多くの経営者は、法人税などの期限内申告を意識する一方で「期限内に申告をしなかった場合はどうなるか」を知らない。それ故に、無用に恐怖を膨らませる人もいるようだ。今回は、法人税の確定申告の期限について解説した後、期限後に申告した場合や無申告の場合のペナルティについて解説する。
法人の確定申告に税務署は厳しい
最初にお伝えするが、納税者の適切な確定申告について、税務署は極めて厳格だ。特に、法人に対しては個人以上に厳しい。税務調査の入る年間件数も、法人に対するものは個人に対するものの1.5倍から2.5倍となっている。
昨年注目された「無申告」は毎年一定数発生している
昨年、ある芸能人が経営する会社の税金の事件が注目を集めた。多くの人の関心が向かったのは「無申告」の3文字であったようだ。「税金の申告をしない会社なんてあるの?」と疑問に思った人も少なくないだろう。実は毎年一定数、税金を申告・納付しない会社は発生している。
10年程前、国税庁は3年間にわたり、事業経営しつつ無申告だった法人に対して調査を行った。結果、例年無申告の法人が270社超、その内13%前後が意図的に無申告であったことが分かった。意図的に無申告を行った法人に対する追徴税額も、次のように高くなっている。
- 法人税の平均追徴税額…無申告法人全体803百万円、意図的な無申告法人558百万円
- 消費税の平均追徴税額…無申告法人全体462百万円、意図的な無申告法人212百万円
「期限内の確定申告」は大原則、無視すれば後が怖い
意図的な無申告法人の割合と追徴税額を見ると、国がいかに意図的な無申告に対して厳しいかが分かる。憲法第30条で納税が義務とされている以上、納税者の一人である法人が税金を期限内に申告・納付することは大原則であり、逸脱した場合にはペナルティが科されるのだが、逸脱度合が悪質であるほど、ペナルティもより重くなっている。
法人が守るべき確定申告の期限とは
法人が税務署に対して申告・納税すべき税金は、次の4つだ。基本的には「会計期間の末日の翌日から2カ月以内」と覚えておくとよい。具体的には次のように規定されている。
法人税
事業年度(※1)終了の日の翌日から2カ月以内法人住民税
課税事業年度(※1)終了の日の翌日から2カ月以内法人事業税
課税事業年度(※1)終了の日の翌日から2カ月以内消費税及び地方消費税
課税期間(※1)の末日の翌日から2カ月以内
12月末決算の法人の場合は「翌年2月末日」が、3月末決算の法人の場合は「5月末日」が法人税などの申告期限だ。ただ、申告期限の日が土日や祝日と重なる場合は、その翌日か翌々日の平日、つまり休み明けの月曜日が申告期限となる。
なお、法人税と消費税及び地方消費税(※2)は国税に当たり、法人の住所地の税務署が提出先だ。法人住民税と法人事業税は地方税に当たり、法人の住所地の地方自治体(都税または県税事務所、市区町村の役所など)が提出先となる。
※1 いずれも申告対象期間について特段届出などを行っていないならば「法人の会計期間」
※2 地方消費税は地方税だが、国への消費税と併せて税務署に納付することとされている。
期限までに申告しなかった場合はどうなる?
「期限内申告が大原則」だが、期限内に確定申告書を提出しない法人もいる。期限内申告をしない場合、次のどちらかを行うことになる。
期限後に申告する
期限内に申告・納税できなかった場合の選択肢のひとつが「期限後申告」つまり申告期限が過ぎても確定申告を行い、納税をするというものだ。もともと申告する意思があったものの、「領収書を整理しきれなかった」「うっかり忘れていた」「忙しくて会計処理が間に合わなかった」といった事情により期限内申告ができなかった法人ならば、期限後申告を行うだろう。
ただ、期限内申告が義務として課されている以上、原則としてペナルティが科されることになる。また、税務調査が入り、税務署により申告すべき所得や税額についての「決定」の通知がなされた場合、期限後申告を行うことはできない。
税務署に指摘されるまで放置(無申告)
もう一つの選択肢として、一切自主的に申告・納税しない「無申告」がある。「気づかない」「会社経営に伴う義務を理解していない」といった理由を除けば「バレない」「知られたくない」「税金を払いたくない」という動機が背景だ。
無申告の場合、自主的に期限後申告・納税を行わないと税務調査が入り、所得額や税額を税務署が推計・判断した上で決定の通知をし、納税義務者である法人に対して決定した納税額の納付を促してくることがある。税務署の指示に一切従わない場合、督促が行われ、最後は会社の資産について差押などの処分がなされることもあるのだ。当然だが、ペナルティも科される。意図的な無申告は通常、自主申告よりも重い税金を払うことになる。
申告期限を守らなかった場合のペナルティ4つ
期限後申告であれ無申告であれ、期限内に確定申告をしない以上、法人には次のペナルティが科される。ただ、適用は一律ではない。納税者の税に対する誠実度合によって、ペナルティの軽重が変わる。
延滞税
延滞税とは、納付期限までに納税しなかった場合に払うこととなる附帯税(ペナルティとして科される税)をいう。延滞税は利息的な性質を持ち、原則として本来納税すべき納期限(法定納期限)の翌日から納付する日までの日数に応じて計算される。この延滞税は期限後申告をした場合や無申告で税額決定を受けた場合だけでなく、期限内に確定申告をしたものの納税だけが期限後になってしまった場合にも納めることとなる。
延滞税の金額は、実際に納税した日のタイミングに応じて次のように計算される。なお、2カ月以内は低い利率、2カ月を超えると高い利率が適用される。
1. 納税した日が納期限の翌日から2カ月以内の場合
〔納付すべき税額(※)×(年「7.3%」か「特例基準割合+1%」のいずれか低い割合)×経過日数〕÷365日
2. 納税した日が納期限の翌日から2カ月を経過した日以後の場合
1で計算した税額+【〔納付すべき税額(※)×(年「14.6%」か「特例基準割合+7.6%」のいずれか低い割合)×納期限の翌日から2か月を経過する日の翌日から経過した日数〕÷365日】
※ 10,000円未満の端数切捨
特例基準割合は毎年変わる。ただし、2018年1月1日から2020年12月31日までの特例基準割合は「1.6%」となっている。そのため、法定納期限から2か月以内の分については「年2.6%」、2か月を超えた分については「年8.9%」として計算するとよい。また、後述する重加算税が課されなければ、延滞税が1年以上課されることはない。
無申告加算税
無申告加算税は、期限内に申告しなかった場合に納める附帯税だ。無申告加算税は、本来納めるべき税金の金額によって、次のように区分して計算する。
1. 納めるべき税金の内、50万円以下の部分
納めるべき税金×15%
2. 納めるべき税金の内、50万円を超える部分
納めるべき税金×20%
ただし、これは税務署から指摘を受けて申告した場合の税額だ。税務調査の通知が来る前に自主的に期限後申告をした場合、無申告加算税は「納めるべき税金×5%」となる。仮に納めるべき税金が100万円だとした場合、税務調査が来ることを知った後ならば17万5,000円だが、自主申告だと5万円で済むというわけだ。
なお、以下のすべての要件に該当すると無申告加算税は課されない。「うっかりちょっと遅れただけ」は大目に見てもらえるのだ。
- 期限後申告を法定申告期限から1か月以内に申告していること
- 期限後申告で納付すべき税金を法定納期限までに納付しているか、過去5年間は期限内申告をしていること
重加算税
重加算税は、最も重いペナルティだ。申告内容について仮装(ごまかしや嘘)または隠蔽(事実の全部または一部を隠す)の意図があったが故に無申告だった、あるいは期限後申告の提出があったと認められると、上記無申告加算税の対象となった税額に対し、40%の割合で重加算税が課せられることとなる。具体的には次のような場合、重加算税が課される可能性が高くなる。
- 売上を意図的に抜いた
- 経費を水増しした、あるいは架空経費を計上した
- 棚卸を意図的に少なく計上した
本来納めるべき税金が100万円なら、重加算税は40万円となる。重加算税が課せられた場合、他の加算税もあわせて考えると納付税額は倍近くなる可能性もあるのだ。
重加算税によるデメリットは、税額の重さ以外にもある。重加算税の付加の理由が「悪意あるごまかしや隠蔽」であるため、その後も税務署からにらまれる可能性が高くなる。
青色申告の取消
青色申告の適用を受けている法人の場合、2期連続で期限後申告となると、青色申告の承認が取り消される。結果、次のような青色申告による法人税法上のメリットがなくなる。
- 30万円未満で取得した減価償却資産を全額使用時に経費計上できる(中小企業者のみ)
- 10年間に渡る欠損金の繰越控除(2018年4月1日以後開始事業年度)
- 欠損金の繰戻還付
- 試験研究費などの場合の特別償却・特別控除
その他
その他、無申告や期限後申告があると「融資を受けたいときに融資の審査に通らない」「取引先や金融機関からの信用が落ちる」といったデメリットが生じる。
特別な事情があるときは期限後も認められる
とはいえ、誠実に申告納税する意思があっても、どうにもならない事情が生じて申告が期限に間に合わないこともある。このような状況に対応するべく、国は次のような制度により法定期限に間に合わなくてもやむなしとしている。
自然災害により申告・納税が期限内にできない場合
ここ例年、地震や台風による被害が発生している。結果、意思はあるのに自然災害のために申告・納税が期限に間に合わないという状況に陥ることもあるだろう。こういった状況を鑑み、国は柔軟な対応を行うよう税法を設定している。
自然災害などの特別な事情が発生した場合、通常は国税庁長官が地域や期間を指定して申告・納税の延長を行う。この内容が官報に掲載されれば、納税者である法人側が特段の手続を行う必要はない。こういった措置でも間に合わない場合は、次の制度にのっとって法人自ら手続きを行う必要がある。
1. 申告等の期限の再延長
上記指定の期間内でも申告や納税ができないときは、申告期限を災害などがやんだ日から2か月以内を限度として延長することができる。この場合の申請は、災害がやんだ日(具体的には災害の再発可能性がなく、申告・納税などができそうな状況に戻った日)から相当期間内に行うべしとされている。
2.申告期限の延長
災害などにより決算が終わらず申告が期限に間に合わない場合は、その申告期限の末日の翌日から45日以内に申請を行えば、法人税や地方税の申告書の提出期限を延長することができる。1.と異なり、国税庁の対応の有無に関係なく納税者の判断で申請を行うことができるのが特徴だ。
ただし、本手続はあくまでも申告期限の延長のみであり、納付が遅れる場合は利子税が加算されることとなる。
3. 納税の猶予
災害で納税が期限内に行えない場合は、納税の猶予という制度を活用するとよい。申請すると、1年以内に限って納税を遅らせたり、あるいは分割納付をしたりすることが可能だ。ただ、「納税額が100万円を超える」あるいは「猶予期間が3か月以内」といった要件から外れる場合は担保の提供が求められる。
なお、納税の猶予は、災害だけでなく病気や事業の休廃止などといった個人的な事情が生じた時にも活用できる。
株主総会の開催が法定申告期限より後になる場合
「株主総会を決算日の2か月以内に開催できそうにない」「連結子法人が多すぎて期限内に税額計算が終わりそうにない」といった場合にも、法人税や地方税の申告期限を延長することができる。この場合、申請は適用を受けたい事業年度末日まで(連結法人は連結事業年度末日の翌日から45日以内)に行わなくてはならない。
なお、本制度で延長できるのはあくまでも「申告期限」だけであり、申告期限より遅れて納付する場合は「利子税」を併せて納付することになる。
申告・納税が遅れる場合は税務署に早めに相談を
上記以外にも、2020年度税制改正により、消費税についても事前申請をすれば申告期限の延長が1か月間できることとなった。ただ、全体に言えることだが、申告や納付の期限の延長制度は一つの税法ではなく複数の税法で規定されていため、「どの制度がどの場面で使えるのか」は一般人には判断しにくい。
どうにもならない事情が発生し、申告・納税が遅れそうだと感じた場合は、税務署に早めに相談するとよい。(提供:THE OWNER)
文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)