昨年は大企業によるM&A(合併・買収)が頻発した。中でも10月から年末にかけて、ホンダや日立、東芝、三菱ケミカルホールディングスといった大企業が、M&Aなどによる傘下企業の再編を相次いで発表。2020年もこの流れが続くとの見方が多い。

一方、中小企業では後継者不足が社会問題となっており、その解決の手段のひとつとしてM&Aが活用されている。気になるのは、M&Aされる際の「企業の値段」。はたしてどのような基準で企業の売却・買収の値段が決まるのだろうか。

同特集では、二人の企業査定に関わる専門家に取材。まずは、企業査定のプロセスや手法をひも解き、その後に企業を高く売る、あるいは安く買うにはなにがポイントとなるのか考察してみたい。

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(画像=create jobs 51 / shutterstock.com, ZUU online)
吉永 誠
吉永 誠(よしなが・まこと)
公認会計士。監査法人トーマツを経て、トラスティーズ・コンサルティングLLPに入所。監査法人では金融事業部に所属し、大手金融機関の財務諸表および内部統制監査に従事。トラスティーズ入所後は、金融やファイナンスの経験を生かし、主に株式や新株予約権の評価業務、M&A関連業務を担当している。

後継者不足の問題解決策のひとつとしてM&Aが注目されている

昨年後半は大企業によるM&Aや傘下企業の再編が頻発した。30日にはホンダと日立製作所が、傘下の自動車部品会社など3社を統合することを発表。また、11月には東芝が東芝プラントシステムなど3社を、三菱ケミカルホールディングスが田辺三菱製薬を、いずれもTOB(株式を市場で買い付けること)で取得し、完全子会社化することを打ち出した。

大企業間でM&Aが頻発する理由についてはさまざまな指摘があるが、政府や東証が推し進めようとしている株式市場の再編が大きく関係しているようだ。

一方、昨年2月に中小企業庁が作成したリポートによると、今後10年間で70歳(引退する年齢の平均)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は、全国で約245万人。

そのうち「約半数の127万人の後継者が未定」だという。これは日本企業全体の約3分の1に相当する数字だ。さらに、中小企業庁はリポートの中で、現状のままだと中小企業の廃業が急増すると警鐘を鳴らす。

M&Aは、こうした中小企業の後継者不足問題の解決策の1つとして注目されている。自分の会社を他社に売却することによって、その企業の雇用や技術を守るわけだ。M&A助言を手掛けるレコフによると、2019年の日本企業のM&A件数は4088件。最多だった2018年の3850件を上回り、過去最高を更新した。この中で、事業の継承を目的とした案件は前年比14.6%増の606件にのぼる。

気になるのが、企業の買収や売却の際にどのように値段が決められているのかということだ。そこで出番となるのが「デューデリジェンス(DD=企業査定)」である。公認会計士として多くのM&A案件に携わっている、トラスティーズ・コンサルティングLLPの吉永誠さんはM&Aの流れについてこう話す。

「大きな流れとしては、まずM&Aの仲介会社が企業の売りたい、買いたいというニーズを拾い、その会社の情報をまとめた資料(IM=インフォメーション・メモランダム)を提示して『こんな会社があるんだけど買いませんか』などと営業をかけ、買い手の意向を探ります。買い手から『これくらいの値段なら買ってもいい』という返事(意向表明)が来た段階で、さらに踏み込んだ情報を買い手に与えるため、デューデリが始まることになります」(吉永さん、以下同じ)

最初の段階では、IMのような情報がまとまった資料ではなく、会社の規模や業種だけがのったリストのみ買い手側に提示することもあるという。事業会社は買い手、売り手とも企業査定やM&Aのプロフェッショナルではないため、会社を売りたい、買いたいと考えても交渉の進め方がわからない。そこで、M&A仲介やコンサルタント会社が代理人として間に立って交渉を進めていくわけだ。