インドネシアの2019年10-12月期の実質GDP成長率(1)は前年同期比(原系列)4.97%増(前期:同5.02%増)と若干低下したが、概ね市場予想2(同5.00%)通りの結果となった。

インドネシアGDP
(画像=PIXTA)

なお、2019年通年の成長率は前年比5.02%増(2018年:同5.17%増)と低下し、当初の政府の目標成長率(+5.3%)を下回る結果となった。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、内需の落ち込みが成長率低下に繋がった(図表1)。

民間消費(対家計民間非営利団体含む)は前年同期比4.93%増(前期:同5.06%増)と低下した。費目別に見ると、ホテル・レストラン(同6.18%増)と住宅設備(同4.93%増)などが持ち直す一方、食料・飲料(同5.08%増)、輸送・通信(同7.35%増)などが低下した。

政府消費は前年同期比0.48%増となり、前期の同0.98%増に続いて停滞した。

総固定資本形成は前年同期比4.06%増と、前期の同4.21%増から低下した。建設投資(同5.53%増)が持ち直した一方、機械・設備(同2.30%減)と自動車(同2.03%減)が落ち込んだ。

純輸出は成長率寄与度が+1.69%ポイントとなり、前期の+1.77%ポイントから縮小した。まず財・サービス輸出は前年同期比0.39%減(前期:同0.10%増)と2期ぶりに減少した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同3.65%増)が増加に転じたものの、財輸出(同0.85%減)が石油・ガス輸出が落ち込み受けてマイナスとなった。一方、財・サービス輸入は同8.05%減(前期:同8.30%減)となり、4四半期連続の大幅マイナスとなった。

インドネシアGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給項目別に見ると、主に第二次産業の減速が成長率低下に繋がった(図表2)。

第二次産業は前年同期比3.77%増(前期:同4.17%増)と低下した。内訳を見ると、建設業が同5.79%増(前期:同5.65%増)と上昇したものの、構成割合の大きい製造業が同3.66%増(前期:同4.14%増)、鉱業が同0.94%増(前期:同2.3増%)と低下した。

一方、成長を牽引する第三次産業は前年同期比6.37%増(前期:同6.20%増)と上昇した。内訳を見ると、ビジネスサービスが同10.49%増(前期:同10.22%増)、情報・通信が同9.71%増(前期:同9.24%増)、金融・保険が同8.49%増(前期:同6.15%増)、運輸・倉庫が同7.55%増(同6.66%増)、ホテル・レストランが同6.41%増(前期:同5.41%増)と上昇した。一方、構成割合の大きい卸売・小売が同4.24%増(前期:同4.43%増)、不動産が同5.85%増(前期:同5.97%増)と鈍化、行政・国防が同2.06%増(前期:同1.87%増)と2期連続で停滞するなど、明暗が分かれた。

また第一次産業は前年同期比4.26%増(前期:同3.12%増)と上昇した。

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(1)2020年2月5日、インドネシア統計局(BPS)が2019年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。
(2)Bloomberg調査

10-12月期のGDPの評価と先行きのポイント

インドネシア経済は2019年通年の実質GDP成長率が5.02%増となり、+5%成長こそ維持したものの、2015年の+4.88%増に続く低成長となった。また四半期ベースでみると、昨年はごく緩やかな景気減速が続いており、10-12月期の成長率は3年ぶりの+4%台まで減速した。

10-12月期の景気減速の主因は、前期に続いて内需の鈍化である。選挙関連支出による消費押し上げ効果の剥落や世界経済の減速と米中貿易戦争の激化を背景とする輸出低迷の悪影響の波及が内需の下振れに繋がったものとみられる。なお、純輸出の成長率寄与度は前期に続いてプラスとなっているが、これは内需の落ち込みを反映して輸入が大幅に減少したためであり、ポジティブなプラス寄与とはなっていない。

GDPの半分以上を占める民間消費は底堅さを保っているが、10-12月期は+5%成長には届かなかった。昨年4月の大統領選挙・総選挙関連の支出は年前半の消費を加速させていたが、この押上げ効果が7-9月期に剥落した影響が大きい。月次の消費関連の指標をみると、10-12月の小売売上高は小幅の増加を維持しているものの、依然として年前半の伸び(+6.5%程度)と比べて落ち込んだままとなっている(図表3)。

投資は昨年前半に国政選挙に伴う政策の先行き不透明感を背景に伸び悩んだ後、現職のジョコ大統領が勝利して政策の継続性が担保されたため、次第に持ち直すと思われたが、輸出低迷やコモディティ価格の停滞などから企業の投資マインドが悪化し、設備投資を中心に減速が続いている。10月には第2期ジョコ政権が発足したが、伸び悩む投資を上向かせるには至らず、海外からの投資実現額は10-12月期に2期ぶりのマイナスとなった。実際に設備投資関連の指標をみると、機械・輸送用機器の輸入量はプラスとマイナスが交錯する一進一退の推移、商用車販売台数は概ね減少傾向で推移している(図表4)。

インドネシアGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

インドネシア経済の先行きはどうなるだろうか。政府は米中貿易摩擦の影響による経済減速からの回復を目指しており、2020年度の成長率目標を+5.3%と設定している。確かにインドネシアは雇用・所得環境が良好で物価も安定しており、民間消費は底堅く推移すると予想されるほか、昨年の国政選挙に伴う投資の落ち込みからの反動増が見込まれるため、2020年は景気が上向くであろう。もっとも中国で拡大する新型コロナウィルスの影響は、一時的ではあるが1-3月期の景気を下押しするものと見込まれ、インドネシア経済は下方リスク抱えている。インドネシア政府はコロナウィルスの感染拡大を防ぐために、2月3日に中国に渡航歴のある外国人の入国を禁止、さらに5日には中国各都市とインドネシアを結ぶ直行便の運航を禁止しており、世界的観光地であるバリ島をはじめとして今年は中国人観光客数が減少するものとみられる。観光業や航空輸送産業は、昨年大統領選挙を背景とする抗議デモによって伸び悩んでいただけに、今年はペントアップ需要が見込まれたが、今回の新型コロナウィルスの感染拡大により2年連続で停滞する可能性があるだろう。また新型コロナウィルスは中国の内需の落ち込みやサプライチェーンの分断などを通じて一時的に中国景気や世界景気を下押するため、インドネシアの輸出や投資は資源関連産業を中心に下押し圧力がかかる恐れがある。

インドネシア中央銀行は昨年7月から4カ月連続で政策金利を引き下げ、9月には住宅や自動車ローンの融資規制を緩和、預金準備率を段階的に引き下げるなど、昨年は様々な政策ツールを通じて経済を支援してきた。ペリー総裁は今年も現行の金融緩和政策を維持していくことを示唆していたが、早速10-12月期のGDPの鈍化と新型コロナウィルスによる景気下振れリスクを受けて追加的な緩和策を打ち出す必要性に迫られている。追加的な金融緩和が実施されれば、新型コロナウィルスの影響が落ち着いた後の景気持ち直しへの期待が強まりそうだ。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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