決算書を見ると、見慣れない科目のひとつとして、法人税等調整額という科目が出てくる。一見すると、法人税や地方税の申告の際に何らかの調整を加えていくものと思われる方も多いが、そうではない。
ここでは、まず法人税等調整額とは何かについて述べ、次にそれに関する税効果会計について説明する。
法人税等調整額とは?
法人税調整額は、「税効果会計にかかる会計基準」で次のように説明されている。
繰延税金資産と繰延税金負債の差額を期首と期末で比較した増減額は、当期に納付すべき法人税等の調整額として計上しなければならない。(以下略)
(第二、二繰延税金資産及び繰延税金負債等の計上方法 3項)
簡単に言えば、繰延税金資産と繰延税金負債という勘定科目があり、それらが変動した分を表す科目として、法人税等調整額を計上する。では、繰延税金資産と繰延税金負債は、どのようなものだろうか。
調整の対象となるのは?
実は、法人税等調整額の「調整」という言葉には、繰延税金資産と繰延税金負債の変動を調整するという意味合いがある。繰延税金資産や繰延税金負債は、どのようにして生じて変動するものだろうか。
これを考えるにあたり、税金と会計の違いについて説明することが必要だ。また、繰延税金資産や繰延税金負債が必要となる理由も、あわせて理解しなければならない。ここでは、それらについて説明する。
会計と税務の処理には差がある
同じ会社の経理の処理であっても、会計上の処理と税務上の処理は一致しない。会計では認められているものであっても税務では認められないもの、その反対のものもある。例えば、交際費については会計上では計上できる金額に制限はないが、税務上では会社によって年間800万円までしか計上できなかったり、まったく計上できなかったりする場合もあるため、ここでも会計上と税務上で差が生じる。
また、貸倒損失は、会計上のほうが貸し倒れる可能性が高くなる場合には比較的早めに計上され、税務上で認められるのは法的な事象が生じないと計上されない。
これらのことから、会計上と税務上とでは処理に差が生じるため、会計上の利益に税率をかけた場合の数値と実際の税金の金額が一致しないことがある。そこで、将来の税金の前払いや前受けになっている部分については、財務諸表に計上する必要が出てくるのだ。
一時差異と永久差異
会計上の処理と税務上の処理に差があるのは、先程述べた通りである。ただ、同じ処理の差であっても将来その差がなくなる、またはなくならないという違いがある。
例えば、貸倒損失については、将来貸倒損失を計上した先が破産して実際に貸し倒れたり、業績が上がって貸倒損失を取り消したりした場合は、その差がなくなる。一方で、交際費の経費計上で税務上の経費として認められなかった部分は、いつまで経ってもその差が解消されることはない。
将来、会計上と税務上の差が解消された際に、課税所得(税金の計算のもととなる利益の金額)が増えたり減ったりするものを「一時差異」という。その中でも、会計上と税務上の差が解消されたときに課税所得を減らす(法人税等を減らす)効果があるものを「将来減算一時差異」といい、課税所得を増やす(法人税等を増やす)効果があるものを「将来加算一時差異」という。
なお、会計上と税務上の差異が解消される見込みがないものについては、正式な用語ではないが慣例的に「永久差異」と呼ばれている。
繰延税金資産とは?
一時差異が発生したとして、これらの差異はどう処理されるのだろうか。処理される先としては、繰延税金資産と繰延税金負債がある。この節と次の節にわたり、それらについて説明する。
まず、繰延税金資産は将来の法人税などの金額を減らす要因となるものを指す。具体的には、将来減算一時差異のうち、解消されたときに法人税などの金額を実際に減らすことができるものに対し、法人税などの金額を積み重ねたものは繰延税金資産として計上される。
繰延税金資産が増加した場合は、将来実際に支払う法人税などの金額を減額するものとして、法人税等調整額が計上される。
次に、繰延税金資産が計上される原因となるものとして以下のものがある。
まず、減価償却費が会計上において税務上で認められ、金額より多額が計上された場合だ。この場合、会計上と税務上とで計上される金額が異なるため差額の分だけ一時差異が発生し、その税金に見合う分だけ繰延税金資産が発生する。
また、その他にも事業税が挙げられる。会計上、事業税は対象となる会計期間と同時期に計上されるが、税務上は対象となる会計期間の翌期に計上される。そのため、会計上で計上されたタイミングで差額が発生して、その税金に見合う分だけの繰延税金資産が発生するのだ。
繰延税金負債とは?
一方、繰延税金負債は繰延税金資産とは逆に、将来の法人税の金額を増やす要因となるものをいう。繰延税金負債は将来加算一時差異のうち、解消されたときに法人税の金額を増やすものに対する法人税などの額を積み重ねた者が、繰延税金負債として計上される。
繰延税金資産が増加した場合は、将来実際に支払う法人税などの金額を増加するものとして、この法人税を減らすために法人税等調整額が計上される。また、繰延税金負債が発生する原因となるものは数が少ない。例えば、有価証券の評価益を計上した場合に、繰延税金負債を計上することもある。
実効税率とは?
では、将来減算一時差異や将来加算一時差異に対する法人税などの金額は、どうすれば計算できるのだろうか。
実効税率とは、法人が実質的に負担する利益に対する税率だ。将来減算一時差異や将来加算一時差異の金額に対し、この実効税率をかけて計算される。実効税率をかけることによって、将来減算一時差異や将来加算一時差異が解消された場合に、税金がどれだけ増減するかが分かる。
実効税率の計算方法は以下の通りだ。
実効税率=
法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率
1+事業税率
(事業税率には地方特別法人税率も入る)
ちなみに、東京都で資本金1億円以下の普通法人の実効税率は34.59%である。
繰延税金資産の計算方法
これらを踏まえた上で、繰延税金資産の計算例を示す。
例:減価償却の計算で、当期は1,000計上したものの、税務上は1年間で300までしか計上できない。今後の税務申告でその差は埋まり、将来的に税金の軽減は行われる。実効税率は35%とする。
1年目の計算は以下の通りとなる。
(1,000-300)×35% = 245
245が繰延税金資産として計上され、繰延税金資産が増えた分の245は、法人税調整額として表示されることとなる。
仕訳で表示すると以下の通りだ。
(借)繰延税金資産 245 / (貸)法人税額調整額 245
2年目になると税務上で300計上でき、減価償却の累計額が600となる。会計上では減価償却できたものの、税務上の減価償却ができていない部分は1,000 – 600=400となる。
(1,000 – 600) × 35% = 140
この140が繰延税金資産として計上され、減少した105については、法人税調整額として表示される。
仕訳で表示すると以下の通りとなる。
(借)法人税額調整額 140 / (貸)繰延税金資産 140
繰延税金負債の計算方法
続いて、繰延税金負債がどのように計算されるのか例を示す。
例:1年目に2年目の分の寄付金として、1,000支払った。この寄付金は会計上では2年目に計上されるが、税務上は1年目に計上される。実効税率は35%とする。なお、寄付金は税務上全額計上できるものとする。
・1年目
税務上は1,000が費用として計上されており、会計上はまったく計上されていない。つまり、0として計上されている状態となる。
(1,000 – 0) × 35% = 350
仕訳で表示すると以下の通りとなる。
(借)法人税額調整額 350 / (貸)繰延税金負債 350
350が繰延税金負債として計上され、増加分である350は法人税額調整額として計上される。
・2年目
1年目は税務上に計上されていた1,000が2年目には会計上で1,000計上されたので、両者の差はなくなった。
0 × 35% = 0
繰延税金負債は0となり、減少分である350は法人税額調整額として計上される。
仕訳で表示すると以下の通りだ。
(借)繰延税金負債 350 / (貸)法人税額調整額 350
法人税等調整額の注意点
法人税等調整額について、以下に注意点を述べる。
現金がその場で直接入る・出るわけではない
法人税等調整額は、会計と税務の差を埋めるためのものである。法人税額調整額が増加、減少するからといって、直接現金が会社に入って来るわけではない点に注意すべきである。
見積もればいくらでも操作できる
法人税等調整額は、一時差異が解消したときに税金の増減があるかないかで計上される繰延税金資産と繰延税金負債の動きによって計上されるものだ。そのため、経営者は将来の一時差異の解消の有無を意図的に操作することによって、繰延税金資産と繰延税金負債の金額を実際にある会計と税務の差額の範囲内ではあるもののいくらでも計上でき、法人税等調整額を意図的に操作することも可能となる。
実際に、過去に銀行などが繰延税金資産を意図的に多く計上しているとして、決算書のチェックを行う監査法人が取り崩しを求めたケースがある。繰延税金資産を多く上げることは、その分法人税等調整額を多く計上することとなり、ひいては利益が増加する。そのため、法人税等調整額または繰延税金資産や繰延税金負債が適切に計上されているかどうか、注意を払うことが必要だ。(提供:THE OWNER)
文:中川崇(公認会計士・税理士)