好きじゃない仕事にはやがて限界が来る

働き方,楠木建,伊藤羊一
(画像=THE21オンライン)

楠木 ところが、アカデミックな世界に入ってみますとやたらと「スポーティ」な面もあるということが、即時判明したんです。

伊藤 そうなんですか。

楠木 研究っていうのは、学術雑誌への論文発表がすべてなんですね。ですから、学会で発表して、学術雑誌に自分の論文を投稿しなければなりません。しかも、その論文は学会でアクセプトされるために、「科学の形式」を取らなくてはならない。経営学といっても、自然科学のアナロジーで組み立てられているので、先行研究があって、そこでわかってること、わかってないことを調べ、仮説を立てる。そして、データを取って仮説を検証し、再現可能な因果関係を見つけて議論をするっていうような手順を踏むという科学の規範が強く働きます。

こうして生産される論文がどれだけあるかで学者としての業績が決まるので、だれも競って論文リストを長くするわけです。「もはやスポーツじゃん」っていう話ですね。

ただ、「そういうもんだ」ということなんで、やらざるを得ない。「ああ、そうですか」と受け入れるしかない。目の前にある現実なので。それを差し引いても、企業で働いているよりかは、まだだいぶいいかなという感じでやっていました。

ところが、騙し騙しやっているので7年くらいでちょっと限界が来ました。で、アカデミックのフォーマットに則る研究はもう止めようということになりました。

最初の数年は、研究開発とか製品開発のマネジメンを対象にまあまあアカデミックな論文を書いていました。それも考えてみると、とりあえずそれを選んでやっていただけなんですけど。学問的使命感はない。考えてみると、「そんなに好きじゃない」っていうことですね。それで、自分が面白いと思うのは、競争の中で「なんであの商売が儲かって、儲からないのかっていう分析をすることだ」と気づき、徐々に競争戦略に移りました。