中国経済を見るには、不動産市場の動向は重要なポイントである。しかしながら、マスコミに流されている情報の多くは不動産投資や住宅価格の動きを注視したものが多く、「中国における不動産とは何か、日本とはどのように違うのか」あるいは「中国では30年前からバブルが続いていると言われているが実際はどうなのか」といった基本的な情報は少ない。そこで、中国不動産の基本について、今後、数回にわたり報告したい。

土地使用権とは?

中国不動産,土地使用権
(画像=PIXTA)

不動産は中国語で「房地产」(1)と書く。「房」は建物、「地」は土地のことである。「土地管理法」(1986)(第一章第二条)によると、中国の土地は国民(全民)所有と農民集団(劳动群众集体)所有(2)の二つに分類される。企業・個人による土地の売買は禁じられているが、土地を使用する権利(土地使用権)は、国(地方政府)に許可されれば取得できる。その対価として土地使用者は国(地方政府)に「土地使用権譲渡金」(土地使用权出让金)(3)を支払う必要があり、取得した土地使用権は法律に従い譲渡・賃借・抵当することができる。

「都市部国有地使用権の譲渡に関する暫定条例」(「城镇国有土地使用权出让和转让暂行条例」)(1990)によると、土地使用権は一定期間に制限され、使用年限は土地の種別によって設定されている(図表1)。土地使用権が譲渡されると、建物およびその他の定着物も同時に譲渡され、逆に建物およびその他の定着物が譲渡されると、その分の土地使用権も一体的に譲渡される。これは抵当の場合も同じである。

中国不動産,土地使用権
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)中国は日本と同じ漢字を使っていても、意味が異なるものが多く、理解に苦しむケースも多いだろう。本稿では、日本語の漢字と区別するため、中国語原文を(中文)と表記する。また、本シリーズの「中国」とは、中国本土を指す。
(2)都市部の土地は国家が所有し、農村部の土地は農民集団が所有すると考えればいいだろう。
(3)土地使用権譲渡金は一般的に使用年限、面積等に応じて、基準地価(基准地价、ある時点の土地使用権の平均価格)の40%以上として算出する。

使用年限が満了したら?

土地の使用者にとっては、定められた使用年限が満了後、「土地を国(地方政府)に返す必要があるのか」、「家には住み続けられるのか」という点が心配になる。これについては、2016年に土地使用権の使用年限満了に伴う更新をめぐって、全国から注目される動きがあった。

中国の土地使用権の売買は1990年代初期に解禁され、一部の地方都市は独自で土地使用権の譲渡に関する条例を策定し、使用年限を20年~70年に設定した。浙江省温州市では、2016年4月に、一部の住宅における20年の使用年限が満了する事例があり、この際、市は土地使用権の更新料として新たに土地使用権譲渡金の支払いを要求したが、その額があまりに過大なものであったため、全国に不安が広がることとなった。

温州市は初めて土地使用年限が満了する事例ではない。「物権法」(2007)では、住宅用地の土地使用権は使用年限満了後に「自動延長」とされている(4)が、更新料やその徴収基準などが定められておらず、各地域では独自の政策に従い更新手続きを実施していた。「深圳市使用年限満了不動産の更新に関する規定」(「深圳市到期房地产续期若干规定」)(2004)では、土地使用権の更新料として「基準地価の35%」を徴収することが定めている。物件の取引価格で換算すると数パーセントにしか過ぎない。一方、温州市の土地使用権更新料の徴収基準は定かでないが、物件の取引価格で換算すると1/3に達し、全国から注目されることに至ったわけである。

その後、次第に増大する国民の不安を払拭するため、2016年12月に、国土資源部は記者会見で、土地使用権使用年限が満了に際しては、関連法則が明確になるまで、「申請手続きなし、更新料なし」の暫定措置を発表した。この点をさらに明確にすることも含め、2018年8月から、「民法典各分編草案」の法改正が始まり、関連法律を整えようとしている。

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(4)非居住用不動産の土地使用年限の更新について、「都市部不動産管理法」(「城市房地产管理法」)(1994)によると、「使用年限満了の1年前までに申請し、土地使用権契約を再締結し、土地使用権譲渡金を支払う必要がある」という取り扱いになる。

建物はどうなるのか?

土地使用権の自動延長から、家には住み続けられることになったが、そもそも住宅(中国都市部の場合、鉄筋コンクリート造マンションが一般的)は70年間も持つのだろうか。欧州では百年を超える建物が数多く存在し、日本でも長期優良住宅の供給が推進されてきた。しかし、中国では修繕計画に基づく大規模修繕どころか、日常の設備点検なども疎かなため、問題となるマンションが多い。

それもそのはず、中国では土地が収用されて、取り壊し対象になるほうが得だからである。「土地管理法」では、「公共利益のため、国は法律に基づき土地を収用(征收・征用)することができ、その代わりに(建物およびその他の定着物に対し)補償する必要がある」と明記されている。補償基準は「国有土地建物の収用と補償に関する条例」(「国有土地上房屋征收与补偿条例」)(2011)(5)に基づき各地方政府により定められているが、一夜にして億万長者になるケースがめずらしくなく、そのため敢えて取り壊し対象になりそうな住宅を購入する投資家が多い。

しかし、今後は、こうしたことは長続きしないだろう。1つの理由は国に補償金を支払う余裕がなくなるためである。例えば30戸のアパートを、300戸のタワーマンションに高度利用のために建替える場合は、元住民に高額な補償金を支払うとしてもメリットがある。一方、中国では、地方都市も含め各地域に高層マンションが林立しているが、将来これらのマンションを建替える場合、どれだけの補償金が必要になるかは誰も見通せていない。

もう1つの理由は、建替えても価値が高くならないことである。高額な補償金が成立するのは、その建物が都心部にあり、建替え需要があることによるが、中国では各都市に「高新区」と名付けたハイテク産業開発区(6)が設立され、都心部が高新区に移転しつつある。このため旧中心市街地では人口が減少し住宅の需要が低下する傾向があり、敢えて高額な補償金を支払い、建替えを行うインセンティブは乏しくなっている。

中国の不動産市場はまだ30年しか経っていない。このため法整備が十分でない点が多い。土地使用権の更新料の代わりに、固定資産税(房产税)を徴収することも数年前から議論されており、土地使用による費用負担の程度も流動的である。

次回は、土地使用権譲渡金や使用年限の更新料の算出根拠となる「基準地価」について報告する。

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(5)当条例は「都市部住宅建替え管理条例」(「城市房屋拆迁管理条例」)(1991)の代替案となるため、補償制度は1991年から施行されていた。
(6)高新区は1988年から、中国国務院が進めてきた開発促進事業の一環であり、全国計168都市に普及している。

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胡笳(こ か)
ニッセイ基礎研究所 社会研究部 研究員

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