最高益更新のGAFA、巨大化を急ぐ日本企業

プラットフォーマー規制
(画像=PIXTA)

GAFAと呼ばれる米国の巨大IT企業4社の2019年10-12月期決算が出そろった。各社とも売上高は過去最高を記録、うち3社は最高益を更新している。

一方の日本のプラットフォーマーも、負けじと動きを加速している。キャッシュレスの分野では、ITや金融、通信等の参入増加や大規模キャンペーンで消耗戦が続く中、提携による陣営作りが進んでいる。直近でも、NTTドコモとメルカリがポイントサービスなどで業務提携する方針を発表するなど、連日ニュースが飛び込んできている。

デジタル時代は規模が力と言われている。買収、合併で大きなユーザー基盤を確保した上で、データ収集や顧客接点で優位に立ち、経済圏(エコシステム)を拡大することを目論んでいる。

プラットフォーマー規制
(画像=ニッセイ基礎研究所)

巨大IT企業と取引企業とのトラブルが顕在化、規制とイノベーションのジレンマ

提携などのニュースの一方、楽天市場の送料一部無料化に対する出店企業の反発など、プラットフォーマーと取引企業をめぐる問題も浮上してきている。

公正取引委員会(公取)が実施したアンケート調査(1)では、取引企業の不満もうかがえる。同調査では、オンラインモールに関して、プラットフォーマーに「一方的に規約を変更されたことがある」との回答は、楽天で93%、アマゾンで73%に上っている。これだけ不満が多いと何らかのルール整備は必要だろうが、この領域でイノベーションが起きる可能性も高い。踏み込んだ規制を導入すると、イノベーションを阻害してしまうのではないかとの懸念もある。

政府はプラットフォーマーとの取引の透明性・公平性の確保や、独占・寡占の弊害等を防ぐため、「独占禁止法の見直し(消費者に対する優越的地位の濫用への対応、データの価値評価も含めた企業結合審査)」、「個人情報保護法の改正」、新法として「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律案」の3本柱で対応を進めている。

この国会の焦点の1つでもあるプラットフォーマー規制の新法では、大規模な通販サイトやアプリストアの事業者を対象に、契約条件の開示や運営状況の政府への報告を義務付けて透明性を高めることを視野に入れている。その一方で、企業活動の萎縮を避けるため、不正行為の禁止規制導入を見送るなど、バランスに腐心した内容になっている。経済産業省がプラットフォーマーからの報告をチェックして、不正行為があれば公取に対応を要請するとしており、取引先保護の実効性を担保する構えだ。

プラットフォーマー規制
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査について(中間報告)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/apr/190417.html

実効性をどう担保するか、多様な評価

今年は5Gの商用化がスタートし、日本企業が強みを持つ「リアルのデータ」を活用したプラットフォーマー等が出てくる可能性がある。今回の規制はデジタル企業に焦点が当たっているがリアル企業の巻き返しに水を差すようだと困る。そういう意味では、今後こうした規制の議論がどのように進むのかは注視が必要だろう。

巨大IT企業が更に力をつけると、取引先に対する優越的地位の濫用のリスクは高まる可能性がある。寡占化が進めば価格の上昇等、消費者が不利益を被ることもあり得るが、いわゆる「スーパーアプリ」のようなものが登場すれば、無料サービスの充実など、さらに便利なサービスが手に入る場合もある。また、委縮しない程度に規制を緩くすれば、プラットフォーマーがイノベーションをけん引するだろうが、新規参入が無くなって競争が減ると、逆にイノベーションが停滞してしまう。バランスのとり方、両立は簡単ではない。

規制の議論はいつもこのような難しい問題を抱える。今回、法案が通ったからといって、新しいルール作りの議論が終わるわけではない。この領域は変化が激しい。イノベーションを阻害してはいけないが、巨大IT企業の行き過ぎた行いをしっかり牽制できるよう、いかに実効性を担保していくかが重要になりそうだ。

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矢嶋康次(やじま やすひで)
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 研究理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

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