第2回 「好き」を仕事にしなくちゃダメですか?
「好きなこと」「やりたいこと」を仕事にする働き方が注目されている。でも、夢がない、明確なキャリア目標もない。そんな自分はダメ人間なのか――? 天才でもナンバーワンでもオンリーワンでもない、フツーの人が直面する仕事の迷いについて、「好き嫌いの仕事論」を重視している一橋ビジネススクール教授の楠木建氏と、Yahoo!アカデミア学長として次世代リーダーの育成を行ない、新刊『やりたいことなんて、なくていい。』を上梓した伊藤羊一氏にお話しいただいた。
取材構成 野牧 峻
「スポーツ的厳しさ」より「音楽的緩さ」のある仕事を
楠木 前回の私の好き嫌いを、もう少し整理すると、概念としてのスポーツっていうのがダメだっていう結論なんですよ。実際にスポーツも嫌いですけれども、ここで言っているのは概念としてのスポーツですね。事前にルールが設定されているとか、勝敗がそれによって客観的に決まる。こういうのが向いていない。
あと、誰かが勝てば誰かが負けるという関係ですね。一等からビリまで優劣が一次元上に並ぶ、こういうものが嫌なんですよ。それを総称して「スポーツ」って言ってるんですけど。ゲームもスポーツの枠に入りますね。僕は、異常にゲームが弱い。オセロゲームとか、びっくりするほど弱いらしい。本人は一生懸命やっているつもりなんですが、からっきしダメっていう。
伊藤 そこまで客観的にご自身の価値観を理解している方が、競争戦略を研究するっていうのは面白いですね。嫌いだからこそ競争を客観的に見られるということと関係するんですか?
楠木 そこは重要なポイントです。商売事にはすごい関心があります。ビジネスの競争っていうのは、そもそもスポーツと違いますよね。
伊藤 勝ち負けじゃなくて……。
楠木 つまり、優劣という一次元上の競争ではない。僕に言わせれば、これが商売の面白さですね。極端なケースだと、戦争はどちらかが勝てば、どちらかが負ける。相手の殲滅(せんめつ)が目的になっている。相手の負けを目的にして行なう行為です。商売の場合は、それぞれに違ったポジションを取り合―。他者に対して違いをつくるというのが競争戦略のベースにある考え方です。
伊藤 ルールを変えちゃうとか、そういうことも含めてですね。
楠木 そう、変えちゃうとか。だから、一つの市場にも、常に複数の勝者が同時に存在する。現時点では、ZARAもユニクロも勝者であるということだと思うんですよ。
ちょっと戻りますと、そのスポーツ的なるものの逆は何かと考えると、それが音楽なんですよ。つまり、「ビートルズとローリングストーンズ、どっちが好き?」というような話で。ビートルズが金メダル獲ったら、ストーンズは銀メダルっていうわけじゃない。みんな笑いながらやっている。
逆にスポーツでは、あまり笑いながら100メートル走をやっている人はいないと思うんですけど。音楽にはそういう緩さがある。そういうようなことで、音楽的な、歌舞音曲っていう世界が、僕の好きなものを抽象化した表現なんですよ。そういうものだと思ってたんですね、学問の世界を……。