昨年は金額過去2番目、思惑継続
業界再編や企業のコーポレート・ガバナンス改革の進展を背景に、TOB(株式公開買い付け)の動きが活発化している。親子上場の解消に加え、いわゆる「敵対的買収」を狙うケースも増えている。今後も大きな物色テーマとして、〝次の買収候補〟を探る動きは活発となりそうだ。
ゴールドマン・サックス証券によれば、昨年1年間の国内企業を対象にしたTOBの総額(予定買い付け金額ベース)は2.1兆円に上り、米シティグループによる日興コーディアルグループの大型買収があった2007年の2.6兆円に次ぐ過去2番目の大きさとなった。TOB件数は42件で、その半分以上が親子上場の解消などグループ会社の完全子会社化を目的にしたものだった。
昨年11月には東芝(6502・(2))が東芝プラントシステムなど当時の上場子会社3社に、三菱ケミカルホールディングス(4188)が田辺三菱製薬(4508、整理)にそれぞれ完全子会社化のためのTOBを実施した。また、J.フロント リテイリング(3086)も傘下のパルコ(8251、監理)の非公開化に乗り出している。
親子上場の解消やグループ内での再編は、少数株主の利益を重視した経営姿勢の表れだ。また、東証は昨年12月に、「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」を設置。支配株主を持つ上場企業の独立性確保について議論しており、上場規程の変更に踏み込む可能性もある。
一方、ユニゾホールディングス(3258、監理)に対しては、同社の保有する不動産の含み益に目を付けた海外ファンドなどがユニゾHDの賛同を伴わない敵対的買収を仕掛けている。会社側も対抗して従業員が米投資ファンドのローンスターと共同でバイアウトを表明。足元では買い付け価格の引き上げ合戦に発展している。
東芝グループのニューフレアテクノロジー(6256・JQ、監理)の買収にはHOYA(7741)が「待った」をかけ話題となった。また、前田道路(1883)は前田建設工業(1824)によるTOBを拒否。旧村上ファンド系の東芝機械(6104)のTOBも、敵対的買収だ。
こうした中、株式市場では上場親会社の配下の銘柄や、資本関係のある銘柄に意識が向かいやすい状況が続いている。
10日の電通国際情報サービス(=ISID、4812)の決算説明会。アナリストからは、親会社の電通グループ(4324)によるTOBの可能性についての質問が飛んだ。同社は「電通系列では唯一のシステム会社」(ISIDの上原伸夫取締役)で業績が良い。1月には電通内に「ISID戦略部」が設置されるなど、協業強化の動きもある。経営陣は前出の質問に言葉を濁したものの、今後も思惑を招きそうだ。
親会社の資金が潤沢な上場子会社としては、道路関連事業を手掛けるスバル興業(9632)も面白い存在だ。同社は東宝(9602)の子会社で、役員の兼任もある。スバル興は25年の大阪万博へ向けた業界再編での存在感も期待され、財務基盤を強化する連想が働く。
ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(=J・TEC、7774・JQ)は富士フイルムホールディングス(4901)傘下の再生医療ベンチャー。富士フイルムはヘルスケア分野に力を入れており、完全子会社化となればシナジー(相乗)効果も大きそうだ。このほか、電力業界では過去に北陸電力(9505)が北陸電気工事(1930)を、北海道電力(9509)が北海電気工事(1832・札)の出資比率をTOBによってそれぞれ引き上げた経緯がある。(2月13日株式新聞掲載記事)
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