法人の設立を無事に済ませて事業に集中している最中に、友人などから消費税の納税が多額である話を耳にすることがあるかもしれない。しかし、税負担の多そうな消費税については、一定の条件下に基づき、納税義務が免除されることもある。今回は、そのような法人設立時における消費税の概要と免税事業者について紹介していく。

関 伸也
関 伸也(せき・しんや)
1987年9月9日生まれ、広島県尾道市出身。税理士(簿記論、財務諸表論、法人税法、所得税法、相続税法に合格)。東京税理士会、登録番号140716。法人から個人へまたがり発生する税務問題にオールラウンドに対応しており、創業時からお手伝いをすることにより、共に成長することをミッションとしている。好きな小説家は吉川英治、司馬遼太郎であり、株式投資を通じて気になる上場企業をベンチマークしている。

消費税の概要

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(画像=PIXTA)

国税庁によると、消費税とは「特定の物品やサービスに課税する個別消費税とは異なり、消費に広く公平に負担を求める間接税」とされる。これは、物やサービスの消費に対して税を負担することを指す。実質的な消費税の負担者は最終消費者であり、その納付者は事業者となる制度だ。

消費税の納税義務

実際の消費税の納付者について確認しておこう。消費税の納税義務は、消費税法第五条で「事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある」と定められている。つまり、事業を行う者が日本で商売をしてお金を儲ける場合は、消費税を納める義務があるのだ。

消費税の非課税取引

前述した通り、消費税は消費に対して広く公平に負担を求める間接税である。この性格を鑑みて、そもそも消費税の課税対象になじまないものや、社会政策的な配慮から課税することが適当でない取引がある。これらは「非課税取引」といわれるもので、12項目の限定列挙となる。

・税の性格から課税対象としてなじまないもの

  1. 土地の譲渡および貸付(例:不動産売買における土地の譲渡)
  2. 有価証券等および支払手段に類するものの譲渡(例:株の売買、仮想通貨の譲渡)
  3. 利子を対価とする貸付金等(例:貸付金の利子)
  4. 郵便切手等の譲渡(例:切手、印紙の譲渡)
  5. 国等が法令に基づく手数料等に係る役務の提供(例:登記手数料)

・社会的政策な配慮に基づくもの

  1. 公的な医療保障制度に係る療養等またはこれらに類する資産の譲渡等(例:健康保険法による医療)
  2. 介護保険法の規定に基づく居宅等介護サービス等(例:介護保険法による居宅サービス)
  3. 医師、助産師等による助産に係る資産の譲渡等(例:助産に関するサービス)
  4. 墓地、埋葬等に関する法律に規定する埋葬料等を対価とする役務の提供(例:火葬)
  5. 身体障がい者の使用に提供するための特殊な機能等を有する物品の譲渡等(例:車いすの譲渡)
  6. 学校等の授業料、入学金
  7. 住宅の貸付(例:居住用住宅の1カ月以上の貸付)

消費税の申告・納付

消費税の納税義務を負うこととなる事業者は、課税期間(事業年度)の末日の翌日から2月以内までに、消費税等の確定申告書を税務署に提出するとともに、最寄りの銀行等で消費税を併せて納付する。

消費税が免除になる事業者は?

これまで、事業を行っていく上での消費税の仕組みを説明してきた。ここからは、一定の場合において、消費税の納税義務が免除になる免税事業者について紹介する。消費税が免除となる制度の趣旨としては、財務省において「小規模な事業者の事務負担や税務執行コストへの配慮から設けられている特例措置」と紹介されている通りだ。規模の小さな事業者は、経理負担の解消のために消費税の申告計算および納付を免除される。

法人の納税義務の免除

消費税の納税義務が免除されるかどうかは、基準期間を基に判定される。法人については、判定する事業年度の前々事業年度が基準期間となる。基準期間における課税売上高(消費税が課税される売上等)が1,000万円に満たない場合には、判定する年度の消費税の納税義務が免除される。

新規に設立した法人の納税義務の免除

新規に設立した法人については、上記で説明した基準期間が存在しないことから、原則として消費税は免除される。

消費税が免除されない3つの場合!

前項では、基準期間を基に消費税が免除になる場合、並びに新設法人には基準期間がなく消費税が免除される場合について紹介した。しかし、一定の条件によっては消費税が免除にならない場合もある。ここでは、法人設立などの消費税課税事業者となる前に、チェックしておきたい注意点を説明する。

1.新設法人の資本金が1,000万円以上の場合

新規に設立する法人は原則として基準期間がないため消費税の納税義務は免除されるが、その事業年度開始の日における資本金の額が1,000万円以上の場合には納税義務は免除されない。

2.特定新規設立法人に該当する場合

新規設立法人のうち、事業年度開始の日において特定新規設立法人に該当する場合は、消費税の納税義務は免除されない。特定新規設立法人とは、次の要件をすべて満たすものをいう。

  1. 新設開始日において特定要件に該当すること。
  2. 特定要件の判定の基礎となった他の者等と特殊な関係にある法人のうち、いずれかの新規設立法人の新設開始日が属する事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高として、一定の金額が5億円を超えること。
    ※特定要件とは、新規設立法人の発行済株式の総数における50%超が、他の者より直接または間接に保有される場合などをいう。
    つまり、新設法人の資本金が1,000万円未満であり、消費税の納税義務を免除されると認められる場合においても、上記の要件を満たしている特定新規設立法人に該当する場合は、消費税の納税義務は免除されないこととなるので注意したい。

3.1期目から課税事業者選択届出書を提出した場合

法人の設立1期目から設備投資がある場合には、消費税の還付を受けるために消費税の課税事業者選択届出書を提出し、設立1期目から消費税の納税義務を負うこととなる。

消費税が免除される4つのパターン

消費税については、一定の条件下で納税義務を負うかどうかが決まってくる。実際の例に当てはめて紹介する。

1.新規設立した法人の消費税が免除となるパターン

前提条件として「甲氏が資本金500万円を出資。2019年4月15日に新規に3月決算法人であるA社を設立した」とする。この場合における消費税の課税事業者の判定は、以下の通りだ。

→2019年4月15日における資本金が500万円のため、1,000万円未満に該当する。したがって、2020年3月期における消費税の納税義務は免除される。  

2.新規設立した法人の消費税が免除とならないパターン

前提条件として「乙氏が資本金1,000万円を出資。2019年4月15日に新規に3月決算法人であるB社を設立した」とする。この場合における消費税の課税事業者の判定は、以下の通りだ。

→2019年4月15日における資本金が1,000万円の場合、1,000万円未満という条件に該当しない。そのため、2020年3月期における消費税は免除されず、納税義務が生じる。したがって、B社の場合には設立1期目から消費税の税負担が生じることとなり、A社と比較すると相当な税金によるキャッシュアウトが生じる可能性がある。

3.設立から3年目の法人の消費税が免除となるパターン

前提条件として「丙氏が2017年4月1日にC社を設立。1期目は課税売上高が900万円で、3期目となる2020年3月期の消費税の納税義務を判定」する。この場合における消費税の課税事業者の判定は、以下の通りだ。

→2020年3月期においては、基準期間となる1期目の課税売上高が900万円、課税売上高が1,000万円以下となるため、消費税の納税義務は生じない。しかし、2期目の課税売上高が1,500万円である場合、4期目の2021年3月期に消費税の納税義務が生じることとなるため、「消費税課税事業者選択届出書」を2020年3月31日までに税務署へ提出することが必要だ。

4.特定新規設立法人のため消費税が免除とならないパターン

前提条件として「D社(3月決算法人)は2019年4月1日に、E社、F社より350万円の出資を受けて新規に設立された。F社はE社の100%子会社である。E社の課税売上高は5億円以下、F社の課税売上高は6億円」とする。
この場合、2020年3月期における消費税の課税事業者の判定は以下の通りとなる。

  1. D社はその事業年度の基準期間のない資本金1,000万円未満の新規設立法人である。
  2. D社はその基準期間のない事業年度開始日において、特定要件であるE社、F社に発行済株式の50%超を直接または間接に保有されている。また、その判定の基礎となる者(特殊関係法人)のうち、いずれかの者の課税売上高が5億円を超える法人である。
  3. 上記1および2よりD社は特定新規設立法人に該当するため、1期目、2期目については消費税が免除されず、納税義務が生じる。

消費税は場合によっては免除にならないため法人設立前に確認を

消費税については、どのようなパターンで法人を設立するかによって納税義務が生じる可能性がある。これから法人の設立を考える方や設立1期目の方は、思わぬ消費税の支払に遭遇することがあるかもしれない。そうなる前に、専門家へ確認することをおすすめする。(提供:THE OWNER

文・関伸也(税理士)