ドルコスト平均法とは、ある投資対象について定期的な「一定額」の投資を継続する手法である。つみたてNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)などの毎月積立は、基本的にドルコスト平均法を想定している。
ドルコスト平均法の比較対象
ドルコスト平均法のメリットを訴求する際、広く利用されるのが、定期的に一定単位を投資する手法(以下、定量投資)と比較する説明だ。しかし、定量投資では、投資対象の価格の変動に合わせて、積立額(購入金額)が変動するため、個人投資家を想定した投資行動としては非現実的だろう。
極端な例ではあるが、4カ月間の変動を図表1のように想定した毎月積立の場合を示す。ドルコスト平均法では、毎月購入金額を一定の2万円とし、定量投資では、毎月購入単位を8口とする。多くの場合、1口当たりの平均購入金額に着目し、ドルコスト平均法の方が有利であると説明される。
一方、毎月の購入金額に着目すると、定量投資では、毎月の購入金額が最大で3.2万円もの差がある。毎月の投資額と生活費とを調整しなければならない個人投資家にとって、支出額の大きな変動は好ましくなく、そもそも定量投資は現実的ではないであろう。
ドルコスト平均法の運用実績
ドルコスト平均法は、まとまった資産がない若者などにとって、比較的取り組みやすい手法である。さらに、つみたてNISAやiDeCoなどの税優遇制度、ノーロード型投資信託の増加などにより、以前よりも投資を始めるハードルは下がった。しかし、ある程度の金銭的な余裕がある人でも、ドルコスト平均法が適切な手法なのか分からず、ある程度の資金が貯まるまで待機する人もいるだろう。
そこで、過去の市場実績に基づき、ドルコスト平均法を実施した人と、ある程度の資金が貯まってから投資を実施した人との間で投資結果に差はあったのか、長期投資を前提とした分析を行いたい。具体的には、毎月定額で発生する積立可能額を活用するパターンとして、以下の3つを設定した。(ア)は、毎月の収入から投資可能額を捻出する場合、(イ)(ウ)は、毎月の収入からの投資可能額を預金(無リスク金利で運用)し、待機期間1年または5年後に貯蓄額を投資することを繰り返す場合とした。なお、(イ)(ウ)については、資金をためてから投資する人を想定しているが、ボーナスなどの臨時収入を原資に、定期的な投資を行う場合も想定できる。
(ア)毎月積立:対象期間中、積立可能額を、毎月、投資する。
(イ)1年待機:1年間、毎月の積立可能額を預金として貯蓄し、1年間貯蓄した金額をまとめて投資する。対象期間中はこれを繰り返す。
(ウ)5年待機:5年間、毎月の積立可能額を預金として貯蓄し、5年間貯蓄した金額万円をまとめて投資する。対象期間中はこれを繰り返す。
投資対象には、日本株式(TOPIX)と米国株式(S&P500(配当込み、円ベース))を設定し、積立金額総額に対する投資終了時の時価残高(以下、運用実績)で評価する。平均値や標準偏差は、積立金額総額に対する増減率とし、図表2で示した。買い付け手数料等は考慮しない。評価にあたり、1980年1月から2019年12月までの範囲で、投資期間30年が確保できるような各月初を投資開始期とし、投資期間終了翌月初の時価残高から集計した。つまり、(ア)(イ)(ウ)すべてのケースで、1980年1月~2009年12月、1980年2月~2010年1月、と投資対象期間をひと月ずつずらし、1990年1月~2019年12月までの計120期間の集計をした。
実績リターンの平均値は、日本株式と米国株式いずれの投資対象においても、毎月積立、1年待機、5年待機、の順に大きいが、日本株式の場合、さほど変わらなかった。リスクの指標となる標準偏差は、日本株式に投資した場合は、リターンと逆で、5年待機、1年待機、毎月積立、の順に大きく、5年待機のリスクがかなり高い。米国株式のリターンは、日本株式と同様に、毎月積立、1年待機、5年待機の順に大きく、リスクも同じ順序だが、5年待機が若干低いだけで、どれもほぼ同様なレベルだった。しかし、投資効率性に着目すると、日米ともに、毎月積立、1年待機、5年待機、の順序となっており、毎月積立が最も効率が良かったという結果になった。
購入回数を分散させることによるリスク低減効果(以下、機会分散効果)は、投資対象によって異なることが示された。分析対象期間におけるTOPIXは、長期的にレンジ相場でさほど上昇していない(図表3)。レンジの範囲で上下に変動する市場においては、購入回数が多いほど、高値での購入部分を、底値での購入部分で打ち消すような機会が増え、結果的に、購入単価は平滑化される。そのため、30年という長期の投資期間における購入単価はブレが小さくなり、最終的な時価総残高のリスクも小さくなる。一方、S&P500は、比較的順調な上昇相場だった。購入回数の多寡によらず、購入単価は概ね上がり続けることとなる。購入回数を分散させることにより、購入単価のブレを小さくする効果は薄くなるため、毎月積立におけるリスク低減効果は確認されなかったと考えられる。
しかし、米国株式において、毎月積立をしていたことがリスク増大に繋がったということにはならない。標準偏差の高さは、実質的な投資期間の差が影響していると言える。株式に投資している実質的な期間は、待機期間を有するパターンよりも、毎月積立の方が長い。毎月積立の方が、長い間リスクに晒されているため、リターンとともにリスクも高くなったと解釈できる。つまり、米国株式では、実質的な投資期間が長い毎月積立のリスクが高くなったというだけであり、むしろ、長期投資により優れたリターンを得ることが出来ていたということになろう。
繰り返しになるが、リスクの順序に違いはあるものの、日本株式、米国株式、いずれも毎月積立の方が効率性の高い投資が可能となっていた。注目すべきは、図表2の「毎月積立を下回る割合」である。5年待機の場合、日本株式への投資で61%、米国株式への投資で98%が毎月積立を下回る。毎月積立が、より安全であったようだ。
ただし、運用成果に与える影響は、定期的な積立頻度の差よりも、投資期間の長さや投資対象の違いが大きい。この違いをより具体的に示すため、図表4にて毎月の投資可能額を2万円とした場合の運用実績を、投資期間10年と30年で算出した。まず、投資期間の違いとして、ある意味当然ではあるが、日本株式、米国株式、ともに、リターンは投資期間30年の方が高かった。また、日本株式と米国株式のリターンの最小値を比較すると、投資期間10年と30年では、10年の方がかなり悪く、リスクが高いこともわかる。つまり、10年は30年と比べてリターンが低くリスクが高いということになる。
一方、日本株式と米国株式のリターンの差は歴然である。投資期間30年毎月積立をした場合、米国株式のリターンは実額ベースで2千万円ほど、日本株式より高かった。さらに、最小値に着目すると、米国株式に30年間長期投資した場合、いずれの場合も積立金額総額を上回っていた一方、日本株式の場合はいずれの場合も積立金額総額を下回っていた。今回の分析では、ドルコスト平均法に焦点を当てるため、投資対象を分散しなかった。結果として、長期投資の重要性とともに、投資対象の選定が重要であることが確認できた。
結論として、ドルコスト平均法は積立手法として有効な側面もあるが、万能ではなかった。長期的に上昇せず、レンジで動く投資対象の場合、さほど大きな差は出ない。一方で、長期的に上昇トレンドがある投資対象の場合、毎月積立はリターンを獲得するのに有効な手法であった。しかし、いずれにせよ、投資効率性において、ドルコスト平均法は長期投資による効果や機会分散の効果が期待できるため、優れた成果を出す手法だと考えることができる。
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水野 友理那 (みずの ゆりな)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 研究員・年金総合リサーチセンター兼任
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