企業の売上を増加させるには投資が必要となるが、必ずしも成功するとは限らない。ときには失敗し、それにともなう減損処理を迫られることもあるだろう。今回は、投資の失敗を企業の財務諸表へ反映させる減損処理の会計についてご紹介する。
減損処理とは
投資した固定資産による収益が期待以下だった場合、減損処理として投資の失敗を損益計算書に反映しなければならない。早速、減損処理についての概要を説明する。
減損処理の目的
企業が減損処理をする目的は、投資の失敗を減損損失として早期に顕在化させることだ。財務諸表へ反映することにより、ステークホルダーへ開示する。
減損処理の対象資産とは
減損処理の対象は「固定資産」である。具体的には、土地や建物などの有形固定資産、のれんや借地権などの無形固定資産にわけられる。
また、「投資その他の資産」として、長期前払費用に計上される権利金なども対象資産に該当する。
減損処理についてほかの基準に定めがある資産は対象資産ではないことも覚えておきたい。たとえば、金融資産、市場販売用のソフトウェアなどは減損会計の対象外だ。
減損処理とグルーピングの関係
減損処理の対象となる固定資産は、ほかの固定資産と相互に関連して収益やキャッシュフローを生じさせる。その固定資産の最小単位を決めることをグルーピングと呼ぶ。たとえば、一つのエリアに複数の店舗が存在していた場合、原則として各店舗が単位とされる。
減損処理の判断
実際に減損処理をする前段階として、各資産の減損損失について財務諸表に反映する必要性を判断しなくてはならない。ここでは、減損損失の兆候、認識、測定について概略を紹介する。
ステップ1.減損処理の兆候
資産グループのそれぞれを検討するのは容易ではないため、収益性低下などの減損の兆候について把握することが重要だ。資産グループにおける減損処理の必要性を判断する条件は以下の4つである。
・営業活動による損益などのマイナスが続く
企業がおこなう管理会計上の損益区分により、資産を利用する営業活動で損益などが継続してマイナスと判断される場合は減損の兆候となる。
・回収可能価額を急激に低下させる要因がある
事業の廃止や再編成、資産の早期処分など、資産の回収可能価額を著しく低下させる要因は減損の兆候だ。そのほか、資産の用途が決まっていない場合なども同様である。
・経営環境が著しく悪化した
商品販売量の減少や特許期間の終了などによる経営環境の悪化も兆候として察知できる。そのほかにも、重大な法令違反や材料価格の高騰など、経営環境を悪化させる要因はさまざま潜んでいるので見落とさないように気を付けたい。
・市場価格が著しく下落した
市場価格が帳簿価額から約50%以上下落した場合は減損の兆候となる。ただし、50%以上下落していない場合でも減損の有無を判断すべきケースもある。
ステップ2.減損処理の認識
減損の兆候を察知したら、減損処理すべきかどうかを吟味する。具体的には、資産グループから得られる割引前将来キャッシュフローの総額が指標となる。
割引前将来キャッシュフローは、主要な資産の耐用年数にわたって得られるキャッシュフローの総額だ。つまり、資産を使い終わるまでに得られるリターンの合計である。
その総額が帳簿価額を上回っているかを確認するために回収性テストを行い、帳簿価額を下回るのであれば減損損失が発生しているとわかる。
ステップ3.減損処理の測定
減損処理の必要性がはっきりしたら減損損失の計上額を測定する。
減損損失の計上額は、資産グループの帳簿価額から回収可能価額を引いた額だ。回収可能価額は、資産を売却した場合と使用を継続した場合をふまえ、下記の金額から大きいほうを選択する。
①正味売却価額
正味売却価額とは、実際に売却した場合の時価相当額から処分費用見込額を控除した金額である。適正な市場価額がわかる場合にはその価額を採用し、適正な市場価額が不明な場合は下記の算定価額を用いる。
・不動産については、不動産鑑定士による鑑定評価額にもとづき合理的に算定した価額
・そのほかの固定資産については、コストアプローチやマーケットアプローチなどによる見積方法を併用または選択して算定した価額
②使用価値
使用価値とは、割引前将来キャッシュフローを現在価値に割引計算したものである。ちなみに、割引計算は一定の利息を考慮して今現在の価額に直す計算をさす。
減損処理の計算書上の表示方法
ここでは、実際に減損処理を行った場合の決算書上の表示について説明する。
損益計算書
資産グループの帳簿価額から回収可能価額を引いた金額の減損損失を損益計算書上の特別損失に計上する。
貸借対照表
減損処理後の資産については貸借対照表で以下のように表示される。
・直接控除形式
原則として減損処理前の取得原価から減損損失を控除し、控除後の金額をその後の取得原価として表示する。
・独立間接控除形式
減価償却をおこなう有形固定資産は、当該資産に対する減損損失累計額を取得原価から間接控除して表示する。
・合算間接控除形式
独立間接控除形式に代えて、減損損失累計額を減価償却累計額に合算して表示する。
注記事項
重要な減損損失を確認した場合、損益計算書に関する注記事項として、以下の項目を記載する。
・減損損失を認識した資産の用途、種類、場所などの概要
・減損損失に至った経緯
・資産グループについて減損損失を確認した場合、当該資産グループの概要と資産のグルーピング方法
・回収可能価額が正味売却価額の場合、その旨及び時価の算定方法
・回収可能価額が使用価値の場合、その旨及び割引率
減損処理の事例
減損処理の事例として、アオハタ株式会社の有価証券報告書(2018年11月期)の注記を一部抜粋してご紹介する。
当連結会計年度(自 2017年12月1日 至 2018年11月30日) 当連結会計年度において、当社グループは、以下の資産グループについて、減損損失を計上しました。
場所:山形県北村山郡大石田町
用途:カット野菜製造設備
種類:建物及び構築物、機械装置など
減損損失:141,217千円
当社グループは、事業資産については、管理会計上の区分で、遊休資産については、個別の物件単位でグルーピングをおこなっております。
当連結会計年度において、カット野菜の製造設備においては、野菜価格の高騰などによる収益性の悪化により帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失(141,217千円)として、特別損失に計上しました。
その内訳は、カット野菜製造設備141,217千円(建物及び構築物7,141千円、機械装置及び運搬具133,145千円、その他930千円)であります。
なお、回収可能価額は、使用価値により測定しており、将来キャッシュフローを0.59%で割り引いて算定しております。
①減損兆候
カット野菜の製造設備について、野菜価格の高騰などによる収益性の悪化がみられた。経営環境を著しく悪化させる要素だと推察できるため減損兆候が察知できる。
②減損認識
帳簿価額を回収可能価額まで減額していることから減損が確認されている。
③減損測定
正味売却価額と使用価値のいずれか大きいほうを回収可能価額として選択するが、この事例では使用価値により測定し、割引率を0.59%として算定している。
④損益計算書
アオハタ株式会社は上記の測定にもとづき、損益計算書上に減損処理として減損損失141,217千円を計上している。
減損処理は専門家に相談して着実に進めよう
減損処理によって投資の失敗を財務諸表に反映できる。しかし、計上までのプロセスが煩雑であり、一つずつ着実に処理を進めなければならない。本記事が減損処理の手引きとなれば幸いである。(提供:THE OWNER)
文・関伸也