地方創生は安倍政権のメイン政策の1つだが、成功している地域とうまく機能していない地域の差は大きい。今回は中小企業にとって地方創生がどのような意味を持つのか解説していく。地方創生の現状などを知り、失敗例や成功例から学んでおきたい。
地方創生とは?
地方創生は、第2次安倍政権の総理大臣記者会見で発表された政策の1つである。ローカル・アベノミクスとも言われ、日本が直面している人口急減や超高齢化などの問題に対して、各地方が自立できる社会を創生すること目的としている。2014年の閣議決定で、「まち・ひと・しごと創生本部」が設立されたことで話題になった。
地方創生は地域の活性化を目指す政策であり、「ふるさと納税」はその代表である。そのほか、「地方創生特区の認定」や「地方創生カレッジ」「人材支援」「地方創生応援税制」「地方への財政支援」「政府関係機関の地方移転」などがある。
地方創生によって起こること
地方創生では、国が地方を支援することによる雇用創出や人口増加、出生率増加などが期待されている。また、東京への一極集中問題や若い世代の雇用問題、地域特性による様々な問題も解決できると考えられている。
つまり地方創生は、人口減少を食い止めるための戦略と言える。超高齢化が進む日本では、医療費や介護費用などが増えている。今の若者が高齢化した時のために、少しでも国の負担を減らすための政策とも言えるだろう。
政府はどういった取り組みをしている?
地方創生に対する政府の取り組みは、以下のとおりだ。
・情報の支援
「RESAS(リーサス)=地域経済分析システム」を導入したことで、効率的かつ効果的な施策を実行できるようになった。これによって、地域ごとの人口分布や観光客の流入などが視覚化される。
・新型の交付金
地方それぞれの総合的な戦略に対して、国から新たに交付金が出された。
・地方への政府関係機関の移転
東京一極集中を是正するため、地方への移転を一部認めた。
・特区の制定
地域活性化を目標にし、特区と認められた地区の規制を緩和した。
・人材の地方支援
市町村長を補佐する専門家を派遣し、地方創生戦略の立案と地域に特化したコンシェルジュ(地方創生コンシェルジュ)に相談できる窓口を設置した。
・地域再生計画
地方再生法に則り、地域を支援する制度を制定し、同時に「21世紀型都市再生プロジェクト」を掲げ、土地の有効利用などを促進する。環境や防災、国際化の視点で都市を再生する制度を制定した。
・ふるさと納税
地方に寄付することで返礼品を受け取り、かつ税金の控除や還付を行う制度を制定した。
地方の最大の問題である人口減少に歯止めをかけるため、上記のような取り組みが行われている。ふるさと納税には賛否両論あるものの、地方の税収の減少を食い止める政策として話題になった。
地方創生に取り組む企業のメリット
地方創生に取り組むのは主に地方企業だが、以下のようなメリットがある。
・自然が豊かな場所で仕事ができる
自然に囲まれた職場によって、社員のストレスを軽減できる。都会とは違い、騒音が少なく静かな場所で仕事ができるメリットもある。
・起業コストを削減できる
都会で起業する場合に比べ、地方で起業をするとコストを抑えられる。特に事務所の賃料の安さは地方ならではのメリットだ。
また地方は最低賃金が低いため、人件費を抑えられるというメリットもある。ただし働き手にとってはデメリットになるので、一概にメリットとは言えないだろう。
・助成金制度が充実している
地方創生のための助成金があることも、地方起業のメリットだ。たとえば、和歌山県には移住者のための起業補助金があり、10年以上定住する者に経費を最高100万円まで補助している。また長野県では、資本金が1,000万円以下の企業に対して、3年間税を全額免除する制度がある。
・ライバルが少なく利益を上げやすい
業種にもよるが、都心に比べると競合が少なく、独立した後に利益を上げやすいこともメリットと言えるだろう。また地方はホームページやSNSなどの活用が遅れているため、それらを活用するだけでも差別化を図れる。
・口コミが広まりやすい
地方は住民同士の交流が密なので、口コミが広まりやすいというメリットもある。都会に比べると、認知度が上がりやすいため、起業間もない会社でも売上を作りやすい。
・雇用促進に貢献できる
地方では都心に比べると働き口が少ないため、季節労働者や派遣社員として仕事をする人も少なくない。地方で起業することで、雇用促進にも貢献できる。
・外部からの支援が集まりやすい
都心の住民の多くは地方出身者であり、地方を地元として大切に考えている人も少なくない。何かあった時には手助けしようという人は多く、地方で起業をすると外部からの支援を受けやすいというメリットもある。
前述のとおり、地方起業は社会貢献につながる。経済的な利益もさることながら、地方では地元をさらに良くしようという機運が高まっている。それが追い風となり、さらなる社会貢献ができるという好循環が起きる。
失敗した事業もある?地方創生の失敗事例2つ
地方創生には多くのメリットがあるものの、すべての事業が成功しているわけではない。以下に失敗した事業を挙げておこう。
1.青森県青森市の事例
複合商業施設「アウガ」の建設に185億円が投じられたが、初年度の売上高は23億円と目標の半分に満たなかった。初年度から赤字決算が続いて経営は破綻し、施設は閉鎖された。現在アウガは駅前の庁舎として使われているが、多額の借金を残した負の遺産となっている。
2.福島県会津若松市の事例
地域限定の電子マネーをリリースしたが、取扱い店舗がわずか11店舗しかなく、利便性が悪い上に認知度も上がらなかった。会津若松市はこの事業に1,200万円を投じたが、この電子マネーの決済総額はわずか18万円と失敗に終わった。
地方の現状を知る
このように、地方創生では失敗する事業も少なくない。活性化どころか、それによって活気をなくす地方もある。そこで打ち出されたのが、「中心市街の活性化」や「コンパクトシティ」などの施策だ。
地方の中心市街には、「シャッター通り」が少なくない。車での移動が増えたことで、中心市街で消費する人が減り、アクセスしやすい郊外に人が流れているのだ。
コンパクトシティは都市が拡大するのを防ぐ施策だが、富山市がこれで成功している。路面電車を整備や中心市街の再整備によって、中心市街に徐々に人が戻ってくるようになった。ただ、これだけでコンパクトシティ施策が成功したと考えるのは早計だろう。
受け入れ体制を作る
地方創生では、受け入れ体制の整備が急務だ。受け入れ体制には、「消費につながる受け入れ体制」と「移住者を受け入れる体制」がある。
消費につながる受け入れ体制とは、主に観光客に対するものだ。観光客が目的のものだけを買って他の消費が喚起されないようなら、その受け入れ体制は十分とは言えない。さらなる消費を促すためには、地方が新しい価値を創造しなければならない。
移住者への受け入れ体制のメインは、住居の整備だ。家賃が安くても住むに値しない住居しかなければ、移住者に定住してもらうことができない。しかしながら、地方にはアパートやマンションが少ないのが現状だ。地方自治体は、この点から施策を見直すべきかもしれない。
地方創生は長期目線で考えよう
地方創生の最大の目的は、人口減少を食い止めることだ。政府は地方企業を支援しているが、移住者の住居さえままならないのが現状である。地方に人が流入し定着するためには、これまでの施策を強化する、あるいはまったく別の施策を行うことが必要だろう。
地方創生には長い時間がかかるが、人や地域の産業が活性化することは地方にとってプラスに働くはずだ。地方起業を通じて、長い目で地方創生に取り組んでみてはいかがだろうか。(提供:THE OWNER)
文・THE OWNER編集部