PERによる銘柄選択が逆効果に
PERは最も代表的な株価指標の1つであり、一般的には利益に対して株価が割安な低PER銘柄は割高な高PER銘柄と比べて高いパフォーマンスが期待できるとされている。ただ、日本の株式市場で単純な低PER銘柄投資がうまくいかなくなってきている。
TOPIX500採用銘柄を毎月初に予想PERが中央値以下の銘柄は低PER銘柄(青線)、中央値より大きい銘柄は高PER銘柄(赤線)と銘柄数が同じになるように2つに分けて、それぞれのパフォーマンスと その差(面グラフ)をみる【図表1】。アベノミクス相場が始まった2013年から2017年にかけて、明確な差がなく低PER銘柄と高PER銘柄とでパフォーマンスに明確な違いがなかった。それが2018年以降は、低PER銘柄が高PER銘柄のパフォーマンスを劣後しており、PERによる銘柄選択が足元では逆効果になる展開が続いていることが分かる。
背景には自己資本比率が
このように日本の株式市場でPERによる銘柄選択が有効でないだけでなく、逆効果が続いている背景には、自己資本比率が関係しているかもしれない。
そもそも自己資本比率は高ければ高いほど良いわけでは決してないが、自己資本比率が高い銘柄のほうが低い銘柄と比べて財務基盤が安定しているといえる。2014年以降、日本株式市場では自己資本比率の高い銘柄が選好されている。実際にPERと同様にTOPIX500採用銘柄を毎月初に自己資本比率が中央値以上である銘柄は高自己資本比率銘柄(赤線)、中央値未満である銘柄は低自己資本比率銘柄(青線)と銘柄数が同じになるように2つに分けると、2つのグループのパフォーマンスの差(面グラフ)が2014年以降、開き続けていることが確認できる【図表2】。
その一方で予想PERと自己資本比率の銘柄間の(クロスセクションの順位)相関係数をみると常に正であり、PERが高い銘柄ほど自己資本比率も高い、PERが低い銘柄ほど自己資本比率も低い傾向がある【図表3】。特に、2013年から2016年にかけて相関係数は上昇し、それ以降も相関係数は0.4前後で高止まりしている。そのため、結果的に低PER銘柄の株価は相対的に低迷し、パフォーマンスが劣後していたと考えられる。
PER自体の有効性も乏しい
より詳しくPER、自己資本比率と株価の関係をみるため、低PER銘柄と高PER銘柄を自己資本比率の水準別に2つに分け、2×2の4つのグループに分けた【図表4】。例えば「① 低PER×高自己資本比率」は【図表1】の「低PER銘柄:A」かつ【図表2】の「高自己資本比率銘柄:C」に含まれている銘柄である。PERと自己資本比率それぞれで(独立して)グループ分けているため、それぞれのグループの銘柄数は等しくなっていない【図表5】。また、それぞれのグループのパフォーマンスは分析対象であるTOPIX500採用銘柄の単純平均リターンを引いた超過リターンを集計した。
「① 低PER×高自己資本比率」の銘柄の累計超過リターンはほぼプラス圏で推移しており、市場平均を上回って株価が上昇していることが分かる。 PERの銘柄選択効果が逆効果になった2018年以降も、累計超過リターンは上昇こそしていないがほぼ横ばいで推移しており、株価は市場平均並みで推移していた。その一方で「② 低PER×低自己資本比率」の銘柄の累計超過リターンは2018年以降、一貫して下落しており、市場平均を劣後する傾向が顕著であった。
また、低PER銘柄の自己資本比率の水準別の割合は相関があるため、低自己資本比率銘柄の割合が大きくなっている【図表5】。2013年から2016年にかけて相関が強まったため、低自己資本比率銘柄の割合が2012年頃に5割強であったのが2016年以降は約7割までに増加している。
以上から2018年以降、低PER銘柄の中で多い低自己資本比率銘柄が市場平均を下回るパフォーマンスであったため、低PER銘柄全体でみても市場平均を下回る、つまり逆効果になったといえるだろう。
当然、PERの逆効果が続いているのは自己資本比率の影響だけでなく、PER自体の有効性が乏しいこともある。自己資本比率の水準ごとで低PER銘柄と高PER銘柄のパフォーマンス(【図表4】で高自己資本比率銘柄同士である①と③、低自己資本比率同士である②と④)を比較すると、自己資本比率の水準によらず2018年は低PER銘柄が高PER銘柄を下回り、2019年は差がなかった【図表6】。PERを用いた銘柄選択は、自己資本比率の影響を控除しても2018年は逆効果、2019年は明確な効果がなかったといえよう。
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前山裕亮(まえやまゆうすけ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員
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