税務調査が好きな経営者は、いないだろう。「徹底的に調べ上げられて、改善点を指摘されるので、その後の経営の参考になる」などというのは強がりで、「余分な税金を取られて迷惑」「あのハラハラドキドキ感が嫌だ」というのが本音ではないだろうか。
税務調査とは?
税務調査は、税務署の職員が納税者の申告が正しいかどうかを判断するために行われる。警察官が職務質問をできるのと同様に、税務署の職員には質問検査権が与えられている。質問検査権は、法人税をはじめ所得税、消費税、相続税、酒税など広範囲に及ぶ。
税務署職員に虚偽の回答をすると相応の処分を受けることになるので、細心の注意を払う必要がある。税務調査を通じて、適正な申告がされていなければ、修正・更生を促して税の公平さを維持している。
ちなみに、国税庁が発表している平成29事務年度の「法人税等の調査事績の概要」によると、年間の法人税等の調査件数は約10万件で、このうち修正/更生となった件数は約7万件。7割の調査で追徴課税が発生している。税務調査では、かなり高い確率で追加の税金が発生すると考えていいだろう。
なぜ税務調査が行われる?
税務調査は、税の公平性を維持するために行われる。日本では、申告納税制度が採用されている。申告納税制度とは、しかるべき税金を各国民(納税者)が自分で計算して納税する仕組み、性善説に立った考え方と言えるだろう。
ルール(税法)に則って正しく税金を納めることが前提となっているわけだが、中には意図的に税額を減らしたり、意図的でないにしても知識不足から本来よりも少ない税金を納めていたりするケースもあるわけだ。このような不公平を是正する目的で、税務調査が存在するのだ。
税務調査はいつ行われる?
法人の場合、一般的に決算日から概ね6ヵ月後に行われることが多い。秋(9~11月)に実施されることが多いと言われるが、これは3月決算の法人が多いからだ。ただし、税務署の年度は7月~6月であり、期をまたぐことは避ける傾向があるので、税務調査は5月後半から6月は少ないようである。
税務調査の対象になるのはどんな企業?
国税庁では、全国にある12の国税局と524ヵ所の税務署を結ぶ「国税総合管理(KSK)システム」を構築している。このシステムを利用して、税務調査対象者を抽出している。抽出される理由の1つに、過去の税務申告書がある。
申告内容に調査すべき事項が認められると、調査対象がピックアップされ、実地調査が行われる。つまり調査官の意図ではなく、KSKシステムからの指示で調査対象が決まるのだ。
具体的には、売上が伸びているが利益が抑えられている、経費が例年と著しく異なる、その業界の景気が良い、開業後業績が好調だが一度も調査をしていない、といった対象をKSKが探し出して、調査の指示を出すのだ。
調査の対象となる年数は、3年が一般的だ。すなわち、調査日の直近3期分が調べられることになる。調査効率の観点から、これ以上長い期間を調査することはほとんどない。
前述のとおり、売上が上昇しているにもかかわらず利益を抑えている法人は狙われやすい。また、過去に不正経理が行われていた法人は要調査法人のレッテルが貼られ、3年周期で調査が行われることが多い。
また、狙われやすい業種もある。売上高をごまかしやすい現金商売(小売店、飲食店、パチンコ店、風俗店など)は目をつけられやすい。
税務調査前の準備の4つの事項
いつ税務調査が来てもいいように、普段から適切な会計処理を行うことが基本だ。いい加減な会計をしていると、その部分を指摘されて後悔することになる。胸を張って「どうぞお調べください」と言えるようにしておきたい。
それでは、実際に税務署から税務調査の打診があった場合の準備について見ていこう。
1.事前通知の際の確認事項
前述のとおり、税務調査の連絡は決算日から6~8ヵ月の間に来る。抜き打ち調査もあるが、一般調査の場合は税理士もしくは納税者本人に連絡が来る。
事前通知では、①調査日時、②調査場所(通常は納税者の事業所など)、③調査の種類(通常は一般調査だが、反面調査という裏付けを取る調査もある)、④調査の対象期間(通常は直近3期分)、⑤調査の予定日数(通常、中小企業では2日間、中堅企業クラスになると3日以上かかることもある)、⑥準備すべき書類(法人の場合は決算書、総勘定元帳、請求書、納品書、各種証憑、組織図、源泉徴収簿など)、⑦調査官の所属部門と氏名などの通知を受ける。
2.調査前の検討事項
事前通知から調査当日までは、2~3週間くらいしかないのが一般的だ。あわてて準備しても間に合わないので、普段から適切に会計処理を行うことが重要になる。通知が来たら慌てることなく、冷静に準備していただきたい。
税務署から提示された調査日程に都合がつかない場合は、遠慮なく変更を依頼することができる。ただし、あまり先送りにすると証拠隠滅などの疑いをかけられることになるので、提示日から1週間前後がいいだろう。
3.用意すべき書類
用意すべき書類については事前通知の際に示されるが、詳しくは以下のとおりだ。
1 会社概要(会社案内など、会社の沿革、組織、役員、主要な取引先がわかるもの)
2 帳簿類(総勘定元帳、伝票、現金出納帳、預金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳)
ただし、現在は紙の帳簿はほとんどなくなり、コンピュータ会計が一般的である。調査の際にパソコンを調査官に渡してしまうと、見られたたくない箇所を見られるおそれがあるので、総勘定元帳を印刷しておき、請求があればその箇所を印刷して渡すといいだろう。
3 売上関係書類(見積書、納品書、請求書、領収書)
4 仕入関係書類(見積者、納品書、請求書、領収書)
5 経費関係(請求書、領収書)
6 在庫関係(棚卸表)
7 預貯金関係(普通預金、当座預金、定期預金の通帳)
8 人件費関係(給与台帳、源泉徴収簿、扶養控除申告書、社会関係書類、議事録)
9 固定資産関係(固定資産台帳、見積書、売買契約書、領収書)
10 その他(不動産の賃貸契約書、保険の契約書)
上記の書類を3期分用意する。なお、決算書や各種帳簿類の保管期間は7年間と定められている。売買契約書については、印紙の貼付をチェックされることがあるので注意したい。
4. 税務調査に臨む際の心構え
調査官は、年間100日以上調査をしているプロである。一方、納税者は数年に1度、依頼している税理士も年間数十日しか調査を経験しない。よって、百戦錬磨の調査官が調査を主導することになる。
しかし、調査官の言いなりになる必要はない。相応の理由があれば、当然調査官の判断を否定すべきだし、指摘事項に納得が行かなければ、納得のいくまで説明を受けるべきだ。
調査では、調査官が質問したことだけに答えればいいのだが、余計なことを話してしまって墓穴を掘ってしまう人がいるので、くれぐれも注意してほしい。
日頃から適正な経理処理を心掛けるとともに、調査前にしっかり準備をして、調査当日は自信を持って臨むことが、最良の心構えと言えるだろう。
税務調査の流れを3ステップで解説!
STEP1.調査の始まり
調査は通常2日間、午前10時から午後4時まで行われる。初日の午前中は世間話から始まり、会社の概要、代表者の経歴、取り扱う商品・サービスの内容などのヒアリングがある。
ここでは、余計な話は避けるべきである。調査官は準備調査を通じて、過去の申告状況から問題点の仮説を立てている。このヒアリングから仮説の検証が始まっており、午後から始まる実地調査で、どの部分に絞り込むかを決めるのだ。2日間という限られた時間なので、調査官にとっては効率良く調査を進める必要があり、このヒアリングが欠かせない。
12時になると一旦調査は中断し、昼休みとなる。この昼休みの間にヒアリング内容を精査し、午後からの調査の絞り込みを行う。経験の少ない調査官によっては、上長に連絡を取り、指示を仰ぐこともある。
STEP2.実地調査
午後から実際の調査が行われる。税額は利益(所得)によって決まる。利益を決めるのは、売上高、仕入高、経費なので、これらが調査の中心になる。
売上高と仕入高については、計上時期が焦点となる。特に、「期ずれ」については入念に調査される。期ずれとは、売上高ならば今期の売上を翌期に計上していたり、仕入高ならばまだ商品が到着していないのに仕入高を今期に計上していたりすることをいう。調査官は、自分の成績に直結する調査対象期間の取引については、特に入念に調べる傾向がある。
また、仕入高に関係する在庫高も細かく調査される。在庫高を少なく申告すれば、その分売上原価が大きくなって利益を圧縮できるからだ。在庫高の操作は容易にできるので、脱税の手法として用いられやすい。調べられても大丈夫なようにしておきたい。
経費については、代表者の私的な費用が混在していないかどうかが問われる。車両運搬具、交際費、消耗品費、旅費交通費、地代家賃(社宅など)など、代表者の個人的な支出でないかどうかが調べられる。また、外注費は曖昧な費用として調べられることが多いので、請負契約書を準備しておいたほうがいいだろう。
STEP3.調査結果の説明
2日目の午後の後半に調査結果が説明され、調査官からの指摘事項の総括が行われる。最近は、質問調書が作成されることが多いようだ。質問調書は取調調書のようなもので、納税者が回答したことを記録したものである。
これには、「言った、言わない」といったトラブルを防止する狙いがある。調査官が、質問調書を一字一句読み上げるので、相違があれば訂正を求めることができる。
納税者が指摘事項を認めれば、修正申告をすることになる。ここで納得できないことがあれば、後日修正申告をするか、あるいは税務署による更生処分の決定を受けることになる。
更生処分とは、調査の指摘事項に従って税額を決定し課すもので、いわば税務署からの一方通行的な追徴課税である。この処分を不服とした場合は、国税不服審判所へ申し立てを行い、審判を受けることで調査が終了する。
税務調査を避けることは不可能
ここまで税務調査について説明してきたが、経営をする以上税務調査を避けることは不可能と言えるだろう。やはり、普段から税法に則った経理処理を行い、指摘されても最小限の課税で済むようにしておくことが大切だ。(提供:THE OWNER)
文・志磨宏彦(税理士)