過去を振り返り、現在を知り、未来に想いを馳せよ
Yahoo!アカデミアの実際のプログラムでは、まずは対話によって各自の「過去」を振り返った後、「現在」と「未来」についても語り合います。
過去の人生がどうだったかを知った上で、それを踏まえて、自分の人生にとってどんなことが大事だと考えているのか、何度も触れてきた、自分の信念、譲れない想いを言語化していくのです。
その結果、「どうやら自分はこんなことを大切にしているんだな」「自分がやりたいことは、これじゃないかな」というのが見えてきます。
ここまでくると、過去を生きてきた結果として現在があって、現在の積み重ねの先に未来があるという流れが浮かび上がるわけです。
未来について語る言葉はより前向きに、具体的になっていきます。
また、他の人が語ったことに対する反応も変わってきます。
単なる質疑応答だけでなく、
「それはあなたの過去のこういう経験とつながっているんじゃないかな?」
「だとしたら、これからはこんなことにチャレンジしてみたらいいんじゃない?」
「もっと具体的にプランニングできるんじゃない?」
といった、アドバイスをお互いにしていくことができるようになってきます。
もちろん、こうした対話を1回やっただけで、自分の未来について明確な答えが出るというわけではありません。
たとえば、Yahoo!アカデミアでは2泊3日の研修合宿で対話を繰り返したりしますが、たったの3日でモヤモヤが完全に晴れるわけではありません。
ただ、一度でも「過去を振り返り、現在を知り、未来に想いを馳せる」流れを経験すれば、それだけでも変わるものはあります。
過去の出来事があるから現在の情熱があり、現在の想いが未来をつくっていくという自分の「軸」を体感できる。
こうした考え方を習慣にできれば、日常のモヤモヤに対して自分で答えを出すときにも、過去にさかのぼって現在を知り、現在の想いから未来を考える、というスタイルが身についてきます。
とにかく行動すれば「進むべき未来」が見えてくる
そして、この「過去を振り返り、現在を知り、未来に想いを馳せる」という考え方は、本書で繰り返し述べてきた「将来に悩む前に、目の前のことを無我夢中でやろう」というメッセージとも?み合います。
1つ例を出しましょう。これから自分がどこに向かうべきか迷ってしまい、現在地点から動けない人がいるとします。ここで何も行動しなければ、一生「キャリア迷子」です。
そこで、とにかく何かしらの行動を起こします。これが、目の前のことに一生懸命に取り組むということです。無我夢中で取り組んでいれば、その分だけ前進します。
すると、かつて「将来に悩んでいる自分」がいた地点が、現在から過去の出来事に変わっているので、振り返ることができるようになります。
ここで一旦、それまでの自分─目の前のことに無我夢中で取り組んできた自分について、振り返ります。
先ほども説明したように、過去の自分を振り返ることは、その延長線上にある「現在の自分」、ひいてはその先にある「未来の自分」について考えることにつながります。
現在の自分を知ることとは、「自分の中にある信念=譲れない想いを知ること」です。
そこで自分の信念に気づくから、「将来もこうありたい」という未来が生まれるのです。
つまり、目の前のことに全力を注ぐことで、行動した現在が過去になり、その過去を振り返ることで、「自分の軸」や「進むべき未来」が生まれるのです。
だから、私はこう思うのです。
「未来に悩んでいる人こそ、とにかく行動せよ」と。
もちろん方向転換することもあるでしょう。時間がかかることもあるでしょう。
それでも、これを何回も繰り返すことで、「自分の軸=信念」が見えてくるはずです。
これこそが、「Lead the self」の目指していることなのです。
伊藤羊一(いとう・よういち)
ヤフー〔株〕 コーポレートエバンジェリストYahoo! アカデミア学長
〔株〕ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に〔株〕日本興業銀行入行、2003年プラス〔株〕に転じ、201年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEO コースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。2015年4月にヤフー〔株〕に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。著書に、『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSB クリエイティブ)がある。(『THE21オンライン』2019年12月16日 公開)
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