減少した場合、価格のゆがみは広がる場合がある。このため、こうした投資戦略は、価格のゆがみが広がりやすい市場ショック時には、収益の獲得が難しくなることが考えられる。実際、2008年リーマンショック時にはアービトラージ戦略のリターンは▲8.0%と、パフォーマンスが悪化した。一方で、その翌年の2009年のアービトラージ戦略のリターンは+22.8%であり、高い収益を獲得している。これは、株式市場の回復や、前年に拡大した価格のゆがみが縮小したことにより、収益を獲得できたと考えられる。同年には、ヘッジファンド全体についても+21.3%と高い収益を獲得している。

2019年について見ると、グローバル株式は+28.1%上昇しており、これがヘッジファンドのパフォーマンスにプラス寄与したと考えられる。ヘッジファンドは市場の影響を極力排除し、絶対収益の獲得をうたうものが多い。しかしながら、2019年の好調なパフォーマンスは株式市場の上昇による影響が大きい。このため、2019年のパフォーマンスから、ヘッジファンドの収益力が回復したとは言い切れないだろう。このような状況の中で、一部のヘッジファンドでは、AI の活用などにより新たな収益源の獲得を目指す動きもある。ヘッジファンドの収益力が本格的に回復するのか、今後の動向に注目したい。

ヘッジファンド,パフォーマンス
(画像=ニッセイ基礎研究所)

原田哲志(はらだ さとし)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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